人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

41 緋色 22

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 俺と乙羽おとわは、はっとして居ずまいを正す。成人なるひとは、ふーふーとお茶を冷まし始めた。可愛いな、おい。表情筋が、緩んでしまう。
 結局、どうしたらいいんだ、この話は。
 裁判官の方を見ると、成人の様子を見て目元を和ませている。俺と目が合うと、困ったような顔で頷いた。

「さて、二条さま。お話は終わりましたか」

 なるほど。裁判所も手を焼いてどうしようもなくて、この場を設けただけのようだ。

「何一つ終わってはおらぬ。乙羽おとわの刑罰はどのようになるのだ」
「裁判所は、申し立てを却下しております。乙羽おとわ姫には、何一つ落ち度はありません。もちろん、緋色ひいろ殿下にも」
美羽みはねを殺した」
「申し立てを受けて裁判所が調べましたが、二条にじょう美羽みはねさまは病死でございました。不審な点は何一つありません。……何度もお伝えした筈ですが。逆に乙羽おとわ姫さえよろしければ、貴殿方あなたがた乙羽おとわ姫への虐待について、裁判所から告発したい」

 穏やかだった語り口が鋭さを持ち始めた。本題はこちらか。

「申し立てを受け、調べれば調べるほど、罪は貴殿方にあるとの結論に達しました。乙羽おとわさま、如何致しましょう」
「……私は、それを望みません」

 目を、ぱちりと瞬いた乙羽おとわが言う。

「もし叶うならば、二条の家とは縁を切り、二度と関り合いにならないようにしたい、とは思います。私は、私の家族に迷惑をかけたくありませんので」

 そう言ってふわりと微笑むと、成人なるひとと俺を見た。その後に、扉の方へ顔を向ける。護衛は中に入れなかったので、扉の外に控える常陸丸ひたちまるを思ったのだろう。俺と成人なるひとも家族なのか。

「絶縁状なら喜んでこちらから渡そう。使えぬ人形ドールはいらん。訳のわからぬことを言うそこの裁判官は、首にしてもらえるよう手を回しておくから、荷物をまとめておくことだ」
「あまり迂闊なことを口になさらない方がよろしい。司法への介入は罪です。この話し合いは記録されている。乙羽おとわさまへの発言だけで、十分に罪に問えるほどです。人を、自分の子を人形扱いとは。美羽みはねさまと乙羽おとわさまの命は等しく同じ」

 裁判官の言葉に朱木あけぎは、信じられない、という顔をした。朱空あけそら砂羽さわも信じられない、という顔をしている。
 命の価値が等しく同じだということが分からないのだろう。あわれなことだ。絶縁状だけ、ありがたくもらって帰ろうと思っていると成人なるひとが口を開いた。

「ドールはもう、いない」
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