【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,208 / 1,325
第九章 礼儀を知る人知らない人

165 文官の独り言 1  

しおりを挟む
「どーじょ」
「あ、あ、ええっと、あ、あり、ありがとう……ございます?」
「ん」

 この、置かれたお皿はどうしたら? と思うけど、置いた子どもは一つ頷くとまた、玩具のある場所へと戻ってしまった。
 手にはいつも通りの書類。隣には見慣れた同僚の姿。反対隣にもう一人の同僚の姿は無いけれど、自分としてはいつもと変わらない状況や。
 まあ、ええか。手の中の書類をとにかく片付けよう。そうしとったら、周りの不可解な状況をしばし忘れることができる。そうでもせんと、混乱した頭から火ぃ吹きそうや。多分、隣の同僚もおんなじ気持ちなんやろう。黙々と書類を片付けとる途中で顔を上げると、たまに目が合っていた。口を開きかけて、同僚の向こうに、新しい領主様と次期様やと紹介された方々の姿を見てしまい、口を噤む。向こうからは誰が見えとるのか、同僚も同じ動作をして口を噤むから、やっぱり書類へと目を戻して現実逃避した。
 そうしとったら、何故か部屋の隅で遊び始めた子どもたちが、玩具の食べ物を運んできて机に置いた。どーじょ、と言われてもどうしたらええのか分からない。とりあえず礼を言うと満足気に頷いて戻られたから、これで良かったんやろう。
 この城におる、いうことは若様? 何で俺、領主様や次期様、若様のおる部屋におるんやったっけ? この部屋、何やろ? 広いな……。
 ふと、顔を上げて周りを見渡すと、短髪の、非常に整った顔の方が目に入った。短髪……。この城にその髪でおれるなんて……。ああ、そうや、皇国の……。
 皇国の方々は、髪の毛の長さは様々やったな。昨日、俺らをあの狭い部屋から出してくれた人たちも、髪は短かった。
 部屋から連れ出し、温かい飲み物と食事をくれた。食事を終えて仕事に戻ろうとしたら、布団に連行された。暗くて静かな部屋で、寝心地のいい布団に横たわる様に言われた後は、記憶がない。目を覚ましたら明け方やった。呆然としとると、両隣の布団から同僚が同じように起きてきて、呆然としとった。
 朝も早い時間やと思うのに、起きたか、とすぐに確認に来る人がおって。今度は風呂に連れて行かれて、久しぶりに、ほんまに久しぶりに湯に浸かった。手入れの暇もなく絡まった長い髪は洗っても解けなくなっとったけど、とりあえず洗えてさっぱりとして。上がったら、着替えも置かれとるという至れり尽くせり。
 もうその頃には、何かあったんやろ、とは思っとったけど、聞かんかった。
 皇国の皇子様がうちの城を訪問される、いうんで年末の忙しさに輪がかかっとったから、寝てしもた間に溜まった仕事を終わらせなってそればっかり頭にあって。
 少し前に、九鬼の次期様の結婚式に出かけるいうんで、阿呆みたいに金を使たばっかりやのに、また、なんやよう分からん珍味やら取り寄せる言うたり、色々整えようとしたりするから、ほんま大変で。
 しかも、その少し前に急な領主交代の儀をしとって、でも、儀式だけして結局最後の判子は前領主様が持っとるもんやから、ただでさえ遅れがちやった最終決裁が更に遅れがちになっとって……。あ、もう、前前領主様か。
 真面目に同じ部屋で書類仕事をする現領主様を見る。
 進む。仕事がさくさく進んでいく。快適や……。

しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...