【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
859 / 1,325
第七章 冠婚葬祭

148 このよき日に  緋色

しおりを挟む
三郎さぶろう
「あ、ちち……いえ、その……」

 写真を撮るためにと親族を集めた控え室で、九条の一員として部屋の端に控えていた三郎に壱鷹いちたかが声をかけた。
 現在の身分としてはほぼ同等。属国の国主と宗主国のまつりごとを担う主要九家の跡取りだ。どちらから声をかけても、おかしな事はない。

「息災か」
「はい。い、壱鷹いちたかさまにはご無沙汰を致しております。ご挨拶が遅れまして、誠に申し訳ございません」

 丁寧に言って頭を下げた三郎に、壱鷹いちたかは少しだけ言葉を詰まらせた。

「いや、姿を見なんだ故……」
「は、いえ。その、元気……です」

 思い返せば昨夜、食堂に三郎の姿はなかった。朝も。九鬼くき家が来ていると聞いて遠慮したのだろう。部屋で食事をとっていればいいが、そうでないなら説教案件だ。

「これは九鬼くきどの。改めてご挨拶申し上げる。九条の隠居じゃ。昨晩は、息子夫夫ふうふの結婚式前夜という事でな。祝い酒に孫を付き合わせておった」

 そういえば、利胤としたねも見なかったか。いつでも、何かと理由をつけて人一倍酒を楽しむじい様が、息子夫夫の結婚式という一大行事で飲まない訳がない。どちらかの部屋で食事をとっていたと見える。
 そうだな。もう三郎は一人ではなかった。

「九条どの。挨拶痛み入る。大変に、その、うちの……が世話になり」
「はっはっはっ。世話になっているのはわしじゃ。わしの酒を取り上げる手が増えてかなわんわい」

 利胤としたねは、かなわん、と言いつつ嬉しそうに破顔する。その強さで戦場を駆け回り、最強の名をほしいままにしていた武神は、離宮うちではただの酒飲みのじじいだ。
 勝てない、と常陸丸ひたちまるが言うのだから、未だ最強の称号はその上にあるのだろう。だがそれは、引き継ぐ常陸丸ひたちまるだけが知っていればいいこと。たくさんの手に酒を取り上げられる酒飲みのじじいでいられるのは、利胤としたねの幸せなのだ。
 幸せ、と思い浮かべて頬が緩む。成人なるひとの口ぐせが移ったか。

「三郎。そっちで写真撮るんか?」
「あに、あ、ええと、おみさま。はい、九条に入れてもらおう思います」
壱臣いちおみ。三郎はやらんぞ」

 利胤としたねが、がしりと三郎の肩を抱いて笑った。

「いややわ、利胤としたねさま」

 ほわ、と壱臣いちおみも笑う。

「どっちもの写真に写ったかてええやないですか」
「おう。そりゃそうか。はっはっはっ。壱臣いちおみにはかなわんな」
利胤としたねさまは、かなわんもんばっかりや」

 最強の男が形無しだ。そう思うと、聞いている俺まで頬が緩む。
 結局、おおやけには三郎と九鬼くきの関係を知られては困るため壱臣いちおみの望み通りに共に写真を撮ることは叶わなかったが、壱臣いちおみに共に写真をと誘われた三郎は、

「ありがとう、ございます……」

 と、言葉を詰まらせながら言って、滅多にない花開くような笑顔を見せた。

緋色ひいろ、楽しい?」
「ああ」
「俺も」

 腕の中の成人なるひとが俺を見て笑う。
 好い日だ。実に良い日だ。
 最高に楽しいぞ。
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...