【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
578 / 1,325
第六章 家族と暮らす

13 俺は好きじゃなくなった  緋色

しおりを挟む
「手際が悪く、申し訳ございません。私はこちらの仕事を引き継いだばかりで、まだまだ勉強中でございまして」

 八条薫が、深く頭を下げた。

「そうか。前任者は?」
「定年退職致しました。慣例では、同じ部署内から次の長を出すのですが、戸籍課にちょうど良い家格の者がおらず、私が他の部署よそから引っ張ってこられたばかりです」
「これまでは、どんな仕事を?」
「御前会議で出された案を検討して、法へと整備する部署です。あちらには他にも、の名を持つ者が幾人かおりますので、一人戸籍課へ出してくれないか、と話があり、年齢的にもちょうど良いと私が引き受けました」
「そうか。それは、大変だな」

 畑違いの部署でいきなり長を勤めるとなれば、色々と苦労も多かろう。しかし、ある程度の家格の者が長でなければ、他の部署や各家からの横やりや圧力をはね除けられず、業務に支障が出ることも確かだ。

「いえ、まあ、そうなんですが、ちょうど私の推し進めたい法案に、戸籍課での仕事が合致していたもので、これ幸いと引き受けた次第で」
「そうか」

 八条は、研究者の気質が強い者が多い。何かに夢中になると、それの探求に突き進むと聞いたことがある。八条の元当主は畑仕事が好きで、突き詰めて農薬や堆肥の研究を始めたのだったか。息子が二十歳になるなり当主仕事の引き継ぎをして、とっとと研究室に引きこもった。
 現当主も、早くに結婚して子どもを授かり、着々と早期引退計画を練っているようだ。たからは、何に夢中なのだったか。化石?遺跡?
 まあ、いいか。
 で、この八条薫は、何やら一つの法案に夢中なあまり、家格の高い者が避けがちなこの戸籍課の長を引き受けたと。

緋色ひいろ殿下にお会いできるとは、光栄です。一度、じっくりとお話がしてみたかった。私の成し遂げたい法案は、殿下の発案ですから」
「へ?」
「実は」

 八条薫が、滑らかに話し始めた所へ扉が叩かれ、婚姻届の担当者らしき者が入ってきた。一人で来る勇気は無かったのだろう。四人もいる。全員で来たら、業務が滞るのじゃないか?俺の婚姻届の行方だけ教えてくれたら、それでいいんだが。
 震えながら包拳礼の姿勢を取る面々を眺めて、いつものように、礼はいい、顔を上げよ、と言った。
 成人なるひとと八条薫に、すっかり毒気を抜かれた感じだな。

緋色ひいろ殿下と成人なるひとさまの婚姻届は、確かに受け取っております」
「ああ、それで?」
「同性の婚姻を認めるとの法が施行されてすぐに、緋色ひいろ殿下の戸籍を作成する予定でした。しかし、成人なるひとさまの年齢がはっきり分からないから少し調べると朱実あけみ殿下が仰って戸籍の作成が延びました。ちょうど年齢についても、義務教育がすんだばかりではまだ家を構えるには稼ぎが足りない、婚姻は十五歳以上というのは早いのじゃないか、と議論が始まっていたらしく……」

 四人のうちでも年嵩の者が、震えながらも説明を述べた。議論の辺りで八条薫へと視線を送る。

「ええ。話は出ていましたね。しかし、名字無しの者たちは義務教育を終えてすぐに働き始める者がほとんどで、夫婦で共に働いているので、稼ぎが足りないとの理由であるならば当てはまらない、従来通りで構わないと結論が出ましたよ。我が国の婚姻可能年齢は十五歳以上のままです。ただし、十八歳未満の婚姻には両親、又は保護者にあたるものの了承の署名をもらうこと、という一文が書き添えられました」

 流石は専門家。すらすらと説明を引き継ぐ。

「ああ。なら、何一つ問題ない。成人なるひとは十八歳になった。今、戸籍を作成しろ」

 まじまじと、八条薫が成人なるひとを見ている。何か言いたそうだな。これでも乙羽おとわより背は高いんだぞ。

「あの、それが、婚姻届が、その、見当たらず……」

 失くした?
 いや、これは……。
 はあ、と溜め息が出た。
 消えかけていた怒りが、再燃する。

朱実あけみは、俺の婚姻を認めないってことか」
「皇族を外れて、一条に出た痕跡も無い綺麗な戸籍……。緋色ひいろ殿下のこと、好きすぎでしょ」
「気持ち悪いこと言うな」

 軽口を叩く常陸丸ひたちまるに、本気の渋面を向ける。
 ああ、本当に。
 どうしてくれようか。
しおりを挟む
感想 2,501

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

処理中です...