【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

2 もう起きない  成人

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「ばあば!」

 吉野よしのが何にも言わないから、末良すえよしはよちよち歩いてお布団に近付いた。俺は慌てて末良すえよしを右手で抱える。持ち上げられないから、ずりずりと引きずった。

「なうしゃ?」

 と、俺を呼んで振り返る末良すえよしをお布団から少し離して、吉野よしのの首もとに手を当てた。まだ温かい。でも、何にも動いていない。
 
成人なるひとさま」

 じいやが横に立って首を横に振った。俺は、頷く。

「なうしゃー」

 末良すえよしが、見慣れない人に驚いて俺の背中にしがみついた。俺は右手で、ぽんぽんとそのお尻を叩く。
 じいやがすぐに出ていったので、末良すえよしはまた俺から離れて、ばあば、と言った。

末良すえよし。ばあばに触れちゃ駄目だ」
「ばあば、ねんね」

 そうだね。寝てるみたいだ。吉野よしのは、苦しまなかったんだろう。寝てるまんまの顔だった。いつもの、優しい、吉野よしのの。
 すぐに足音がして、斑鹿乃むらかの乙羽おとわが駆け込んできた。

「おばあさま?」
吉野よしの?」

 俺は、末良すえよしを抱えてずりずりと下がる。

「かあしゃ」

 斑鹿乃むらかのに飛び付こうとする末良すえよしのお腹を、ぐっと抱えて座り込んだ。

「なうしゃ、いや」
末良すえよし、待って。俺と遊んで待っていよう?」
「いや。かあしゃ」
「ちょっとだけ。ちょっとだけ待って」

 俺と末良すえよしがそんなことをしている間に、いや、と乙羽おとわが声を上げた。

吉野よしの吉野よしの、起きて?」
「おばあさま?何で?だって、お昼も一緒に食べて……。何も、いつもと違うことなんて……」

 入り口に半助はんすけが立って中を覗き、俺の手から抜けようともがいている末良すえよしを片手で抱き上げた。
 きょとんとした後で、半助はんすけの顔を見て、うううーと末良すえよしが唸る。あんまり知らない人に抱っこされたから泣こうとしたけど、泣くのも怖くて困ってるのかも。

荘重むらしげさまが離宮に走られました。すぐに、医師と旦那さま方を連れて来られると思います」
「分かった」

 乙羽おとわ斑鹿乃むらかのの静かな泣き声と、吉野よしのに呼び掛ける声が部屋に響く。末良すえよしも泣き出して、半助はんすけは、そっと斑鹿乃むらかの末良すえよしを渡した。

「かあしゃ。ばあば、ねんね」

 一番安心できる腕にしがみついてすぐに泣き止んだ末良すえよしが、斑鹿乃むらかのに一生懸命説明している。その言葉に、乙羽おとわ斑鹿乃むらかののしゃくり上げる音が更に大きくなった。
 俺の、鼻の奥も、つんと痛い。
 末良すえよし。ばあばはもう、目を覚まさない。
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