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こぼれ話
雨の日 緋色
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朱実と赤璃が、視察と称した新婚旅行に出かけて二週間。俺は、皇城の執務室で溜め息をつく。
自分のもともとの仕事に加えて朱実の仕事を幾つか預かっているので、離宮の執務室ではこなしきれずに王城に来ているのだが、成人に気軽に会えないだけで気が滅入る。
離宮にいたら食事は一緒に摂れるし、お茶を運んで来てくれるから、いつでも会えるのに。
天気が良ければ、成人がこちらまで散歩してくることもあるだろうが、雨が降っているとそれも難しい。
雨は三日も降り続いていて、仕事を手伝ってくれていた斎が、ついに休んだ。
どうも、雨が続くと手術した頭が痛むらしい。我慢できないほどではない、と仕事をしていて、次の日に起き上がれなくなったり、痛みを逃すために目をつぶったまま気を失ってしまったりを繰り返して、ようやく最近は、早めに休むようになった。
それは成人も同じらしく、頭だけでなく、酷い怪我の痕も痛むようだ。成人も痛いと言えずに何度も倒れて、ようやく、早めに休まないと何日も布団から出られなくなることを学習した。
素直に痛い、辛いと言えるようにはなったが、甘える訳ではない。そこで、辛いから側にいてほしい、と言えるようになればいいんだが、と思いながら雨を眺める。
雨の日に古傷が痛むことについては、二人の頭痛から研究をはじめた生松が、論文をひとつ書き上げた。
気圧の関係で、体の中の液体のバランスが崩れて傷付いた箇所で流れが滞るとか何とか……。難しいことは分からないが、雨の日に古傷が痛む軍人はたくさんいたようだ。治った傷が痛いと言い出せずに、無理をしていた者が多かったらしい。無理をせずに痛み止めを飲んだり、休んだりする方が良いとはっきり言明したことで、優秀な軍人が辞めることも減ったと評価されていた。
斎が休むほどだから、成人も布団にいるかもしれないな、と思って机の上の書類を鞄にまとめる。
仕事を運んでくる者には手間かもしれないが、やっぱり今日は離宮に帰ろう。
離宮に帰ったら、案の定成人は布団で左半身を抱き込んで丸まっていた。
熱は無いかと額を触ると、大丈夫、と声がする。
「寝てなかったのか。」
「うん……。」
目を開けないまま、返事が聞こえる。
「水は飲んだか。」
「んーん。」
「飲めよ。」
「うん。」
目を開けると、頭痛が酷くなるのだろう。返事をしているので起きてはいるようだが、目は開かない。そっと抱き起こして、口移しで水を飲ませた。へらっと口元が綻んで、体をくったり預けてくる。
「俺も疲れたなー。」
そう言うと、成人の右手が背中に回って、ぽんぽんと叩いてくれた。
調子悪いのはどちらなのか分かったもんじゃない、と思いながら上着を脱いで、小さな体を抱き込んで布団に寝転がる。
右手でそっと成人の左半身をさすっていると、少しして寝息が聞こえてきた。
「痛いの痛いの、とんでいけ。」
子どもの頃にしてもらったまじないを思い出して、小さく呟いた。
自分のもともとの仕事に加えて朱実の仕事を幾つか預かっているので、離宮の執務室ではこなしきれずに王城に来ているのだが、成人に気軽に会えないだけで気が滅入る。
離宮にいたら食事は一緒に摂れるし、お茶を運んで来てくれるから、いつでも会えるのに。
天気が良ければ、成人がこちらまで散歩してくることもあるだろうが、雨が降っているとそれも難しい。
雨は三日も降り続いていて、仕事を手伝ってくれていた斎が、ついに休んだ。
どうも、雨が続くと手術した頭が痛むらしい。我慢できないほどではない、と仕事をしていて、次の日に起き上がれなくなったり、痛みを逃すために目をつぶったまま気を失ってしまったりを繰り返して、ようやく最近は、早めに休むようになった。
それは成人も同じらしく、頭だけでなく、酷い怪我の痕も痛むようだ。成人も痛いと言えずに何度も倒れて、ようやく、早めに休まないと何日も布団から出られなくなることを学習した。
素直に痛い、辛いと言えるようにはなったが、甘える訳ではない。そこで、辛いから側にいてほしい、と言えるようになればいいんだが、と思いながら雨を眺める。
雨の日に古傷が痛むことについては、二人の頭痛から研究をはじめた生松が、論文をひとつ書き上げた。
気圧の関係で、体の中の液体のバランスが崩れて傷付いた箇所で流れが滞るとか何とか……。難しいことは分からないが、雨の日に古傷が痛む軍人はたくさんいたようだ。治った傷が痛いと言い出せずに、無理をしていた者が多かったらしい。無理をせずに痛み止めを飲んだり、休んだりする方が良いとはっきり言明したことで、優秀な軍人が辞めることも減ったと評価されていた。
斎が休むほどだから、成人も布団にいるかもしれないな、と思って机の上の書類を鞄にまとめる。
仕事を運んでくる者には手間かもしれないが、やっぱり今日は離宮に帰ろう。
離宮に帰ったら、案の定成人は布団で左半身を抱き込んで丸まっていた。
熱は無いかと額を触ると、大丈夫、と声がする。
「寝てなかったのか。」
「うん……。」
目を開けないまま、返事が聞こえる。
「水は飲んだか。」
「んーん。」
「飲めよ。」
「うん。」
目を開けると、頭痛が酷くなるのだろう。返事をしているので起きてはいるようだが、目は開かない。そっと抱き起こして、口移しで水を飲ませた。へらっと口元が綻んで、体をくったり預けてくる。
「俺も疲れたなー。」
そう言うと、成人の右手が背中に回って、ぽんぽんと叩いてくれた。
調子悪いのはどちらなのか分かったもんじゃない、と思いながら上着を脱いで、小さな体を抱き込んで布団に寝転がる。
右手でそっと成人の左半身をさすっていると、少しして寝息が聞こえてきた。
「痛いの痛いの、とんでいけ。」
子どもの頃にしてもらったまじないを思い出して、小さく呟いた。
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