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第二章 人として生きる
40 緋色 21
ぐ、と顔を覆った朱木からくぐもった呻きが聞こえる。
「二条朱木さま。如何に公平な裁判所の設けた話し合いの場とはいえ、最低限の礼節はございます。緋色殿下に謝罪を」
皇族を除けば、この国最高位の家の当主である。不敬などと、言ったことはあっても言われたことはあるまい。ますます頭に血が昇ったことは想像に難くない。思わず、本気の笑みが出そうだ。表情を引き締めて、淡い口元の笑みを保つ。
「……一条を名乗っておられた名残を引きずってしまいましたな。皇族を出たり入ったりできるとは、寡聞にして存じませんで」
うん? 謝罪はしていないな。それは、言い訳しただけだ。ま、いいか。
「殺意があると言われたのも納得がいかないな。俺にも乙羽にも身に覚えがない」
「手紙を何度も出して、病気の姉上の治療のために乙羽をこちらに帰すようにお願いした筈です。私は、お屋敷に足も運びました。しかし、殿下は頷いてくださらなかった」
朱空が、怒気を押し殺すように丁寧に言葉を紡ぐ。父より優秀かもしれないぞ。頑張れ。
「渡せない理由は述べた筈。どこかに不備はあったか?」
「姉上を救うと乙羽の命が儚くなるため渡せぬとの、あれですか」
「届いているではないか。手紙で済むものを、屋敷まで大勢で押しかけられて、非常に迷惑だった」
「乙羽は、姉上を救うために存在する。それが、生まれてきた意味であり、やるべきことだ。その中で命を落とすこともあるだろう。仕方のないことだ。そのやるべきことを放棄した。その命は意味を失い、罪だけが残った」
本気でそう思っているのだろう。姉の死を悲しみ、乙羽を睨む様子に、作られた不快さは無い。真っ直ぐにそう、育てられたのだ。
感心するように息子を見つめる砂羽。朱空の言葉を聞いて落ち着いてきた様子の朱木も、その二人を優しい目で見やる。麗しい家族の姿だな。
俺の横では、運ばれてきた緑茶の蓋を興味津々で外した成人が、湯呑みを持ち上げて匂いをかいでいる。多分まだお前には熱いぞ、と思っていると、口をつけてしまった。びくっとして、慌てて湯呑みを置き口を開けている。顎を持って、ちろちろとのぞく舌を見れば赤くなっていた。今まで温かい食べ物を食べたことが無かったと思われるこいつは、とんでもない猫舌なのだ。あーあ、と思いつつその舌をべろ、と舐めると、成人を挟んで横に座っている乙羽が、成人の少し溢したお茶をティッシュで拭きながら、ペチリと俺の頭を叩いた。
「緋色殿下、そこまで。なる、湯気が出てるものは、ふーふーして」
小声で注意される。成人から手を離して前を向くと、麗しの家族がこちらを凝視していた。
あー、話は何だったかな?
「二条朱木さま。如何に公平な裁判所の設けた話し合いの場とはいえ、最低限の礼節はございます。緋色殿下に謝罪を」
皇族を除けば、この国最高位の家の当主である。不敬などと、言ったことはあっても言われたことはあるまい。ますます頭に血が昇ったことは想像に難くない。思わず、本気の笑みが出そうだ。表情を引き締めて、淡い口元の笑みを保つ。
「……一条を名乗っておられた名残を引きずってしまいましたな。皇族を出たり入ったりできるとは、寡聞にして存じませんで」
うん? 謝罪はしていないな。それは、言い訳しただけだ。ま、いいか。
「殺意があると言われたのも納得がいかないな。俺にも乙羽にも身に覚えがない」
「手紙を何度も出して、病気の姉上の治療のために乙羽をこちらに帰すようにお願いした筈です。私は、お屋敷に足も運びました。しかし、殿下は頷いてくださらなかった」
朱空が、怒気を押し殺すように丁寧に言葉を紡ぐ。父より優秀かもしれないぞ。頑張れ。
「渡せない理由は述べた筈。どこかに不備はあったか?」
「姉上を救うと乙羽の命が儚くなるため渡せぬとの、あれですか」
「届いているではないか。手紙で済むものを、屋敷まで大勢で押しかけられて、非常に迷惑だった」
「乙羽は、姉上を救うために存在する。それが、生まれてきた意味であり、やるべきことだ。その中で命を落とすこともあるだろう。仕方のないことだ。そのやるべきことを放棄した。その命は意味を失い、罪だけが残った」
本気でそう思っているのだろう。姉の死を悲しみ、乙羽を睨む様子に、作られた不快さは無い。真っ直ぐにそう、育てられたのだ。
感心するように息子を見つめる砂羽。朱空の言葉を聞いて落ち着いてきた様子の朱木も、その二人を優しい目で見やる。麗しい家族の姿だな。
俺の横では、運ばれてきた緑茶の蓋を興味津々で外した成人が、湯呑みを持ち上げて匂いをかいでいる。多分まだお前には熱いぞ、と思っていると、口をつけてしまった。びくっとして、慌てて湯呑みを置き口を開けている。顎を持って、ちろちろとのぞく舌を見れば赤くなっていた。今まで温かい食べ物を食べたことが無かったと思われるこいつは、とんでもない猫舌なのだ。あーあ、と思いつつその舌をべろ、と舐めると、成人を挟んで横に座っている乙羽が、成人の少し溢したお茶をティッシュで拭きながら、ペチリと俺の頭を叩いた。
「緋色殿下、そこまで。なる、湯気が出てるものは、ふーふーして」
小声で注意される。成人から手を離して前を向くと、麗しの家族がこちらを凝視していた。
あー、話は何だったかな?
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