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透子の章

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「お前の友人達と話をするのが楽しくてな。たまには代わってくれても良いじゃないか。私は第一子だからという目で見られて息苦しいのだよ。」
「そう言うから、たまにはと我慢してきたが、もう限界だ。俺にならなくても、自分で一人称も代えて友人を作ればいい。俺の友人と仲良くしたいなら混ざればいい。」
「できないからお願いしているのじゃないか。」

 まだ声変わり前の高い玻璃皇子はりのみこの声と声変わり中のかすれ気味の低い快璃かいりの声が言い争っている。
 もう二人はこんなに違うんだ、と思った。
 ところで何故私は快璃かいりの腕の中で、この言い争いを聞いているのでしょう。

「そんなに緑の髪紐を付けたいなら付けるといい。俺はもう、いらない。」

 苛々した快璃かいりは、懐から小刀を取り出した。きょとんと見上げていると、私から腕を離して括っている髪の毛を掴む。そのまま勢いよく小刀で髪を切り落とした。
 きゃー、と、見ていた子どもからも側仕えの者からも悲鳴が上がる。
 ぱさり、と肩より短くなった髪が快璃かいりの顔の回りに散った。
 え?こんなこと前回は無かったよ?
 快璃かいりは姉上と普通に挨拶を交わし、快璃皇子かいりみこ透子とうこは仲が良ろしいのですね、と姉上が言って、私と快璃かいりは同じタイミングで、はい、と言い、姉上は笑った。
 そんな日だった。
 そして、快璃かいりの髪は長いままで、人生最後の日の朝も私が緑の髪紐で括ってあげたのだ。
 その日が頭に浮かんできて、私は涙目になる。ああ、折角の綺麗な黒髪が。
 快璃かいりの側仕えの白露しらつゆが駆け寄って来た。

快璃かいり皇子みこ、何ということを!」

 側仕えという者は、いつも冷静で滅多に取り乱したりしない。どこの家の側仕えもしっかりしていて、声を大きくする姿すら、ほとんど見たことは無かった。その側仕え達の頂点とも言える、皇家の直系に仕える側仕えが声を荒げたのだ。周囲がしん、と静まり返る。
 玻璃皇子はりのみこの側仕えである真鶴まなづるもいつの間にか近くにいた。

「正装の時にはおぐしを結い上げるのが国のしきたり。どうされるおつもりか。」

 真鶴まなづるの声は静かながらも怒りを孕んでいた。
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