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第九章 礼儀を知る人知らない人
97 もうしんどい 成人
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「無茶苦茶や! そんな無茶な話ありません、殿下!」
正一郎が顔を上げて、緋色に向かって必死で言った。ん? なんで、緋色? 九鬼に任せるって、さっき緋色、言ったよね? なら緋色じゃなく、 壱鷹や弐角に話をしなきゃいけないんじゃない?
「この兵士らが、貴き御身に危害が及ばんようにとした配慮をそのように取られるやなんて、あまりの言い掛かりです。ちゃあんとお預かりしておりました。いつ何をするか分からん賊どもやで、牢に入れておくんは当たり前ですけど、死なんように配慮せえ、と指示は出しました。言いつけは守っとります。なあ?」
正一郎は、自分の横に並んでいる人を振り返って話しかける。皆、必死で首を縦に振った。
「だいたい、申し開きの機会や何やと仰られますけど、そもそも申し開きも何もあらしません。私どもが西賀国を侵略せんなん理由が無いんです。見ての通り、我が西中国は西賀国なんぞより遥かに広く、栄えとります。今更、約束事を犯してまで彼国を攻めんなん理由が無い」
「そっちの事情など知らん。こちらはただ、うちの領地内の村が西中国の兵士に襲われたという事実を報告したまで」
竹光の声が静かにゆっくりに聞こえるのは、正一郎が大きめの声で早口だからだ。
「言い掛かりも甚だしい!」
「お父上のことで恨みを買うたんやないかと警戒しとりました。ほれ、うちの倅が、お父上への罰を告げるに当たって関わっておったでしょう? その件かと思たんやけど、そういう訳でも無さそうやな」
「ち、父の、ことは……」
竹光は、最後の方は独り言みたいに言った。正一郎が、今気付いた、みたいな顔をしている。父のことは、もう忘れちゃった?
正一郎の父って、あの、弐角の結婚式の時にいっぱい喋ってた人だよね。髪の毛が少ないのを偽物の髪の毛で増やしてた人。俺はすごく覚えてる。そう簡単に忘れないような人だったよ?
俺に、分かりやすく無礼なことをした人だった。俺が、初めての無礼討ちをするのを鶴丸が手伝ってくれたなあ。あの時の鶴丸、格好良かった。
「葡萄やと思うで」
鶴丸が竹光にぼそって言った。
「ほな、ここの奴らはほんまに知らんのか」
「知らんように見えるな」
「そうやとしてもや。二日あったんやし、証拠の兵や、襲撃を命じた責任者っぽい者も置いていったんやろ? 話聞いて、何やする暇あったんちゃうか」
「下っ端の話なんぞ聞かんやろ。緋色殿下のおもてなしの準備で大わらわやったんやと思うで、きっと」
「阿呆か」
「阿呆やろ」
「もうしんどい」
「はやっ」
表情を変えずに、前を向いて二人で話してるのが面白い。
「とにかく! うちの兵やない!」
「我らは、西中国所属の兵士のつもりやった。今この時まで」
真ん中に連れてこられた二人のうちの一人が口を開いた。掠れて小さな声だった。
「お水いる?」
「ぜひ」
俺が聞いたら、大きく頷いた。
お水もあんまりもらえてなかったのかな? 早く来て良かったよ。
正一郎が顔を上げて、緋色に向かって必死で言った。ん? なんで、緋色? 九鬼に任せるって、さっき緋色、言ったよね? なら緋色じゃなく、 壱鷹や弐角に話をしなきゃいけないんじゃない?
「この兵士らが、貴き御身に危害が及ばんようにとした配慮をそのように取られるやなんて、あまりの言い掛かりです。ちゃあんとお預かりしておりました。いつ何をするか分からん賊どもやで、牢に入れておくんは当たり前ですけど、死なんように配慮せえ、と指示は出しました。言いつけは守っとります。なあ?」
正一郎は、自分の横に並んでいる人を振り返って話しかける。皆、必死で首を縦に振った。
「だいたい、申し開きの機会や何やと仰られますけど、そもそも申し開きも何もあらしません。私どもが西賀国を侵略せんなん理由が無いんです。見ての通り、我が西中国は西賀国なんぞより遥かに広く、栄えとります。今更、約束事を犯してまで彼国を攻めんなん理由が無い」
「そっちの事情など知らん。こちらはただ、うちの領地内の村が西中国の兵士に襲われたという事実を報告したまで」
竹光の声が静かにゆっくりに聞こえるのは、正一郎が大きめの声で早口だからだ。
「言い掛かりも甚だしい!」
「お父上のことで恨みを買うたんやないかと警戒しとりました。ほれ、うちの倅が、お父上への罰を告げるに当たって関わっておったでしょう? その件かと思たんやけど、そういう訳でも無さそうやな」
「ち、父の、ことは……」
竹光は、最後の方は独り言みたいに言った。正一郎が、今気付いた、みたいな顔をしている。父のことは、もう忘れちゃった?
正一郎の父って、あの、弐角の結婚式の時にいっぱい喋ってた人だよね。髪の毛が少ないのを偽物の髪の毛で増やしてた人。俺はすごく覚えてる。そう簡単に忘れないような人だったよ?
俺に、分かりやすく無礼なことをした人だった。俺が、初めての無礼討ちをするのを鶴丸が手伝ってくれたなあ。あの時の鶴丸、格好良かった。
「葡萄やと思うで」
鶴丸が竹光にぼそって言った。
「ほな、ここの奴らはほんまに知らんのか」
「知らんように見えるな」
「そうやとしてもや。二日あったんやし、証拠の兵や、襲撃を命じた責任者っぽい者も置いていったんやろ? 話聞いて、何やする暇あったんちゃうか」
「下っ端の話なんぞ聞かんやろ。緋色殿下のおもてなしの準備で大わらわやったんやと思うで、きっと」
「阿呆か」
「阿呆やろ」
「もうしんどい」
「はやっ」
表情を変えずに、前を向いて二人で話してるのが面白い。
「とにかく! うちの兵やない!」
「我らは、西中国所属の兵士のつもりやった。今この時まで」
真ん中に連れてこられた二人のうちの一人が口を開いた。掠れて小さな声だった。
「お水いる?」
「ぜひ」
俺が聞いたら、大きく頷いた。
お水もあんまりもらえてなかったのかな? 早く来て良かったよ。
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