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第十章 されど幸せな日々
101 立ち話では語り切らん 成人
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皆が、何だかしゅんとなった所へ、ぐうう、とじいじのお腹が大きな音を立てた。ああ、源さんに手加減できなかったのは、お腹が空いてたから、って事もあったのか。
俺のお腹はあんまり鳴ったりしないし、俺の周りの人も、ご飯の時間にはご飯をしっかり食べているから、こんなに大きなお腹の音を聞くことは滅多にない。一緒に遊んでいて、力丸のお腹が鳴るのを聞いたことがあるくらい。
すっごくお腹が空くと、こんなに大きな音が鳴るんだね。びっくり。
「あ。そやった。ご飯」
壱臣が、その音を聞いて慌てている。
「はい。それでは!」
乙羽が、ぱんっと手を叩いた。
「それぞれ持ち場に戻りましょ。おじさま、三郎さん。いくら自分の家だからってなんの連絡もなく帰れば、すぐにご飯は出てこないものですのよ、普通は。今回は、たまたまお正月だからあるようですけれど」
「うむ。そのようじゃ、姫。面目ない」
「ご迷惑をおかけしました」
じいじと三郎が、乙羽に頭を下げる。
「はい、よろしい。でもね、自分のおうちなんだから、いつでも帰ってきていいのよ?」
「ははっ。もちろん、そうしよう。なあ、三郎?」
「はい。……はい、ありがたく。あ、その、」
三郎は、源さんにもう一度頭を下げた。
「私に、こちらで任された仕事がある間は、御目に留まる場にあることをお許しください。なるべく、目につかんよう過ごす事を誓います」
はあ、と源さんは項垂れる。
「言わんでええこともある。言わん方がええこともある、て孫に教えといてください、利胤さま」
三郎から目をそらしたまま、源さんはじいじに言った。
「わはは」
じいじは、がしりと源さんの肩に手を回す。逃げられなかったね、源さん。
「それを決めるのは、当人のみ。違うか」
じいじは、笑って言った。
「けど。聞かなんだら俺は。気付いとらん振りくらいはできました。腹が立っとっても、許せんくても、目をそらせた」
「それで良かった、と言えんのが、うちの孫の良いところでな。ええ子じゃろう?」
「それを! それを俺に聞きますか」
「まあまあ、落ち着け。まだまだうちの孫の良いところはたくさんある。立ち話では語り切らん。どうじゃ、ちと付き合わんか?」
じいじは、源さんを捕まえていない方の手で、くいっとお酒を飲む仕草をする。
なんか格好良いね、それ。
「……長いこと飲んでないんで、飲めるかどうか分かりません」
「え?」
食堂へ行こうとしていた壱臣が、源さんの言葉に驚いて振り返った。
「源さん。お酒飲めるん?」
「昔は飲めた。今は、どのくらいいけるか分からん」
「ええー。飲んでるとこ見たことない。飲めんのかと思ってた。学校で、父ちゃんはお酒飲まん、って言うたら、そういう人は下戸って言うんやでって教えてもろて、源さんは下戸なんやって思ってた」
「誰が下戸や。ほんで、誰が父ちゃん、いや、まあ、それはええか。そんな金、うちには無かったやろ。どうしても酔いたくて飲んでみた料理酒は、ひどく不味かったしな」
源さんは、顔を上げてどこか遠くを見た。
「ほな、二本作る。熱っついの二本作ってくる」
「兄上、手伝います」
ばたばたと壱臣と三郎が厨房に行って、じいじは源さんを捕まえたまま食堂へ向かう。俺たちも食堂に付いていった。
じいじがお酒を飲むのなら、朱音殿下とはこの後俺の部屋で遊ぶか、って考えていたら、じいじががらりと戸を開けた先に、はいはいで近寄ってきていた朱音殿下が見えた。
「おや! こんにちは! 可愛いのう!」
一瞬固まった朱音殿下は、じいじの後ろの俺の顔を見て、みるみる眉を下げた。
「ん? どうした? ほれ、抱っこしてやろう。じいじのとこへ来い」
「う、ううっ。うううー」
「ありゃ。こりゃいかん」
「うわぁあん!」
うん。声が大きいんだよ、じいじ。
俺のお腹はあんまり鳴ったりしないし、俺の周りの人も、ご飯の時間にはご飯をしっかり食べているから、こんなに大きなお腹の音を聞くことは滅多にない。一緒に遊んでいて、力丸のお腹が鳴るのを聞いたことがあるくらい。
すっごくお腹が空くと、こんなに大きな音が鳴るんだね。びっくり。
「あ。そやった。ご飯」
壱臣が、その音を聞いて慌てている。
「はい。それでは!」
乙羽が、ぱんっと手を叩いた。
「それぞれ持ち場に戻りましょ。おじさま、三郎さん。いくら自分の家だからってなんの連絡もなく帰れば、すぐにご飯は出てこないものですのよ、普通は。今回は、たまたまお正月だからあるようですけれど」
「うむ。そのようじゃ、姫。面目ない」
「ご迷惑をおかけしました」
じいじと三郎が、乙羽に頭を下げる。
「はい、よろしい。でもね、自分のおうちなんだから、いつでも帰ってきていいのよ?」
「ははっ。もちろん、そうしよう。なあ、三郎?」
「はい。……はい、ありがたく。あ、その、」
三郎は、源さんにもう一度頭を下げた。
「私に、こちらで任された仕事がある間は、御目に留まる場にあることをお許しください。なるべく、目につかんよう過ごす事を誓います」
はあ、と源さんは項垂れる。
「言わんでええこともある。言わん方がええこともある、て孫に教えといてください、利胤さま」
三郎から目をそらしたまま、源さんはじいじに言った。
「わはは」
じいじは、がしりと源さんの肩に手を回す。逃げられなかったね、源さん。
「それを決めるのは、当人のみ。違うか」
じいじは、笑って言った。
「けど。聞かなんだら俺は。気付いとらん振りくらいはできました。腹が立っとっても、許せんくても、目をそらせた」
「それで良かった、と言えんのが、うちの孫の良いところでな。ええ子じゃろう?」
「それを! それを俺に聞きますか」
「まあまあ、落ち着け。まだまだうちの孫の良いところはたくさんある。立ち話では語り切らん。どうじゃ、ちと付き合わんか?」
じいじは、源さんを捕まえていない方の手で、くいっとお酒を飲む仕草をする。
なんか格好良いね、それ。
「……長いこと飲んでないんで、飲めるかどうか分かりません」
「え?」
食堂へ行こうとしていた壱臣が、源さんの言葉に驚いて振り返った。
「源さん。お酒飲めるん?」
「昔は飲めた。今は、どのくらいいけるか分からん」
「ええー。飲んでるとこ見たことない。飲めんのかと思ってた。学校で、父ちゃんはお酒飲まん、って言うたら、そういう人は下戸って言うんやでって教えてもろて、源さんは下戸なんやって思ってた」
「誰が下戸や。ほんで、誰が父ちゃん、いや、まあ、それはええか。そんな金、うちには無かったやろ。どうしても酔いたくて飲んでみた料理酒は、ひどく不味かったしな」
源さんは、顔を上げてどこか遠くを見た。
「ほな、二本作る。熱っついの二本作ってくる」
「兄上、手伝います」
ばたばたと壱臣と三郎が厨房に行って、じいじは源さんを捕まえたまま食堂へ向かう。俺たちも食堂に付いていった。
じいじがお酒を飲むのなら、朱音殿下とはこの後俺の部屋で遊ぶか、って考えていたら、じいじががらりと戸を開けた先に、はいはいで近寄ってきていた朱音殿下が見えた。
「おや! こんにちは! 可愛いのう!」
一瞬固まった朱音殿下は、じいじの後ろの俺の顔を見て、みるみる眉を下げた。
「ん? どうした? ほれ、抱っこしてやろう。じいじのとこへ来い」
「う、ううっ。うううー」
「ありゃ。こりゃいかん」
「うわぁあん!」
うん。声が大きいんだよ、じいじ。
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