1,090 / 1,325
第九章 礼儀を知る人知らない人
47 ここで過ごした時間 源之進
しおりを挟む
わあ、と子ども達のはしゃぐ声。大きな拍手。すっかり冷めたたこ焼きを食べ終えた頃、車椅子に乗せられ外へと連れ出されて、西賀国の次期領主夫妻の剣舞を見る人々の中に置かれた。
よく鍛錬され、大層息のあった剣舞は見事で、しばし先ほどからの懸念も忘れて見入っとった。衣装もまた、動く度にひらりひらりと舞う様が美しい。こんな素晴らしい見世物は見たことがなかった。隣に立つ臣が、夢中で手を叩いとる。……こんな娯楽とも無縁の暮らしやったな、俺らは。
「これ、弐角も見てないよ」
近くにいた成人殿下が、重大な秘密を打ち明けるように臣に話しているのが聞こえた。
「そうなん?」
「うん」
にこにこと頷いておられる言葉の、意味するところが分からない。臣には分かっとるんか。
「それは、弐角は残念やったな?」
「うん」
臣にも、成人殿下の言葉の意味が通じとるようには見えん。けど、深く聞くことなく笑って答えとる。
「結婚式、俺たちのと一緒だった。誓いとか」
「ああ、うん。そっか」
臣は、弐角さまの結婚式に出席できんかった、と言うてたな。
「皆でご飯食べたり」
「うん」
「一緒」
「そっか」
「歌う人と踊る人いたのが違った」
「ああ、うん。歌う人と踊る人? そっか、楽しそうやな」
「楽しかった。でも、剣舞が一番」
「ああ。これ」
臣の視線の先、一通り剣舞が済んだ後の演者に子ども達が近寄って、すごいすごいと興奮している。小学生ほどの背格好の二人が、剣を持たせてもろて笑顔を見せていた。あんなにひらりひらりと振り回していた踊り用の剣は意外に重さがあるらしく、思うように扱うことができずにふらついていた。
成人殿下の話は続いている。
「でも、その時松吉できなくて」
「ふんふん」
「鶴丸一人で、衣装も違くて」
「ああ、なるほど」
臣は得心して頷いた。
「弐角の結婚式の時の剣舞は、この正式な衣装やなかったんやね。ほんで、鶴丸さまがお一人で舞われたんか」
ふんふん、と頷いた成人殿下は、剣を持たせてもらっている子ども達の輪に加わるために歩いて行った。
「弐角さまの結婚式の様子を教えてくれはったってことか」
臣の言葉で何となく察した。
「え? あ、うん。そうやと思う」
「よう分かるな、臣」
「え? ああ……」
驚いたように目を見開いた臣は、その後でふふっと笑った。
「それ、うちもよう言うとったわ。離宮に来た頃」
「へえ」
「あはは、そっか」
首を傾げる俺に、臣が笑う。
「うち、分かるようになったんか。そっか……」
最後に呟いた、嬉しいという言葉が、妙に胸に刺さった。
よく鍛錬され、大層息のあった剣舞は見事で、しばし先ほどからの懸念も忘れて見入っとった。衣装もまた、動く度にひらりひらりと舞う様が美しい。こんな素晴らしい見世物は見たことがなかった。隣に立つ臣が、夢中で手を叩いとる。……こんな娯楽とも無縁の暮らしやったな、俺らは。
「これ、弐角も見てないよ」
近くにいた成人殿下が、重大な秘密を打ち明けるように臣に話しているのが聞こえた。
「そうなん?」
「うん」
にこにこと頷いておられる言葉の、意味するところが分からない。臣には分かっとるんか。
「それは、弐角は残念やったな?」
「うん」
臣にも、成人殿下の言葉の意味が通じとるようには見えん。けど、深く聞くことなく笑って答えとる。
「結婚式、俺たちのと一緒だった。誓いとか」
「ああ、うん。そっか」
臣は、弐角さまの結婚式に出席できんかった、と言うてたな。
「皆でご飯食べたり」
「うん」
「一緒」
「そっか」
「歌う人と踊る人いたのが違った」
「ああ、うん。歌う人と踊る人? そっか、楽しそうやな」
「楽しかった。でも、剣舞が一番」
「ああ。これ」
臣の視線の先、一通り剣舞が済んだ後の演者に子ども達が近寄って、すごいすごいと興奮している。小学生ほどの背格好の二人が、剣を持たせてもろて笑顔を見せていた。あんなにひらりひらりと振り回していた踊り用の剣は意外に重さがあるらしく、思うように扱うことができずにふらついていた。
成人殿下の話は続いている。
「でも、その時松吉できなくて」
「ふんふん」
「鶴丸一人で、衣装も違くて」
「ああ、なるほど」
臣は得心して頷いた。
「弐角の結婚式の時の剣舞は、この正式な衣装やなかったんやね。ほんで、鶴丸さまがお一人で舞われたんか」
ふんふん、と頷いた成人殿下は、剣を持たせてもらっている子ども達の輪に加わるために歩いて行った。
「弐角さまの結婚式の様子を教えてくれはったってことか」
臣の言葉で何となく察した。
「え? あ、うん。そうやと思う」
「よう分かるな、臣」
「え? ああ……」
驚いたように目を見開いた臣は、その後でふふっと笑った。
「それ、うちもよう言うとったわ。離宮に来た頃」
「へえ」
「あはは、そっか」
首を傾げる俺に、臣が笑う。
「うち、分かるようになったんか。そっか……」
最後に呟いた、嬉しいという言葉が、妙に胸に刺さった。
1,278
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる