641 / 1,325
第六章 家族と暮らす
76 金魚がいるならいつか 緋色
しおりを挟む
「ここも、お前の、お前たちの家だと覚えておいてくれ」
「…………」
父の、懇願するかのような声に返事はできなかった。俺は今、この家に帰れなくなっても、大した感慨はないのかもしれない。
「おうち?ここ?」
俺の腕の中で成人が首を傾げる。
「そうだ、成人。ここは緋色のおうちなんだ。伴侶のお前のおうちでもある」
「なんで?なんで緋色のおうち?」
「緋色さんは、ここで生まれてここで育ったの!だから!だから、ここに帰ってくるの」
母の甲高い声に驚いた成人が俺の服をぎゅっと握り、俺を見た。
「ここで生まれて育ったのは間違いないが、もう結婚して自分の家庭を持っている。このうちは出たんだ。いつもの家が俺たちのおうちだぞ」
二人して、成人を混乱させるようなことを言わないでくれ。
俺に、こくこくと頷いた成人に父が目を向ける。
「成人」
俺ではなく、成人に何かを言うつもりか。
「お前は私のことを、父さまと呼んでくれているだろう?それは、家族への呼び名だ。家族の住む家へは、いつでも帰ってきて良いのだよ?伴侶と共に、帰ってきてよいのだ」
ふーん、とやはりよく分かっていない様子で呟いた成人は、俺の服を掴んだまま、少し考える。
「父さま、は家族の呼び名。母さまも?」
「ああ、そうだ」
「ふーん」
きょろきょろと右目が動く。知りたいことがあるなら聞いてくれたらよいのだが、辞書で調べることを覚えてからは、あまり聞いてくれなくなった。後で調べるからいい、と言われることも多い。まあ、正確な情報が身に付く方がいいだろう、とは思うが、たまには頼ってほしい。
「父さま、は何だと思ってたんだ?」
「父さまが、そう呼んでって言った」
「母さまも?」
「うん」
「そうか。それは、父上や母上と同義だな。生んで育ててくれた者へ、その子どもが呼びかける呼称だ」
「えええ!俺、父さまと母さまから生まれた?」
「違う」
「あ、うん」
すんなり納得したか?
それなら良かった。
「伴侶の父と母に呼びかけることもある」
「伴侶の……緋色の?ああ、じゃあ合ってる」
「まあつまり、城にも好きに出入りできるってこった」
「でも、この前、入ったら駄目って言われた」
皇族専用入口だな。
「じゃあ来なくていいんじゃないか?」
「そっか。緋色が来ないなら来なくていいけど」
「成人。緋色は仕事をしにお城へ来る」
父が慌てて言うが、来なくてすむなら来ない。
「おうちの仕事と違う?」
「いや、違わない。おうちでいい」
ぱちぱちと成人の右目が瞬いた。
「じゃあまた今度、金魚に会いに来るね」
「あ、ああ。そうしなさい」
「うちでも金魚を飼ってもいいぞ?」
「金魚なら、私の部屋にいるわ。ね?そうでしょう?」
母が今の様子であるなら、成人は決して近寄らせない。
駄目だ、と幼い頃の俺が警告する。
「うーん。おうちに金魚いたらずっと見ちゃうから……」
「そうか」
「母さま、また今度」
成人が、真っ直ぐに母を見て言った。
「また今度、金魚に会いに行くね」
「え、ええ……」
しばらく会っていないから金魚に会ってから帰ると言うかと思ったが。
ちょうど良いから成人を抱いたまま立ち上がった。
「今日は帰る」
もう、引きとめられることはなかった。
「…………」
父の、懇願するかのような声に返事はできなかった。俺は今、この家に帰れなくなっても、大した感慨はないのかもしれない。
「おうち?ここ?」
俺の腕の中で成人が首を傾げる。
「そうだ、成人。ここは緋色のおうちなんだ。伴侶のお前のおうちでもある」
「なんで?なんで緋色のおうち?」
「緋色さんは、ここで生まれてここで育ったの!だから!だから、ここに帰ってくるの」
母の甲高い声に驚いた成人が俺の服をぎゅっと握り、俺を見た。
「ここで生まれて育ったのは間違いないが、もう結婚して自分の家庭を持っている。このうちは出たんだ。いつもの家が俺たちのおうちだぞ」
二人して、成人を混乱させるようなことを言わないでくれ。
俺に、こくこくと頷いた成人に父が目を向ける。
「成人」
俺ではなく、成人に何かを言うつもりか。
「お前は私のことを、父さまと呼んでくれているだろう?それは、家族への呼び名だ。家族の住む家へは、いつでも帰ってきて良いのだよ?伴侶と共に、帰ってきてよいのだ」
ふーん、とやはりよく分かっていない様子で呟いた成人は、俺の服を掴んだまま、少し考える。
「父さま、は家族の呼び名。母さまも?」
「ああ、そうだ」
「ふーん」
きょろきょろと右目が動く。知りたいことがあるなら聞いてくれたらよいのだが、辞書で調べることを覚えてからは、あまり聞いてくれなくなった。後で調べるからいい、と言われることも多い。まあ、正確な情報が身に付く方がいいだろう、とは思うが、たまには頼ってほしい。
「父さま、は何だと思ってたんだ?」
「父さまが、そう呼んでって言った」
「母さまも?」
「うん」
「そうか。それは、父上や母上と同義だな。生んで育ててくれた者へ、その子どもが呼びかける呼称だ」
「えええ!俺、父さまと母さまから生まれた?」
「違う」
「あ、うん」
すんなり納得したか?
それなら良かった。
「伴侶の父と母に呼びかけることもある」
「伴侶の……緋色の?ああ、じゃあ合ってる」
「まあつまり、城にも好きに出入りできるってこった」
「でも、この前、入ったら駄目って言われた」
皇族専用入口だな。
「じゃあ来なくていいんじゃないか?」
「そっか。緋色が来ないなら来なくていいけど」
「成人。緋色は仕事をしにお城へ来る」
父が慌てて言うが、来なくてすむなら来ない。
「おうちの仕事と違う?」
「いや、違わない。おうちでいい」
ぱちぱちと成人の右目が瞬いた。
「じゃあまた今度、金魚に会いに来るね」
「あ、ああ。そうしなさい」
「うちでも金魚を飼ってもいいぞ?」
「金魚なら、私の部屋にいるわ。ね?そうでしょう?」
母が今の様子であるなら、成人は決して近寄らせない。
駄目だ、と幼い頃の俺が警告する。
「うーん。おうちに金魚いたらずっと見ちゃうから……」
「そうか」
「母さま、また今度」
成人が、真っ直ぐに母を見て言った。
「また今度、金魚に会いに行くね」
「え、ええ……」
しばらく会っていないから金魚に会ってから帰ると言うかと思ったが。
ちょうど良いから成人を抱いたまま立ち上がった。
「今日は帰る」
もう、引きとめられることはなかった。
1,308
あなたにおすすめの小説
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました
小池 月
BL
大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。
壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。
加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。
大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。
そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。
☆BLです。全年齢対応作品です☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる