【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

3 緋色 39

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 離宮を貰って移り住むことができた。広すぎて使用人がたくさんいるが、自分の金で給料を払うわけではないので、ありがたく使わせてもらうことにした。
 そのうち、以前の規模の屋敷に移りたいところだが、警備の問題からこちらの方がいいと朱実あけみが判断してしまったので、しばらくは移してもらえそうにない。
 引っ越しに追われているうちに、成人なるひとはどんどん動けなくなっていった。少し体調が悪いのか、と思う程度のものが積み重なって、いつしかベッドの上で大半を過ごすようになり、気付けばうつらうつらと寝ている。
 たまに起きて、粥や雑炊を食べてトイレへ行くと、またうつらうつらとしてしまう。
 本人も、申し訳なさそうに眉を下げているのだが、怠そうにしているのをみると心配で仕方ない。
 そのうち、成人なるひとが寝たまま目を開けなかったらどうしよう、という思いにとらわれて、あまり寝られなくなってしまった。
 同じベッドの上で寝息を聞き、ほっと意識が遠のく。少ししたら、途端に胸に不安が襲ってきて慌てて目を覚まし、寝息を確かめて安心することの繰り返し。
 これではいけないと思いつつ、何も手につかなかった。
 生松いくまつは、たぶんこれでいい、などと言ってたまに点滴を打って様子を見るばかり。
 部屋の前に見知らぬ護衛がいる。部屋の中から、楽しげな笑い声。何となく苛々してドアを開けると、成人なるひとが女どもに囲まれて喋っていた。
 青葉あおばの膝の上で完全に体を預けている。俺を見て、にひゃと笑う。飴を食べているのだろう。涎が口の端からこぼれた。
 俺を置いていかないでくれ。
 涎を舐めながら思う。
 胸が詰まって苦しい。
 成人なるひとを見ていてくれるという提案に乗ってベッドに横になる。
 うるさくて寝られる訳がないと思っていたが、女どもの声が妙に心地よくて久しぶりにぐっすりと眠ることができた。
 目を覚ますともう夜中で、成人なるひとの細い右腕がまるで抱き締めるように俺の上に乗っていた。
 まだ、誕生日を決めていない。誕生日パーティーをするんだろう?
 デートをしたいと言ってたじゃないか。
 どうか、俺を置いていかないでくれ。
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