【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

93 挨拶のお手本  成人

 真中まなか正一郎しょういちろうの後ろに、正装をした人が二人並んで跪いている。廊下に並んでいた人たちのうち、正一郎しょういちろうの一番近くに居た人がついて来たんだろう。もっとたくさん居たけれど、入ってくるのが間に合わなかったみたいだ。廊下の所で立ち止まって、正一郎の挨拶が終わるのを待っている。亀吉かめきちを抱いた松吉まつきち鶴丸つるまる竹光たけみつ玉鶴たまつるも、部屋に足を踏み入れずに待っていた。
 挨拶を終えた弐角にかくたちは、邪魔にならないように部屋の中で待っていた。

「まだ?」

 亀吉かめきちの可愛い声が聞こえる。
 そうだよね。皆が黙ったまま止まってるの、訳分からないよね。俺も、前は分からなかった。今は、色々教えてもらったから分かる。

真中まなか殿の挨拶が終わってへんから、待っとるんよ」
「そっか」

 松吉まつきちが、抑えた声で亀吉かめきちに教えているのが聞こえた。静かだから、抑えた声でも聞こえてくる。弐角にかくたちが、優しい顔でそちらを見ていた。可愛いよね、亀吉かめきち
 ちゃんと教えてもらって分かった亀吉かめきちは、頷いてお口を閉じた。賢いなあ。
 正一郎は、緋色ひいろに許可をもらっていないのに、顔を上げて亀吉かめきちの方を見た。それから、緋色ひいろと俺の方を向いた。包拳礼をしている腕をぐいっと持ち上げて、また頭を下げた。
 本当に分かっていないのか。俺に挨拶が終わっていないこと。
 正一郎が分かっていないなら、さっき松吉まつきち亀吉かめきちにしたみたいに、後ろの二人が教えてあげればいいのに。教えてもらってから挨拶をしても、しないよりはずっといい。というか、しなければずっとこのままだ。もしかして、後ろの二人も気付いていないのかな。これ、俺が言ってもいいのかな? それもおかしい?

「かめ、できる」

 少しの間、口を閉じて様子を見ていた亀吉かめきちが、また松吉まつきちに話しかけた。

「ん? 亀、しーやで。しー。静かにしとってな」
「かめ、する」
「なにを? ああ。挨拶?」

 松吉まつきちの腕の中で包拳礼をする亀吉かめきちが可愛い。上手だね。

亀吉かめきち

 俺は亀吉かめきちを呼んだ。このままじゃ、お話が始まらない。

「はい!」
「ご挨拶のお手本してくれる?」
「はい!」

 松吉まつきちと目を合わせると、頷いてくれた。包拳礼をしたままの亀吉かめきちを床に下ろす。亀吉かめきちは、手を前に出して組んだまま、とことこと歩いてきた。そのまま正一郎の前に出た。

「ぶ、ぶれ……」
「黙れ」

 何か言いかけた正一郎に、緋色ひいろの低い声が飛ぶ。
 真剣な顔の亀吉かめきちがぺこりと頭を下げた。

「なーひとでんか。ひーろでんか」

 順番逆だけど、ま、いっか。二人の名前を言ったから、もう合格だ。

「こんちは。かめきちです」
「はい、こんにちは」

 すごい、亀吉かめきち。完璧だ!

亀吉かめきち、見事! 頭を上げろ」

 亀吉かめきちは、緋色ひいろの声に頭を上げて、にこにこで俺の所へ走ってきた。あ、亀吉かめきち。その手ももう、外していいよ。転んじゃう!
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