【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

54 皇太子の独り言 3  朱実

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 敵方の実情を知ってみれば、緋色ひいろの決断は最善の一手であったと断言できる。それでも私は、弟にその罪を背負わせたくはなかった。誰か他の者に、そのぼたんを押させることはできなかったのか、と後手後手に回った自分を責める。
 ……そして、緋色ひいろを恐れた。
 手回しの早さ、決断の早さ。本気を出した緋色ひいろに、私は勝てない。
 戦地から帰った緋色ひいろが、皇家から出て屋敷に引きこもることを許したのは、緋色ひいろの精神状態を心配したから、だけじゃない。
 私は……恐ろしかったのだ。軍を掌握した第三皇子が。
 急いで戦争を終わらせた理由が、一体の戦闘人形ドールの命を救うため、というのも、本気なのかどうか。本気なら、もはや正気ではない。何もしないと言うなら好都合だと、屋敷を見張りつつ好きにさせた。
 戦闘人形ドールと心を交わしたと聞いたときは、私の大切な弟は本当に壊れてしまったのかと絶望し、赤虎せきとらの、戦闘人形ドールを拐う企みを陰ながら応援した。緋色ひいろの心の平安を願って捨て置いたが、心を交わしたなどと度が過ぎる。その存在が無くなれば、目も覚めるだろうと考えた。
 ……赤虎せきとらでは、全く相手にならないことを思い知らされただけだった。身分差というハンデも渡したのに。
 お前の愛し子に会いたい、と押し掛けて銃を向けたとき、私は本気でお前の人形を撃つつもりだった。あわよくば、と思っていた。常識的な常陸丸ひたちまるが、その存在に少しでも否定的であれば、守ることに一瞬の躊躇ためらいがうまれる。そこに、戦闘人形ドールを消す隙があるかもしれない、と。私の考えを嘲笑うかのように、常陸丸ひたちまる躊躇ちゅうちょなく私の銃を叩き落とし、護衛を蹴り飛ばした後、ご丁寧にも私の腕を押さえた。緋色ひいろの投げたナイフは私の頬をかすった。
 戦闘人形ドールは、緋色ひいろの大切なものだと、認めざるを得ない。
 私は、本心をひた隠し、あの子なるひとに笑いかける。私が隠そうとした心を、誰も見抜ける訳がない。
 そうして、穏やかに見張っていた筈が、見張りの一ノ瀬いちのせさえ奪われる結果とは……。
 こんこん、と扉が叩かれる。

「そろそろお時間です」

 力丸りきまるの声。あの子も、私が成人なるひとを疎んじていると知れば、私に牙を剥くのだろうか。

「入っていいよ」
「失礼します」

 まだ起きない緋色ひいろの頭を撫でながら言うと、扉が開いて、よく似た顔の兄弟が、よく似た声で挨拶をして入ってくる。
 寝ている緋色ひいろを見て、げ、と言ったのは力丸りきまるか?緋色ひいろは、寝起きが悪いのだったっけ?私の知らない緋色ひいろのこと。
 全く、どちらが家族か分かったものじゃないな。

緋色ひいろ。時間だよ」
「む……」

 頭をぽんぽんと叩きながら言うと、渋い顔で目を開ける。間近に私を確認して、はあ?と声を上げた。
 すごい勢いで離れて、ソファに突っ伏す。
 何だろう?照れてる風には見えなかったが。
 髪をかきむしり始めた手を、乱れるからやめろ、と常陸丸ひたちまるが押さえると、

「あああー!」

 と一声吼えた。

「え?何?」
「我慢してます」
「何を?」
「色々」

 力丸りきまるの言ってることが全く分からない。緋色ひいろのこんな様子は見たことがなかった。
 お前たちには分かるんだね。少し、いや、かなり悔しいよ。
 けれど、それらの気持ちも全て、笑顔に隠す。
 そうか。緋色ひいろは大丈夫なのか。
 私はがっかりして、思う。お前は先ほど、朱実あけみも、一番大切な者を手放したりしないだろう?と聞いたね。そう。私はを手放したりしないよ。
 いつか、寿命の短いだろう人形なるひとが消えた時に、寄り添ってあげようと思っていたというのに。
 お前の中での、私の存在の位置を今、知らされた。少し泣きたい気分だ……。
 
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