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第十章 されど幸せな日々
88 間違えてない 成人
母さまへのご挨拶はできた。母さまが泣いてしまって、ちゃんとできたって言っていいのか分からなくなってしまったけれど。俺たちは、いつも教えられている通りの挨拶をしたつもりだ。乙羽も壱臣もとても上手だったし、俺も同じようにできていたはず。あれで駄目だったら、俺たちにはもう、どうしたらいいか分からない。
あ。
これが、緋色の気持ち? 母さまとご飯を食べている時の緋色の気持ちだ。ちゃんとしたはずなのに、母さまが泣いたり怒ったりして、ちゃんとできたのか分からなくなってしまう。これは困る。何が駄目かも教えてもらっていない。
それは困ってたよね、と緋色の胸にすり寄った。俺も今困ったから、よく分かったよ。
朱実殿下と赤璃さまとはいつもの挨拶ができたし、明日の約束もできたし、さあ帰ろう。謁見の間っていう、たくさんの人がいる前での父さまへの挨拶もちゃんとできた俺たちがおかしい訳ないよ。あの時、誰も泣いたり怒ったりしなかった。父さまも、いつも通りに頷いて、いつも通りに終わった。だから、俺たちは間違えていない。
緋色の食事の仕方もそうだ。緋色の食事の仕方は綺麗。皆言っている。緋色と食事をした相手が、泣いたり怒ったりしたのを俺は見たことがない。緋色も、間違えていない。
「では、俺たちはこれで」
緋色が言って、俺たちはみんなで頭を下げた。失礼します、と退出する時まで礼儀を忘れずに。……俺は、緋色に抱っこされたままだったので、ちょっとよろしくなかったかもしれないけれど。これは、言われたら下りてやり直そう。緋色が離してくれれば。
「私も」
雫石母さまは、父さまに肩を抱かれて泣き止んでいた。母さまにも、安心できる場所があるってことか。もしそうなら、父さまは、もっとたくさん母さまの側にいた方がいい。俺は緋色の、壱臣は半助の側にいることで泣き止んだ。乙羽もきっと、常陸丸の側で泣き止んだ。だから。
「私も、そんな挨拶がしたかったの」
え? と俺たちは目を見開く。
「おかえりって言って、ただいまって言ってもらおうと……ただ、それだけ……」
「……」
母さまは俺たちと、謁見の間で父さまとするような挨拶じゃなく、朱実殿下や赤璃さまとするような挨拶がしたかった?
ごめんね、分からなくて。
礼儀が必要な場面と必要でない場面は、言ってもらわないと分からない。
自然とそうなれる人とそうするもの、ってわけじゃないんだね。これからは、気を付けるよ。
うん、と俺は頷く。
「ただいま、母さま。ばいばい、またね」
あ。
これが、緋色の気持ち? 母さまとご飯を食べている時の緋色の気持ちだ。ちゃんとしたはずなのに、母さまが泣いたり怒ったりして、ちゃんとできたのか分からなくなってしまう。これは困る。何が駄目かも教えてもらっていない。
それは困ってたよね、と緋色の胸にすり寄った。俺も今困ったから、よく分かったよ。
朱実殿下と赤璃さまとはいつもの挨拶ができたし、明日の約束もできたし、さあ帰ろう。謁見の間っていう、たくさんの人がいる前での父さまへの挨拶もちゃんとできた俺たちがおかしい訳ないよ。あの時、誰も泣いたり怒ったりしなかった。父さまも、いつも通りに頷いて、いつも通りに終わった。だから、俺たちは間違えていない。
緋色の食事の仕方もそうだ。緋色の食事の仕方は綺麗。皆言っている。緋色と食事をした相手が、泣いたり怒ったりしたのを俺は見たことがない。緋色も、間違えていない。
「では、俺たちはこれで」
緋色が言って、俺たちはみんなで頭を下げた。失礼します、と退出する時まで礼儀を忘れずに。……俺は、緋色に抱っこされたままだったので、ちょっとよろしくなかったかもしれないけれど。これは、言われたら下りてやり直そう。緋色が離してくれれば。
「私も」
雫石母さまは、父さまに肩を抱かれて泣き止んでいた。母さまにも、安心できる場所があるってことか。もしそうなら、父さまは、もっとたくさん母さまの側にいた方がいい。俺は緋色の、壱臣は半助の側にいることで泣き止んだ。乙羽もきっと、常陸丸の側で泣き止んだ。だから。
「私も、そんな挨拶がしたかったの」
え? と俺たちは目を見開く。
「おかえりって言って、ただいまって言ってもらおうと……ただ、それだけ……」
「……」
母さまは俺たちと、謁見の間で父さまとするような挨拶じゃなく、朱実殿下や赤璃さまとするような挨拶がしたかった?
ごめんね、分からなくて。
礼儀が必要な場面と必要でない場面は、言ってもらわないと分からない。
自然とそうなれる人とそうするもの、ってわけじゃないんだね。これからは、気を付けるよ。
うん、と俺は頷く。
「ただいま、母さま。ばいばい、またね」
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