731 / 1,325
第七章 冠婚葬祭
20 約束 乙羽
しおりを挟む
「祖母は最近ずっと、私は幸せ者だって言ってました」
少し落ち着いた斑鹿乃が、私から離れて涙を拭く。
「私は幸せ者だ。ひ孫は可愛いし、孫の婿さんは働き者だし、斑鹿乃と乙羽さまは幸せそうだしって」
「わたし……たちが幸せそうだから、吉野も幸せなの?」
「はい。そうなんですって」
「そうなの……」
吉野の幸せは、他の人が幸せでいるのを見ることだったの?
首を傾げる私に、斑鹿乃はふふ、と笑う。
「何となく、分かります。私も今日、乙羽さまがお元気でいらして幸せでした」
「え?」
「きっと、悲しんでくださっていると思ったから。祖母がいなくなった事実に押し潰されていらっしゃらなければいいのに、と気に掛かっておりました」
そう……そうね。
吉野がいないのに、どうして私は生きていかなければいけないの、とは思ったわ。吉野がいなければ、とうに無かった命。共に無くなってもいいのじゃないかって。
でも。
「常陸丸と約束したから。二人で長生きするって」
「はい」
「忘れそうだったけど、なるが思い出させてくれたから」
「はい」
斑鹿乃は笑って頷いた。
「私とも、約束しませんか。おばあちゃんになっても、こうして一緒にお話をするって」
「おばあちゃん……。私が?」
想像もできなくて、笑ってしまう。自分は長生きできないと知っていたから。けれどよく考えたら、予想より遥かに長く生きている。
「ええ。おばあちゃんですよ。末良の子どものお世話を一緒にするんです」
末良の子ども。末良の……?
今なるの膝の上で、絵本を読んでもらって大笑いしている小さな子どもが、私たちのような大人になるまでの長い時間を共に生きると約束しろって言うの?
「大変なことを、言うのね……」
それは、とても壮大な夢。
「そうでもありません。あっという間です。あっという間。末良なんて、ほんの少し前までこの世界に居なかったんですからね」
「ふ、ふふ」
この世界に、って大袈裟ね。でも、そうなのかしら。そういえば斑鹿乃は、小説を読むのが好きだった。
「何の本の受け売り?」
「最近は絵本ばかりです。それも、同じのを何回も」
子どもは、繰り返しが好き。お気に入りの同じものを、何回でも差し出してくる。私は、末良に、同じ本を何回も読んでと要求されると、またなの、とうんざりしてしまうけれど、斑鹿乃やなるは何回でも付き合うから凄い。
斑鹿乃はお母さんだから付き合ってるのかもしれないけれど、なるはまだ、同じ子どもだから何回でも楽しいのかしら?
「何かの本の受け売りじゃありませんよ。私の実感です。気付いたら一日なんて終わってて、末良はいつの間にか、お話したり立って歩いたりしてるんです。もう毎日、びっくり。だから、あっという間です、きっと。皆で年齢を重ねて、十年も二十年もこうして楽しくお話しましょう」
「なるも?」
ふと、口をついた。
「ええ。成人さまも、もちろん。おじいちゃんになって、末良の子どもを膝の上に乗せられて、絵本を読まれるんです」
なるが、おじいちゃん……。
「ふふ。ふふふふ」
なるが、おじいちゃん?
想像して、笑ってしまう。おじいちゃんになっても、緋色殿下とくっついて仲良くしてるのかしら。しわしわの顔になったりするのかしら。
「あは。あはははは」
そんな未来なら、見てみたい。
皆で、ずっと。
なんて素敵な約束だろう。
少し落ち着いた斑鹿乃が、私から離れて涙を拭く。
「私は幸せ者だ。ひ孫は可愛いし、孫の婿さんは働き者だし、斑鹿乃と乙羽さまは幸せそうだしって」
「わたし……たちが幸せそうだから、吉野も幸せなの?」
「はい。そうなんですって」
「そうなの……」
吉野の幸せは、他の人が幸せでいるのを見ることだったの?
首を傾げる私に、斑鹿乃はふふ、と笑う。
「何となく、分かります。私も今日、乙羽さまがお元気でいらして幸せでした」
「え?」
「きっと、悲しんでくださっていると思ったから。祖母がいなくなった事実に押し潰されていらっしゃらなければいいのに、と気に掛かっておりました」
そう……そうね。
吉野がいないのに、どうして私は生きていかなければいけないの、とは思ったわ。吉野がいなければ、とうに無かった命。共に無くなってもいいのじゃないかって。
でも。
「常陸丸と約束したから。二人で長生きするって」
「はい」
「忘れそうだったけど、なるが思い出させてくれたから」
「はい」
斑鹿乃は笑って頷いた。
「私とも、約束しませんか。おばあちゃんになっても、こうして一緒にお話をするって」
「おばあちゃん……。私が?」
想像もできなくて、笑ってしまう。自分は長生きできないと知っていたから。けれどよく考えたら、予想より遥かに長く生きている。
「ええ。おばあちゃんですよ。末良の子どものお世話を一緒にするんです」
末良の子ども。末良の……?
今なるの膝の上で、絵本を読んでもらって大笑いしている小さな子どもが、私たちのような大人になるまでの長い時間を共に生きると約束しろって言うの?
「大変なことを、言うのね……」
それは、とても壮大な夢。
「そうでもありません。あっという間です。あっという間。末良なんて、ほんの少し前までこの世界に居なかったんですからね」
「ふ、ふふ」
この世界に、って大袈裟ね。でも、そうなのかしら。そういえば斑鹿乃は、小説を読むのが好きだった。
「何の本の受け売り?」
「最近は絵本ばかりです。それも、同じのを何回も」
子どもは、繰り返しが好き。お気に入りの同じものを、何回でも差し出してくる。私は、末良に、同じ本を何回も読んでと要求されると、またなの、とうんざりしてしまうけれど、斑鹿乃やなるは何回でも付き合うから凄い。
斑鹿乃はお母さんだから付き合ってるのかもしれないけれど、なるはまだ、同じ子どもだから何回でも楽しいのかしら?
「何かの本の受け売りじゃありませんよ。私の実感です。気付いたら一日なんて終わってて、末良はいつの間にか、お話したり立って歩いたりしてるんです。もう毎日、びっくり。だから、あっという間です、きっと。皆で年齢を重ねて、十年も二十年もこうして楽しくお話しましょう」
「なるも?」
ふと、口をついた。
「ええ。成人さまも、もちろん。おじいちゃんになって、末良の子どもを膝の上に乗せられて、絵本を読まれるんです」
なるが、おじいちゃん……。
「ふふ。ふふふふ」
なるが、おじいちゃん?
想像して、笑ってしまう。おじいちゃんになっても、緋色殿下とくっついて仲良くしてるのかしら。しわしわの顔になったりするのかしら。
「あは。あはははは」
そんな未来なら、見てみたい。
皆で、ずっと。
なんて素敵な約束だろう。
1,351
あなたにおすすめの小説
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
希望したのは、医療班だった。
それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。
「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。
誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。
……けれど、婚約者に裏切られていた。
軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。
そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――
“雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。
「君の料理が、兵の士気を支えていた」
「君を愛している」
まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?
さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる