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第五章 それは日々の話
61 鼓与のなりたいもの 3 成人
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「いえ。先ほども言いましたけれど、今は休憩時間なので仕事ではないですね」
鼓与は、温かいお茶を四つ作業机に置いて、机の前に椅子を引っ張ってきて座る。
「ありがとな、休憩中に」
「俺も。ありがと」
鼓与は、ひらひらと手を振った。
「お茶を淹れるついでです」
「そういうことじゃない!」
重嗣の大きな声に、びくん、と体がはねる。びっくりした。俺のお腹を押さえていた力丸が、きゅっと手に力を入れてくれた。大丈夫……大丈夫。
「今まで、あんなに頑張って鍛えていたのに、料理の手伝い?掃除?洗濯?そんなことするために修行した訳じゃないだろ?何でだよ、何でなんだよ。お前は、誰より頑張ってたじゃないか。それが、なんで……」
重嗣は、早口でどんどんしゃべるうちに声が小さくなっていって、うつ向いて唇を噛んでしまった。
うーん?
「私がどんな仕事を選ぼうと、重嗣さまには関係がないか、と」
「……俺は、昨日の技合わせで同級筆頭を取った。次期当主候補に入れた」
「おめでとうございます」
「お前も、女筆頭を取ると思っていた」
「…………何故?」
「ずっと、言ってただろ?当主の嫁に選ばれるように頑張ってるって」
「ああ。そうでしたね」
「何で腑抜けちまったんだよ。俺は、お前を追いかけて頑張っていたのに」
鼓与は、首を傾げてお茶をすすった。
もう、熱くない?
俺も飲むー。
ミックスジュースのコップを机に置いて、お茶に手を伸ばす。力丸が、器用に俺のお腹を押さえる手の力を緩めてくれる。
「まだ熱いぞ。気を付けろよ」
あっという間にご飯を食べ終えた力丸も、お茶をすすってから言った。
ふーふーするから、大丈夫。あったかいのは好きなんだ。
「よく分かりませんが……」
「夢を見失ったのかよ?何か変わっちまったのか?」
「いえ?私のなりたいものは、小さな頃から変わりませんけど?」
なりたいもの?
「なりたいものって何?」
「それは、秘密です」
そうじゃなくて。
「あー、あれだ。なりたいものって言葉の意味だな。なりたいものを聞いてる訳じゃない」
力丸の言葉に、ああ、と鼓与が言った。
「子どもの時分によく言い合う、たわいないお話です。大きくなったら、大人になったら、どのくらい強くなってるだろう、どんな見かけになってるだろう、どんな仕事をして暮らしてるだろう、と想像するんです」
大人になったら。
今日を生き延びた、先の話。明日の明日のまた明日。
「ま、お前には難しいか」
力丸が、俺の左腕をそっと擦りながら笑う。
確かに、そんなこと、考えたことはなかったけど。
「俺、もっと大きくなるんだー」
今なら言える。
「壮大な夢だな」
そうだいって何だ?
聞くのが悔しいから、後で辞書で調べよう。
「重嗣は、鼓与より強くなるのが、なりたいもの?」
「とうに、俺の方が強い」
俺の言葉にかみつく。
じゃあ、何?鼓与のなりたいものが何でも、重嗣には関係なくない?
首を傾げていると足音が聞こえる。
やべ、と力丸が言った。
「力丸、いくらなんでも遅いぞ」
厨房に姿が見える前から、村次の声は聞こえた。
休憩終わりの時間かな。
鼓与は、温かいお茶を四つ作業机に置いて、机の前に椅子を引っ張ってきて座る。
「ありがとな、休憩中に」
「俺も。ありがと」
鼓与は、ひらひらと手を振った。
「お茶を淹れるついでです」
「そういうことじゃない!」
重嗣の大きな声に、びくん、と体がはねる。びっくりした。俺のお腹を押さえていた力丸が、きゅっと手に力を入れてくれた。大丈夫……大丈夫。
「今まで、あんなに頑張って鍛えていたのに、料理の手伝い?掃除?洗濯?そんなことするために修行した訳じゃないだろ?何でだよ、何でなんだよ。お前は、誰より頑張ってたじゃないか。それが、なんで……」
重嗣は、早口でどんどんしゃべるうちに声が小さくなっていって、うつ向いて唇を噛んでしまった。
うーん?
「私がどんな仕事を選ぼうと、重嗣さまには関係がないか、と」
「……俺は、昨日の技合わせで同級筆頭を取った。次期当主候補に入れた」
「おめでとうございます」
「お前も、女筆頭を取ると思っていた」
「…………何故?」
「ずっと、言ってただろ?当主の嫁に選ばれるように頑張ってるって」
「ああ。そうでしたね」
「何で腑抜けちまったんだよ。俺は、お前を追いかけて頑張っていたのに」
鼓与は、首を傾げてお茶をすすった。
もう、熱くない?
俺も飲むー。
ミックスジュースのコップを机に置いて、お茶に手を伸ばす。力丸が、器用に俺のお腹を押さえる手の力を緩めてくれる。
「まだ熱いぞ。気を付けろよ」
あっという間にご飯を食べ終えた力丸も、お茶をすすってから言った。
ふーふーするから、大丈夫。あったかいのは好きなんだ。
「よく分かりませんが……」
「夢を見失ったのかよ?何か変わっちまったのか?」
「いえ?私のなりたいものは、小さな頃から変わりませんけど?」
なりたいもの?
「なりたいものって何?」
「それは、秘密です」
そうじゃなくて。
「あー、あれだ。なりたいものって言葉の意味だな。なりたいものを聞いてる訳じゃない」
力丸の言葉に、ああ、と鼓与が言った。
「子どもの時分によく言い合う、たわいないお話です。大きくなったら、大人になったら、どのくらい強くなってるだろう、どんな見かけになってるだろう、どんな仕事をして暮らしてるだろう、と想像するんです」
大人になったら。
今日を生き延びた、先の話。明日の明日のまた明日。
「ま、お前には難しいか」
力丸が、俺の左腕をそっと擦りながら笑う。
確かに、そんなこと、考えたことはなかったけど。
「俺、もっと大きくなるんだー」
今なら言える。
「壮大な夢だな」
そうだいって何だ?
聞くのが悔しいから、後で辞書で調べよう。
「重嗣は、鼓与より強くなるのが、なりたいもの?」
「とうに、俺の方が強い」
俺の言葉にかみつく。
じゃあ、何?鼓与のなりたいものが何でも、重嗣には関係なくない?
首を傾げていると足音が聞こえる。
やべ、と力丸が言った。
「力丸、いくらなんでも遅いぞ」
厨房に姿が見える前から、村次の声は聞こえた。
休憩終わりの時間かな。
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