【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

65 話はできなかった  成人

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「殿下、それでは先ほどの話は進めます。もう他に縁もありますまい。」

 朱可しゅかさんから顔を背けた三条のおじさんが声を張り上げた。
 野花のばながびくりと肩を震わせてスプーンを取り落とす。かちゃん、と音が響いて、ますます震えた。落ち着くためか、深い呼吸を繰り返す。
 三条のおじさんの大きな声が怖いのかな?さっきまで、息の合った感じで、二人で緋色ひいろに話しかけていたのに。

「ごちそうさま。」

 美味しかった。お皿にスプーンを置くと、緋色ひいろが、持っていたそのお皿を机に置いて、両手で抱き直してくれた。お腹一杯でそんなことしてくれたら、眠くなりそう。
 うん、満足。
 
「いっぱい食べたな。」
「うん。美味しかった。」
「何でも食えるようになってきたなあ。また、旅行に行くか。」
「ぞう、見に行く。」
「すぐにでも、野花のばなの身の回りの品を離宮に運ばせます。本人も、本日からでも渡せますが。」

 さっきから、この人は何を言っているのだろう?離宮は、緋色ひいろの許可が無ければ、どんな偉い人も入れない。この人たちに許可してないんだから、まずは、行ってもいいですか?って聞いてみなきゃ駄目だよね。

「ペンとメモ用紙は持っているか。」

 緋色ひいろは従業員を一人呼び止めて聞いた。はい、と背筋を伸ばした従業員が頷くと、今度は朱可しゅかさんの方を見る。

「立会人を頼む。」
「ああ、もちろん。」

 そして、俺の向きを変えると縦抱きにして立ち上がった。

緋色ひいろの名において命じる。俺が死ぬまで、三条とその一族郎党全て、俺と俺の伴侶に声をかけること、我が住まいに近寄ることを禁ず。」

 従業員が、一生懸命、紙に文字を書いている。速いなあ。俺もあんな風にさらさらと書いてみたい。格好いい。

「尊き御名によるご命令、承りました。」
「私も確かに、お聞き致しました。」
 
 従業員と朱可しゅかさんが静かに言って、緋色ひいろはそのまま、席に座り直した。
 周りでたまたま聞いていた人が、驚いて動きを止めているし、お話の声もこの辺りだけ止んでいる。しん、とした空間に、ますます顔を赤くした三条の声は、ただただうるさかった。

「な、な、なんという暴挙。こ、このようなことが許されてなるものか!緋色ひいろ殿下!」
「警備隊を呼べ。めでたい席で酔いすぎている。せっかくの宴が台無しになる前に連れ出してくれ。」

 緋色ひいろが従業員に命じて、朱可しゅかさんが三条の前に立ちはだかった。

「三条殿。これ以上はなりません。」

 いくら周りがざわざわと話していても、こんな怒った声の人はいない。会場中の視線が集まる頃に、三条は警備隊に連れ出されて行った。
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