【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

94 今日のお仕事  成人

 にこにこの亀吉かめきちをお膝に抱っこして正一郎しょういちろうの方を向くと、後ろの人が側へ寄って正一郎しょういちろうに耳打ちしていた。
 正一郎は、俺と俺の膝の上の亀吉かめきちを見て、ぎゅっと眉間に皺を寄せた。けれど、また何か後ろの人にこそこそと言われて、姿勢を正した。

緋色ひいろ殿下と、な、な、成人なるひと殿下に、真中まなか正一郎しょういちろうがご挨拶申し上げます」
「はい、こんにちは」

 時間かかったねえ。

西中さいちゅう国領主は、一歳児にもできる挨拶もろくにできんと見える。西賀さいか国領主の孫は並以上に頭が回るとはいえ、呆れたことだ。うちの二歳児もな、教えたことは何でもきちんとやろうとするぞ。挨拶などお手のものだ。我が伴侶に挨拶を忘れるなどという無礼をした所は、見た事がない。こんな無礼者、本来ならすぐにでも罰を下したいところだ」

 正一郎が震え出した。やっと、無礼なことをしたって分かったのかな。遅いな。

「だが、残念ながら、俺は今回罰を下せない。西国での諸々の裁定は、必ず西国の長たる九鬼に任せるようにとの兄上のお達しだ。よって、後は九鬼くき壱鷹いちたかに任せることとする」

 正一郎、安心して包拳礼を解いてしまったけど、まだ、礼を解いていいよって言われてないんだよなあ。そういうとこ、駄目なんだよ。

壱鷹いちたか。これはどうにもならん」
「心得ましてございます」

 俺たちの前に壱鷹いちたか弐角にかく橙々だいだいが出てきて座った。前にも、こんな形で座ってお話をするのを見ていた事がある。あの時も、俺たちの少し下に座った壱鷹いちたかたちが、お話を進めるのを見ていた。今日も俺たちは、そうして見ているのが仕事なんだろう。
 竹光たけみつを先頭に西賀さいか国の人が広間に入ってきて、目の前に座る。正一郎しょういちろうが真ん中から避けないから、その横に四人で座って平伏した。

「上様。西賀さいか国の各務かがみ竹光たけみつ、伴侶の玉鶴たまつる、息子の鶴丸つるまるとその伴侶の松吉まつきち、そして孫の亀吉かめきちでございます。この度は、私共の訴えをお聞き届けくださった上に他国まで足をお運びくださり、誠にありがとうございます」
「あ」

 自分の名前が聞こえた亀吉かめきちが、ぴょん、と俺の膝から立ち上がった。

「また後でね、亀吉かめきち
「はい!」

 亀吉かめきちは、ちゃんとお返事して松吉まつきちの所に戻って行った。家族の真似して素早く平伏したの、流石だなあ。
 まだ平伏できていない真中まなか正一郎しょういちろうは、本当に、亀吉かめきちをお手本にするといい。
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