【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

125 焼き  成人

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 おやしろのところから出ると、食べ物のいい匂いがたくさん漂っていた。来るときよりも、匂いにつられちゃう。少しお腹が空いたのかな?それとも、鼻の奥に何となく残っていた髪の美容液の匂いが消えたのかな。

「いい匂いー。」
「何か食べようぜ。」

 俺が言うと、三郎さぶろうの手を引いた力丸りきまるもすぐに答える。
 楽しいなあ!
 じいやも俺の手を繋いで側に居てくれるので、一緒に食べたり遊んだりできる。

「俺、来るときから気になってたんだよな、あれ。たこ焼きってやつ。三郎さぶろう食ったことある?」
「あ、いえ。無いです。」

 たこ焼きと書いた屋台に近寄りながら、力丸りきまるが言った。小さな丸い食べ物。十個入りで三百円。

「いらっしゃい。みやこから来たん?」

 店のおじさんが、鉄板の上のたこ焼きをころころと転がしながら話しかけてくる。
 ころころころ。
 ぽんぽんぽん、と焼けたのを横の入れ物に避けて、白い液体を流す。じゅ、じゅ、じゅ。小さく切った何かの具をぽいぽいと入れていく。
 早業だ。

「なんで分かるんだ?」
みやこの方から来る人は髪が短いからなあ。すぐ分かるで。幾ついる?」
「とりあえず十個入り一つ。」
「三百万円や。」
「え?」
「あはは。みやこの人はノリが悪うてあかんわ。冗談やで。」
「面白いこと言うんだなあ。驚いた。」

 早口で話しながら、手はずっと動いてる。すごいなあ。そして、髪の毛。てっぺんは薄いのに後ろ髪は長くて結んでいる。そうか。本当に皆、髪の毛は長めなんだな。
 三郎さぶろうがうつ向いて、髪の毛をくいっと手で引っ張った。壱臣いちおみもしているのを見たことがある。髪を引っ張る仕草。髪の毛に伸びろって言ってるみたい。……なんで三郎さぶろうは髪を切ったんだろ?
 そんなことを考えてるうちに早口のおじさんが、舟の形の紙のお皿に丸いのをぽんぽんと乗せて力丸りきまるに渡していた。受け取った力丸りきまるが繋いでいた手を離した三郎さぶろうに品物を持たせ、財布からお金を出した。

「まいど。」

 まいど?ま、いいや。きっとありがとうとかそんな意味だ。後ろに人が並び始めた。

「ありがと。」
「坊主、熱いから気い付けな。」

 俺がお礼を言うとおじさんが教えてくれる。確かに、湯気がもうもうと出ている。これは、しばらく食べられそうにないぞ。横に避けて立ったまま食べている人も多いので、俺たちも道の端で立っている。
 力丸りきまるが、少しふーふーしただけでぱくっと食べた。大きい口だなあ。

「あちぃ!」

 はふはふ、と口を開けたら口から湯気が出てきた!うわあ、大変。力丸りきまるがこれじゃ、俺には食べられないよ。

「おお。美味しい。たこがいい味だなあ。噛み応えが……。」

 そう言ってから俺を見て、

成人なるひとはたこは止めとけ。」

 と言った。
 ええ?たこ焼きからたこを抜いたら、

「焼きになっちゃう。」
「お前のは焼きだ。」

 んー。でも確かにたこは噛んで飲めそうにない。
 じいやが、たこ焼きをつまようじで器用に半分に割って差し、渡してくれた。たこはぽろりと皿に落ちている。しっかりとふーふーして、口に入れた。
 まだ熱い。でも。

「美味しい!」
「それはようございました。」

 じいやは、割った半分をたこも差して三郎さぶろうに渡す。

「あ、ありがとうございます。」

 三郎さぶろうも熱いの苦手だもんね。

「あ、美味しいです。」
「美味しいねえ。」
「はい。」

 じいやも一つ丸ごと、ぱくりと食べた。

「おお。これはこれは。」

 じいやがにこっと笑う。

「これ、帰ったら作ってもらおうな。壱臣いちおみなら知ってるんじゃないか。」

 うんうん、と俺は力丸りきまるに力強く頷いた。
 焼き、美味しいー。
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