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第四章 西からの迷い人
49 最後の晩餐 5 一二三
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やがて、人がどんどんとやって来て、挨拶を交わす。離宮の使用人と住人ばかりだった。来賓は私たち三人だけらしい。着替えた半助の隣に壱臣兄上の姿はなく、厨房へ手伝いに行ったとのことだった。
体の大きな老人が、お酒の瓶と疲れてふらふらの人間を一人抱えてやって来て、いい運動をした、と豪快に笑った。
「うちの者がお世話になりました。」
「おう、見込みあるぞ。」
弐角の言葉に、腕の中の人間をどさりと落とす。
「若ぁ、このご老体、無茶苦茶です。」
「お前は、なかなか頑張った。ほら、飲め。」
「今は、冷たい水が欲しいです。」
「付き合い悪いのう。」
「利胤さま。楽しそうなことしてるじゃないですか!」
「おう、力丸、おかえり。」
「手合わせなら、俺も一緒にやりたかったあ。」
「はっはっはっ。」
弐角の護衛か。同じ年頃の、動きやすそうな黒装束の男が、汗で貼りついた長い髪を手ぬぐいで拭きながらへたり込んでいる。
「若。この方は?」
「ん?力丸くんか?ここの住人やそうや。」
「……この屋敷、怖すぎます。勝てる相手がおらん。」
そんな会話を聞いていると、奥の引き戸が開いて白衣の料理人が顔を出す。
「できたぞー。」
「はーい。」
その声に部屋の中の人々がぞろぞろと立ち上がった。首を傾げていると、力丸と利胤と呼ばれていた老人が立ち上がりながら言う。
「お客様は座ってて。食事を持ってきます。」
「才蔵、お前も座っておれ。わしがお前のも若のも運んでやろう。」
「え?俺の分もあるんですか?」
「おお。あちらの二人の分もあるから、席に着かせておけ。」
「え?護衛も?あ、あの、席はどこに?」
「ああ、好きなとこに座ったらいいですよ。」
私の質問への答えはあっさりしていた。
「え?」
「あの座椅子が成人ので、その隣は殿下の席。それ以外はどこでもいいですよ。」
使用人も主人も関係なく、一緒に食事を?席すら自由に?
戸惑いながら、弐角の近くに座る。私と弐角の間に力丸が入ってくれて、反対の横に弐角の護衛の才蔵、その横に利胤が座った。私の隣に、嫌がる母を座らせる。ごねようとしたときに、楽な普段着に着替えた緋色殿下が成人さまを抱いて現れ、母は怒りを抑えながら席に着いた。その横に護衛の二人も座らせると、目の前に盆に乗せた料理が運ばれる。力丸と利胤の他にも、部屋に居た者が手分けして運んでくれたようだった。
殿下も、成人さまを座椅子に座らせると身軽に立ち上がる。
まさか、殿下も?と驚いている間に食事を取りに歩いていく。
誰もが当然のような顔で思い思いの席につき、ほかほかと湯気の上がる食事の前で手を合わせていた。
湯気の上がる食事。毒見も何もなく、受け取ってすぐに食べる食事。……初めてかもしれない。私は自然と手を合わせていた。
質素な食事だ。鶏肉と季節の野菜の炊き合わせ。ご飯、味噌汁、だし巻き玉子。これが、一汁二菜というものか。見慣れたものより濃い色味だが、皇都の特色なのだろうか。
見慣れた色味のだし巻き玉子を口に含んでみる。ふんわりと優しい味がした。
「壱臣さんのだし巻き玉子、美味しいでしょ?」
力丸の声に、ええ、とても、と答えた。母が隣で何か小さな声で言っているが、邪魔しないでほしい。
母上、あなたも味わうべきだ。
これは多分、私たちが壱臣兄上の料理を食べられる、最初で、最後の、晩餐なのだから。
体の大きな老人が、お酒の瓶と疲れてふらふらの人間を一人抱えてやって来て、いい運動をした、と豪快に笑った。
「うちの者がお世話になりました。」
「おう、見込みあるぞ。」
弐角の言葉に、腕の中の人間をどさりと落とす。
「若ぁ、このご老体、無茶苦茶です。」
「お前は、なかなか頑張った。ほら、飲め。」
「今は、冷たい水が欲しいです。」
「付き合い悪いのう。」
「利胤さま。楽しそうなことしてるじゃないですか!」
「おう、力丸、おかえり。」
「手合わせなら、俺も一緒にやりたかったあ。」
「はっはっはっ。」
弐角の護衛か。同じ年頃の、動きやすそうな黒装束の男が、汗で貼りついた長い髪を手ぬぐいで拭きながらへたり込んでいる。
「若。この方は?」
「ん?力丸くんか?ここの住人やそうや。」
「……この屋敷、怖すぎます。勝てる相手がおらん。」
そんな会話を聞いていると、奥の引き戸が開いて白衣の料理人が顔を出す。
「できたぞー。」
「はーい。」
その声に部屋の中の人々がぞろぞろと立ち上がった。首を傾げていると、力丸と利胤と呼ばれていた老人が立ち上がりながら言う。
「お客様は座ってて。食事を持ってきます。」
「才蔵、お前も座っておれ。わしがお前のも若のも運んでやろう。」
「え?俺の分もあるんですか?」
「おお。あちらの二人の分もあるから、席に着かせておけ。」
「え?護衛も?あ、あの、席はどこに?」
「ああ、好きなとこに座ったらいいですよ。」
私の質問への答えはあっさりしていた。
「え?」
「あの座椅子が成人ので、その隣は殿下の席。それ以外はどこでもいいですよ。」
使用人も主人も関係なく、一緒に食事を?席すら自由に?
戸惑いながら、弐角の近くに座る。私と弐角の間に力丸が入ってくれて、反対の横に弐角の護衛の才蔵、その横に利胤が座った。私の隣に、嫌がる母を座らせる。ごねようとしたときに、楽な普段着に着替えた緋色殿下が成人さまを抱いて現れ、母は怒りを抑えながら席に着いた。その横に護衛の二人も座らせると、目の前に盆に乗せた料理が運ばれる。力丸と利胤の他にも、部屋に居た者が手分けして運んでくれたようだった。
殿下も、成人さまを座椅子に座らせると身軽に立ち上がる。
まさか、殿下も?と驚いている間に食事を取りに歩いていく。
誰もが当然のような顔で思い思いの席につき、ほかほかと湯気の上がる食事の前で手を合わせていた。
湯気の上がる食事。毒見も何もなく、受け取ってすぐに食べる食事。……初めてかもしれない。私は自然と手を合わせていた。
質素な食事だ。鶏肉と季節の野菜の炊き合わせ。ご飯、味噌汁、だし巻き玉子。これが、一汁二菜というものか。見慣れたものより濃い色味だが、皇都の特色なのだろうか。
見慣れた色味のだし巻き玉子を口に含んでみる。ふんわりと優しい味がした。
「壱臣さんのだし巻き玉子、美味しいでしょ?」
力丸の声に、ええ、とても、と答えた。母が隣で何か小さな声で言っているが、邪魔しないでほしい。
母上、あなたも味わうべきだ。
これは多分、私たちが壱臣兄上の料理を食べられる、最初で、最後の、晩餐なのだから。
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