【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
929 / 1,325
第八章 郷に入っては郷に従え

53 いつもと違う  成人

しおりを挟む
 行く場所はいつもとおんなじなのに、行き方がいつもと全然違った。車に乗ってたら進んでいくのはおんなじだから、おんなじと言えばおんなじなんだけど、そうじゃない所が全然違う。
 服が正装なのが違う。離宮の留守番の人が皆で揃ってお見送りしてくれたのも、いつもと違う。お城の前にお見送りの人がいたことなんて無かった。父さまと朱実あけみ殿下が、にこにこでいってらっしゃいって言ってくれた。
 一緒に行く人がたくさんで、荷物もたくさん。だから、車も一台じゃない。車には、四台全部に緋色ひいろの印が大きく描かれていて、それを見た緋色ひいろは、げって言って嫌そうな顔をした。いつもは、目立たない場所に小さく付いているだけだから、これも違うところ。服や持ち物にも、いつもより大きなお印が付いている。
 緋色ひいろ道行みちゆきだと、周りじゅうにお知らせするため、らしい。お知らせしながら、回りに頭を下げてもらいながら行くことが大事。格好良い緋色ひいろを、たくさんの人に見せびらかしておいで、と緋見呼ひみこさまが言っていた。緋色ひいろはいつでも格好良いから、そんなの簡単だ。
 休憩をしてご飯を食べる場所も、いつもと違った。いつもの、お金を入れて食べる物の券を買う食堂じゃなくて、俺たちがいつもお泊まりする、温泉のある宿の大きなお部屋で、全員並んで座った。お膳に乗ったご飯が全員の前に一つずつ並べられて、それを皆で食べた。
 ご飯は、いつもお泊まりする時に食べる味とおんなじだったから、ちょっとほっとした。でも、ご飯もおかずもたくさん並んでて、全部は食べられなかった。

「今回は、お前にも必ず一膳付くことになる。無理をせず、いる物だけ食べろ。残しても気にしなくていい」

 緋色ひいろがそう言うから、分かったと頷いて、大好きな物から食べた。あ、お品書き、と思ったけど、広末ひろすえが一緒にいることを思い出して、まあいいことにした。端っこの席に見えた広末ひろすえは、うんうんと頷きながら楽しそうに食べていた。
 九鬼の城まで続く大きな道は、いつもたくさん通っている車が一台も通れなくしてあった。道の両脇に、たくさんの人が並んで手を振っている。

「おお」
「手を振り返してみたらどうだ?」

 俺が、びっくりして窓の外を見ていたら緋色ひいろが言った。車は、のろのろ、のろのろと進んでいる。俺たちからも外がよく見えるし、外からも俺たちが見えているみたいだ。
 なるほど、と手を振ったら、おおお!とたくさんの声が聞こえた。窓を閉めていても、はっきり聞こえた。

「わわ」
「はは。お前に手を振ってもらって、皆喜んでるな」

 その時、おおおおお!!と外の声がもっと大きくなった。ん?
 
「なに?」
緋色ひいろ殿下が笑った、って外は大騒ぎだ」

 力丸りきまるが、後ろの座席で笑う。この旅行の俺の護衛は、力丸りきまるがしてくれるんだって。これも、いつもと違うところ。外では、お仕事の邪魔しないように、力丸りきまるにあんまり話しかけないように気をつけないとね。つい、話しちゃいそうだから。車の中は、いつも通りでもいいかな。

緋色ひいろが笑うと大騒ぎなの?」
「魔王さまは、あんまり笑わないからなー」
「そう?」
「そうなんだよ」

 いつも笑ってるけどなあ。

「痛て」

 あ。力丸りきまるが、もうおでこを弾かれた。これは、いつも通り。
 
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

処理中です...