【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,135 / 1,325
第九章 礼儀を知る人知らない人

92 分かってなきゃおかしい  成人

「ひ、緋色ひいろ殿下にご挨拶申し上げます!」

 後ろから付いてきていた人が、前に回ってきて包拳礼をした。さっき、廊下で挨拶しようとした人だ。急に大きな声を出すからびっくりした。
 ほら。
 亀吉かめきち松吉まつきちに、ぎゅうってしがみついている。亀吉かめきちは今、泣かなかったけれど、末良すえよしなら泣いていたかもしれない。子どもは、急に動いたり大きい声を出すとびっくりするものなんだ。
 今日、亀吉かめきち竹光たけみつ玉鶴たまつる鶴丸つるまる松吉まつきちも皆で一緒に来ているのは、壱鷹いちたかからのふみに、できれば西賀さいかの領主夫妻と跡取り夫妻、その子どもも皆で西中さいちゅう国へ来てほしいと書いてあったからだ。お願いを聞いて連れて来たんだから、驚かせないように気をつけてほしいな。
 まさか、ふみ壱鷹いちたかからのものだったから、西中さいちゅう国は知らなかったとか言わないよね。そんな訳ない。誰が訪ねて来るかくらい、分かっているはず。分かってなきゃおかしい。連絡がちゃんとついていたから、こうして俺たちをお出迎えしてるんだろうし。
 壱鷹いちたかからのふみが届いた後、竹光たけみつはしばらく静かに考え込んでいた。

「これは大事おおごとですよ」

 と、玉鶴たまつるが言って、その後、玉鶴たまつるも黙って考え込んでいる竹光たけみつを見ていた。
 少しして城に呼ばれたのは、竹光たけみつの弟って人とその伴侶と子ども二人だった。弟も伴侶も、灯可とうかより少し歳上に見える女の子も男の子も正装をしていた。弟は、竹光たけみつ壱鷹いちたかからのふみを渡されて読んで、小さくため息を吐いた。その後、少しだけ竹光たけみつとじっと目を合わせると、お預かり致します、と平伏した。伴侶と子どもたちも、同じように頭を下げた。頼む、と竹光たけみつは言った。鶴丸つるまる松吉まつきちも一緒にいて、じっと平伏する人たちを見ていた。俺と緋色ひいろも、立ち会ってほしいって言われて見ていた。
 俺には大事おおごとには見えなかったけれど、何か大事おおごとがあったのかもしれない。
 でも、それが終わった後、竹光たけみつ玉鶴たまつるは、お出かけなんて久しぶりやなあって楽しそうにしてたから、大事おおごとにはならなかったのかもしれない。
 弟たちも、土産買うてきてや、って笑ってた。出発の時も、笑って見送ってくれた。
 
「ああ。少し待て」

 少し前の事を思い出していたら、緋色ひいろの声がした。そうだ、挨拶。
 緋色ひいろは、すたすたと歩くと、部屋の中の一段高くなっている場所へ上がって前を向いて座った。身分の高い人が挨拶を受ける場所だ。俺もついて行く。護衛の二人も、もちろんついて来た。

「聞こう」
「はっ。西中さいちゅう国を治めます真中まなか正一郎しょういちろうが、緋色ひいろ殿下にご挨拶申し上げます。この度は、我が西中さいちゅう国の城中へとお運び頂き、至極光栄にございます」
「……」
「……」

 目の前に跪いて包拳礼をした真中まなか正一郎しょういちろうの下げた頭を見る。結われた髪。きらきらの髪飾り。
 ああ、真中まなかって、あの、弐角にかくの結婚式の時に真中まなかじゃなくなった人の家族か。お迎えに来てたかも。一度会っただけだから、あんまり覚えていないけれど。

「……」
「あ、あの、殿下……?」

 緋色ひいろが黙ったままだからか、真中まなかが口を開いた。
 緋色ひいろが目を細めた。
 ああ、駄目だ。
 この真中まなかは、挨拶が終わっていないことに気付いていないんだ。
 俺への挨拶がまだだってことに。
 
感想 2,501

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 表紙は、Pexelsさまより、Lorena Martínezさまによる写真をお借りしました。ありがとうございます!

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。