【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,088 / 1,325
第九章 礼儀を知る人知らない人

45 許せる筈がない  源之進

 たこ焼きの皿を手に、主役の一人が歩いてきた。先ほど、おみが大きなプレゼントの包みを渡して笑いあっていた男。たこ焼きも、おみが自分の焼いたものを渡していた。余程、親しい間柄の方なんやろう。おみがこちらに来てから仲良うなった方か。二十歳はたちになった、と紹介されとったから、おみ年齢としが近いという訳でもないようやが。

「こんにちは。ご挨拶が遅うなりました。九条くじょう三郎さぶろうと申します」
「あ、ああ。源之進げんのしんです。ご丁寧に、どうも」

 九条。これまた結構な身分の若様が、名字も持たん一介の料理人に深々と頭を下げてくる。ここの人間はどうにも、誰も彼も頭が低くて困る。手術後の足はまだ立ち上がることもできないから、椅子に掛けたまま頭を下げ返すしかない。

「お聞きしております。その、い、壱臣いちおみさまの育て親でいらっしゃる、と」
「……?」

 三郎さぶろうと名乗った九条の若様は、頭を下げたまま言葉を続けた。

「ありがとう……ございました。壱臣いちおみさまの御命を長い間御守りくださり……。その、誠に、ありがとう、ございました……」

 は? と顔を上げる。男の顔は見えない。たこ焼きの皿を大切に持ったまま、ただ深々と頭を下げている。
 一体、なにが……。

「ご不快を増すばかりになると分かっております。お前なんぞに言われる筋合いはない、とお思いになられることでしょう。それでも。それでも、私は……」
三郎さぶろう?」
「申し訳ありませんでした。壱臣いちおみさまの御命を常に危険に晒し続けたこと、謝っても謝っても足りるものではありません。私は」
三郎さぶろう

 おみが呼びかける声に反応することなく、男は絞り出すように俺に向かって話しかけ続ける。

「私は、私の生涯をかけて償いをする覚悟でおります。どうか、どうか源之進さま。私が壱臣いちおみさまのお傍にあることを、お許しください」

 西国の訛り。十月生まれ。二十歳はたち。上品な物腰。

「なんや、それ……」

 喉が張り付いて声がうまく出なかった。
 なんで、なんで此処に? おみと共におる?

「なんで三郎さぶろうがうちの傍におることに源さんの許可がいるん? そんなん、いらんよ。償いとか訳分からん。何言うてんの、もうっ。うちのお父さんが来てくれたから紹介するって言うただけやのに」

 思わず振り返って半助はんすけを見た。無表情に、小さく頷くのが見えた。
 の旗印。行方知れずと聞いて、どこかで再起を図りはしないかと少々不安に思うとった。おみや殿、新しい若様の脅威にならん為に、しっかり見つけて処分してほしいと願っとった。
 おみの傍におることを許せ、やて? 聞くな、そんなこと。言うな、そんなこと。
 聞かれたら、許せる筈がない。
 
感想 2,501

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 表紙は、Pexelsさまより、Lorena Martínezさまによる写真をお借りしました。ありがとうございます!

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。