【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

58 そこもまた戦場  緋色

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 ざわざわと周りが揺れた。
 あれは、誰だ。
 緋色ひいろ殿下のお声掛けが?
 九鬼くき
 九鬼くきは晩餐会にも呼ばれなかったはず……。

 成る程。朱実あけみの主催した晩餐会と同じ日に離宮うちの晩餐に呼んだから、九鬼くき朱実あけみから外されたようになってしまったのか。九鬼くき綾女あやめを嵌めるためにあの日付けにしたが、弐角にかくにはいらぬ世話をかけることになったな。
 そういう政治的な駆け引きは、苦手だ。後から失態に気付いて、朱実あけみに何とかしてもらったことは結構ある。そういう意味では、確かに俺は朱実あけみに頭が上がらないんだよな。でもまあ、荒事は引き受けてるから、持ちつ持たれつだ、たぶん。
 そんなことを考えながら、声をかけたついでに一緒に歩いていくかと思っていたら、才蔵さいぞうが俺の後ろを二度見した。なんだ?と振り向くと、つらっとした顔で力丸りきまるが立っている。
 はあ?
 常陸丸ひたちまるはどうした?
 ひゃひゃひゃ、と成人なるひとが声を上げて笑う。体は以前のように動けなくなっても、気配を察知する能力は鋭いままだ。少し前から力丸りきまるに気付いていたのだろう。
 ムカついたので、いきなり腕を上げて力丸りきまるのデコをバチンと弾いた。

「いってぇー。」

 頭を抱えて力丸りきまるがしゃがみこむ。ふん。ざまあみろ。

「殿下。俺、いたずらしに来たんじゃないですよ。仕事です。ひでぇや。」

 立ち上がって小さな声で話しかけてくるが、知らん。

朱実あけみ殿下から伝言です。弐角にかくさまと会いたいけど動けないから、連れてきてって。」

 ああ。早速、晩餐会に呼ばなかった件のフォローか。流石、兄上。
 そう思って振り返ると、俺と違ってにこやかに挨拶に対応している皇太子夫妻は、人に囲まれて身動きが取れなくなっていた。
 ご苦労なことで。
 邪魔の入らない俺は、やすやすとその人だかりに近付いていく。包拳礼を取った者たちが避けてくれた間を進むと、常陸丸ひたちまるが当たり前の顔をして兄上の後ろに立っていた。じろっと睨むと、おかしそうに笑って、流れるように力丸りきまると入れ替わる。
 お前もデコピンしとくか?
 荘重むらしげ成人なるひとの後ろで柔らかく微笑んでいるが、お前も同罪だからな。

「兄上。紹介したい者がおりますが、今よろしいか?」
「ああ、緋色ひいろ。こちらから行きたかったのだが、連れてきてくれたのかい?気が利くね。」 

 少し大袈裟なくらいの物言い。その方が分かりやすくていいんだ、とか言ってたな。この芝居は、必要なこと。
 俺も、朱実あけみとよく似た笑みを口の周りに漂わせる。

九鬼くきの次期当主です。話しやすい男ですよ。」
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