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第四章 西からの迷い人
53 巣立ち 2 力丸
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「そちらの問題だろ?だが、離宮は汚すな。」
アイスクリームを口に入れられて、甘かったんだろう。水を飲んでから、殿下は言った。好きじゃないのに、成人があーんって言うと口を開けるんだよなー。あー、甘い甘い。
緋色殿下はもう興味を失ってるが、俺は詳しい事情を調べてこいと朱実殿下に言われてるので、このまま帰す訳にはいかない。……面倒くさい。後でアイスクリームおかわりしてもいいよな?
「まず、さ。当主が指名した名代がいるのに、勝手に名乗ってやって来て、何で入れると思ったの?」
「一二三さんこそが、九鬼の跡取りやからです!」
「指名されてないよね?二人も兄がいるよね?」
「二人?そんなものおりません。」
「いるよね、そこに。何の証もいらないな、と緋色殿下のお墨付きをもらったのは、聞いていたよね。」
「馬鹿馬鹿しい。そちらの問題言うたんは誰や?」
女は普段、自分より身分の高い者がいない環境だから、殿下への敬意を払った態度を保てなくなってきている。それとも、俺が喋ってるから、何とでもなると思っているのか。それこそ俺は今、朱実殿下の名代だぞ。
女が口を開く度に才蔵の額に汗が滲んでいく。汚すなって言われてるし、これ以上九鬼として不敬を重ねたくないし、難しいよな。その上、銃を取り出した時から、この家中のやつの武器は才蔵に向けられている。
「才蔵。手伝いは要るか?」
じい様が、枝豆を摘まみながら言った。酒は大して減っていない。
「いえ。お気持ちだけ頂きます。俺は、やればできる子です。」
冷や汗垂らしながら、才蔵は答えた。お前さ、ここを生きて帰れたら、俺と手合わせしよう。楽しい訓練になりそうだ。
「新しくできたデパートが、少しだけ壊れたことは知ってる?」
「朱実殿下から、修理の請求書と休業に伴う損失分の補てん請求書が届きました。」
弐角さまが平伏したまま答え、銃を突き付けられても静かに座っていた一二三さまが、え?と小さく声を上げた。
「事情は?」
「調べました。その、何故か九鬼の手の者が、常陸丸さまと奥方様の買い物中に襲撃したのだと。しかし、我々の手の者で、捕まった者も怪我をした者もおらず、そちらの女に問い合わせても返事をもらえず、調査は行き詰まっておりました。国では、なかなかその女と女の父親に手を出すことができず、まだ謝罪も金の支払いも待ってもらっている状況です。何故、臣でもなく、それを保護している殿下でも、その伴侶でもない方々を襲撃したのかという疑問もあり、我々としては存じ上げないという姿勢でございます。」
やってもないことに謝罪をしたり、ましてや金を払う訳にはいかないだろう。調べもせずに頭を下げてきたり、金を払ったりしない、そのきっぱりとした姿勢は、流石、西の要と言われるだけのことはある。
女はただ、忌々しげにこちらを睨んでいるばかりだ。何とか口を滑らさないもんか。
そう思っていると、
「母上。何をなさったのです?」
ずっと静かにされるがままだった一二三さまから、かなしげな声が聞こえた。
アイスクリームを口に入れられて、甘かったんだろう。水を飲んでから、殿下は言った。好きじゃないのに、成人があーんって言うと口を開けるんだよなー。あー、甘い甘い。
緋色殿下はもう興味を失ってるが、俺は詳しい事情を調べてこいと朱実殿下に言われてるので、このまま帰す訳にはいかない。……面倒くさい。後でアイスクリームおかわりしてもいいよな?
「まず、さ。当主が指名した名代がいるのに、勝手に名乗ってやって来て、何で入れると思ったの?」
「一二三さんこそが、九鬼の跡取りやからです!」
「指名されてないよね?二人も兄がいるよね?」
「二人?そんなものおりません。」
「いるよね、そこに。何の証もいらないな、と緋色殿下のお墨付きをもらったのは、聞いていたよね。」
「馬鹿馬鹿しい。そちらの問題言うたんは誰や?」
女は普段、自分より身分の高い者がいない環境だから、殿下への敬意を払った態度を保てなくなってきている。それとも、俺が喋ってるから、何とでもなると思っているのか。それこそ俺は今、朱実殿下の名代だぞ。
女が口を開く度に才蔵の額に汗が滲んでいく。汚すなって言われてるし、これ以上九鬼として不敬を重ねたくないし、難しいよな。その上、銃を取り出した時から、この家中のやつの武器は才蔵に向けられている。
「才蔵。手伝いは要るか?」
じい様が、枝豆を摘まみながら言った。酒は大して減っていない。
「いえ。お気持ちだけ頂きます。俺は、やればできる子です。」
冷や汗垂らしながら、才蔵は答えた。お前さ、ここを生きて帰れたら、俺と手合わせしよう。楽しい訓練になりそうだ。
「新しくできたデパートが、少しだけ壊れたことは知ってる?」
「朱実殿下から、修理の請求書と休業に伴う損失分の補てん請求書が届きました。」
弐角さまが平伏したまま答え、銃を突き付けられても静かに座っていた一二三さまが、え?と小さく声を上げた。
「事情は?」
「調べました。その、何故か九鬼の手の者が、常陸丸さまと奥方様の買い物中に襲撃したのだと。しかし、我々の手の者で、捕まった者も怪我をした者もおらず、そちらの女に問い合わせても返事をもらえず、調査は行き詰まっておりました。国では、なかなかその女と女の父親に手を出すことができず、まだ謝罪も金の支払いも待ってもらっている状況です。何故、臣でもなく、それを保護している殿下でも、その伴侶でもない方々を襲撃したのかという疑問もあり、我々としては存じ上げないという姿勢でございます。」
やってもないことに謝罪をしたり、ましてや金を払う訳にはいかないだろう。調べもせずに頭を下げてきたり、金を払ったりしない、そのきっぱりとした姿勢は、流石、西の要と言われるだけのことはある。
女はただ、忌々しげにこちらを睨んでいるばかりだ。何とか口を滑らさないもんか。
そう思っていると、
「母上。何をなさったのです?」
ずっと静かにされるがままだった一二三さまから、かなしげな声が聞こえた。
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