【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

64 緋色 55

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 離宮から王城までは、歩いて十分ほどである。俺と常陸丸ひたちまるの足で。
 成人なるひとは、歩きが遅い上に、きょろきょろとよそ見をするので、なかなか進まない。楽しそうだが、そろそろ急いでほしい。

成人なるひと、お仕事の時間に遅れたら駄目なんだ。抱いてもいいか?」

 渋々頷いたのを抱き上げると、すぐに体重を預けてきた。

「疲れてるなら言え。」
「はーい。」

 返事はするんだが、不調を伝えるのは相変わらず苦手らしい。
 抱いて歩いていると、うつらうつらとし始めた。午前中は、目一杯仕事をしていたのだから、昼食後の今は眠くなる頃である。
 一緒に行きたいと言うから、荘重むらしげもいるし、王城の入り口で別れてすぐに帰らせれば、良い散歩になるかと思っていたが、行く途中で寝てしまうのは、予想外だった。帰りの道を全て、荘重むらしげが抱いて歩くと思うと、嫌である。

「寝ちまった。」

 常陸丸ひたちまるが、顔を覗きこんで呟く。もう、王城の前だった。

「仕方ない。母上に預かって頂こう。」
「へえ?」
「なんだ?」
荘重むらしげさまに連れて帰ってもらえばいいんじゃないですか?」
「……久しぶりに挨拶をしておくよ。」

 寝てしまった成人なるひとを抱いたまま、王城内に入る。皇族用の赤い軍服の俺と、軍服の常陸丸ひたちまるを止める者はいなかった。成人なるひとの頭にも、貴色である赤い帽子がかぶせてあるので、不躾な視線を送る者もいない。荘重むらしげは、いつの間にか姿を消していた。
 皇族の居住区画に足を踏み入れるのは、久しぶりである。人が少なくて静かなところは割と気に入っていた。ほんの時々すれ違う使用人たちが、丁寧に頭を下げていく。母も昼寝の時間かもしれない、と思いつつ、扉を叩いた。

「母上。緋色ひいろです。」
「お入り。」

 常陸丸ひたちまるは扉前に残し、中へ入った。
 揺り椅子から立ち上がってこちらへ迎えに来てくれた母に、驚いた様子はない。すでに、使用人たちから、俺が向かっていると報せが来ていたのだろう。母は、成人なるひとの寝顔を覗いて、あらまあ、と言った。

「お久しぶりです、母上。」
「本当に久しぶりね。」
「この子を預かって頂きたい。」
「いつだって急なんだから。お名前は?」
成人なるひとと言います。俺の、その、大切な奴です。」
「はい。なるひとちゃんね。」

 母は、部屋に控えていた使用人に布団を準備させた。自分の揺り椅子のすぐ横に寝かせるらしい。
 布団に置くと、嫌そうに身じろぎした成人なるひとに、母の優しい手が、ぽんぽんと背中を叩く。寝息は深いものだったので、ほっと見ていると、上掛けをそっとかけた母が、笑っていた。

「では、いってらっしゃい。」

 部屋を追い出されて、とりあえず常陸丸ひたちまるを連れて、会議の部屋へと向かった。
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