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第十章 されど幸せな日々
92 朱実殿下はわくわくを知った 成人
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「すまない、緋色」
「帰れ」
「謝罪の内容くらい聞け」
「どうせろくなことじゃない。聞きたくもない。帰れ」
朱実殿下は、離宮の食堂に座って、うちの昼ご飯をしっかり机に並べてもらってから緋色に頭を下げた。
今の今まで、いつも通りに、世話になるよなんて言いながら皆に笑顔を向けていたのに。
「しかし、もう私たちの昼食は差し出してしまったからね。これを食べて帰らないと食べるものがない」
「うちの料理人たちは、いつも自分たちの食事を後回しにする。絶対まだ土産に手をつけていない。持って帰れ」
「おっと」
朱実殿下は、お行儀悪く小鉢の一つから食べ物を持ち上げて口に入れた。
まだ、いただきますもしていないのに!
「私がこちらの品を食べてしまった。……ん。美味しいな、これ」
「当たり前だ。じゃなくて、お前、いただきますの挨拶……それに今、手で……」
「ん? ふふ。いやあ、こういう事は生まれて初めてしたな。何というか、こう、この辺が」
朱実殿下は、ぺろりと指までなめてから胸の辺りを押さえて言った。
「どきどきとするね。なのに楽しい。……そうか、これが、わくわくか」
わくわく。楽しい時の気持ち。胸の辺りがどきどきして、でも楽しい。いいね。俺もやってみようかなあ。俺も、わくわくしたい。
「あら、ほんと。何だかいつもより美味しいような気もするわ」
朱実殿下の隣に座っていた赤璃さまもやった。ぱくっとしてぺろり。ずるい。俺も。
「こら」
俺の手は緋色に止められた。なんでー。わくわくの味、知りたかったのに。
「朱音もまだ駄目よ。っていうか、朱音は、こんなお行儀の悪いことしちゃいけません」
「あぶっ」
赤璃さまの膝の上に座っていた朱音殿下の手も、赤璃さまに掴まれた。あ、うん。朱音殿下はまだ、ここに並んでいるご飯は食べられないからね。駄目だよ。
ん?
朱音は、しちゃいけません、って言ったなあ、今。自分たちはしたのに。
むう。あれか。大人はいいけど子どもは駄目ってやつか。
むう……。
緋色に掴まれた手を見ながら考える。
待てよ? 俺は大人だからしていいんじゃないかな。
「緋色。俺は大人だからしていい」
「いや、駄目だろ」
「むう」
俺のわくわくが。
「違う。今はそんな話をしてるんじゃない。結局なんなんだよ」
あ、ちゃんと聞くんだ。緋色、偉いね。
「誓約書は書いてもらった」
ああ、約束の。
朱実殿下は今日、誓約書を緋色に持ってくるのが用事で、昼ご飯をうちで食べるのはついでだったな。
「だが、母上は、これを書いたら緋色と食事を共にできるのだ、と言ってきかない」
はあ、とため息を吐いた緋色が頭を抱えた。
「帰れ」
「謝罪の内容くらい聞け」
「どうせろくなことじゃない。聞きたくもない。帰れ」
朱実殿下は、離宮の食堂に座って、うちの昼ご飯をしっかり机に並べてもらってから緋色に頭を下げた。
今の今まで、いつも通りに、世話になるよなんて言いながら皆に笑顔を向けていたのに。
「しかし、もう私たちの昼食は差し出してしまったからね。これを食べて帰らないと食べるものがない」
「うちの料理人たちは、いつも自分たちの食事を後回しにする。絶対まだ土産に手をつけていない。持って帰れ」
「おっと」
朱実殿下は、お行儀悪く小鉢の一つから食べ物を持ち上げて口に入れた。
まだ、いただきますもしていないのに!
「私がこちらの品を食べてしまった。……ん。美味しいな、これ」
「当たり前だ。じゃなくて、お前、いただきますの挨拶……それに今、手で……」
「ん? ふふ。いやあ、こういう事は生まれて初めてしたな。何というか、こう、この辺が」
朱実殿下は、ぺろりと指までなめてから胸の辺りを押さえて言った。
「どきどきとするね。なのに楽しい。……そうか、これが、わくわくか」
わくわく。楽しい時の気持ち。胸の辺りがどきどきして、でも楽しい。いいね。俺もやってみようかなあ。俺も、わくわくしたい。
「あら、ほんと。何だかいつもより美味しいような気もするわ」
朱実殿下の隣に座っていた赤璃さまもやった。ぱくっとしてぺろり。ずるい。俺も。
「こら」
俺の手は緋色に止められた。なんでー。わくわくの味、知りたかったのに。
「朱音もまだ駄目よ。っていうか、朱音は、こんなお行儀の悪いことしちゃいけません」
「あぶっ」
赤璃さまの膝の上に座っていた朱音殿下の手も、赤璃さまに掴まれた。あ、うん。朱音殿下はまだ、ここに並んでいるご飯は食べられないからね。駄目だよ。
ん?
朱音は、しちゃいけません、って言ったなあ、今。自分たちはしたのに。
むう。あれか。大人はいいけど子どもは駄目ってやつか。
むう……。
緋色に掴まれた手を見ながら考える。
待てよ? 俺は大人だからしていいんじゃないかな。
「緋色。俺は大人だからしていい」
「いや、駄目だろ」
「むう」
俺のわくわくが。
「違う。今はそんな話をしてるんじゃない。結局なんなんだよ」
あ、ちゃんと聞くんだ。緋色、偉いね。
「誓約書は書いてもらった」
ああ、約束の。
朱実殿下は今日、誓約書を緋色に持ってくるのが用事で、昼ご飯をうちで食べるのはついでだったな。
「だが、母上は、これを書いたら緋色と食事を共にできるのだ、と言ってきかない」
はあ、とため息を吐いた緋色が頭を抱えた。
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