【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

77 緋色 58

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 昨日から落ち着きの無かった成人なるひとは、店に入ってしばらく、ぽかんと口を開けて、ただただ周りを見渡していた。

「飴はこの辺りだぞ。」

 と力丸りきまるに呼ばれて、ようやくそちらに動いていく。その間も、ぽかんとしたままだ。あまりの量に圧倒されているんだろう。俺も、驚いた。駄菓子屋ってこんな感じだったか。おやつに興味がある訳じゃないし、子どもの頃に数回、常陸丸ひたちまるに連れてきてもらったが、あまり記憶に無かった。
 飴のところで、成人なるひとが悩んでいる。すぐに傷む訳じゃなし、欲しいものを何でも買ったらいいんだが、自分のお金で買いたいんだろうな。
 プラスチックの入れ物に入ったラムネが気に入ったらしい。手に持って、くるくると中身を見ている。力丸りきまるが、ラムネは口で溶けるから食べられるぞ、と教えていた。

「これ、面白いわねえ。すごい色。」
「うわあ。この色で、美味しいんでしょうか?」

 母上と乙羽おとわのはしゃぐ声が聞こえてきた。母上が外出するのは、随分と久しぶりだ。見知らぬ人に会うのが怖いと震えていたのが嘘のように、病状は落ち着いてきたようだ。先日は、成人なるひとが部屋に来ない、と迎えに出たらしい。城中が驚いたが、決して騒がないようにと通達して、通常の挨拶ですれ違うよう徹底したら、何事もなく歩いて外へ出た。成人なるひとは、母上の部屋へ向かう途中で、蝶々を追いかけていたらしい。ひらひらと飛んでいたと、夜に興奮して教えてくれた。無事に合流した後は、二人で蝶々を追いかけて散歩したのだと聞いて、父上も兄上も驚いていた。
 飴の前で悩んでいた成人なるひとがふらつく。悩みすぎて貧血とか面白過ぎる。抱き止めて、落ち着け、と声をかけるとそのまま俺の腕の中で考えはじめた。

「りっくん、明日、誕生日でしょ?何か買ってあげるよー。」

 乙羽おとわ力丸りきまるの側で、大きな飴を手に、これは?と言っている。

「俺、雑貨屋で選びたいなあ。食べ物は、食べたら無くなるからさ。」
「分かった。後でね。」
力丸りきまる、誕生日なの?」
「おう。俺は明日、十八歳になるんだ。」
「俺も誕生日、あるよ。」
「………いつ?」
「三月十三。」

 成人なるひとが、満面の笑みで言った。そういえば、皆に伝えていなかったか。

「もうすぐじゃん。義姉上あねうえ成人なるひとももうすぐ誕生日だって。」
「あら、おめでとう!なる。何か欲しいものあったら言ってね。」
「なんで?」
「誕生日はめでたいから、プレゼント貰えるんだよ。」
「ふーん。」

 首を傾げているのは、仕方の無いことかもしれない。誕生日を知らなければ、祝われることも無かったろう。その意味も、よく分かってはいないのだ。
 力丸りきまるの誕生日祝いを盛大にやれば、その十日後の自分の誕生日に期待が高まるかもな。明日は、力丸りきまるを祝ってやるか。
 
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