55 / 96
鞠の章
3
しおりを挟む
数日、保護された部屋で過ごした。持ち合わせが無いことは仕方がない。今のところ、そのことを言及されることもなく、食事は提供され、替えの衣服も貸してもらい、風呂を使わせて貰うことまでできた。見たことも無いような品物に囲まれて、使用方法も分からずにいると、身ぶり手振りで親切に説明をしてくれる。慣れてくると、とても便利な国であることが分かった。
ひねれば、水も湯もすぐに出てくる管がある。厠は、水で流して綺麗になる。臭うこともない。冷めた食事を温めるのも、あっという間であった。
私は、生きることに専念しようと、一生懸命、様々な器具の使い方を覚えた。言葉も、忙しく働く白衣の女人たちが、少しずつ教えてくれる。有り難いことだった。
皇子は、今までの不足分を取り戻すように、よく寝ておられた。乳は、一度にたくさん飲むと吐いてしまわれるようで、少しずつ頂いていたが、順調に大きくなられており、共に世話をしてくれる方々が、喜んでくれているのが分かった。どうやら本来は、とても大人しい性質だったようだ。穏やかに数日が過ぎた。
ずっと、ここにいるわけにはいかないらしい。数日過ごすうちに、治療院なのだろうということは分かった。では、私が寝ていたのは、病人用の寝台なのであろう。
すっかり体調の良くなった私や皇子が、それを使わせて貰うわけにはいかない。
何やら説明に来てくれた人間は、とにかく言葉が通じないことに、ほとほと困っていた。私も、説明のしようがない。自分を証明するものなど、何一つ持っていないし、言えることは、名前だけであった。
必死で訴えたのは、皇子と決して離れたくないこと、である。それだけは、譲れなかった。お守りして、きっと姫様にお返ししよう。いつか必ず、姫様の元へ帰ろう。
それだけが、私の生きる縁だった。
親のない子どもを育てる施設に二人で引き取られ、私は手伝いをすることで置いてもらえることになった。皇子を、他の子と分け隔てなく育てるのは難しかったが、夜には二人の部屋を貸してもらえて、思う存分甘やかすことができた。私は、いつか帰ることばかり考えていたので、二人の時はなるべく、自分達の国の言葉で話をした。
大変だったけれど、穏やかな日々だった。
ひねれば、水も湯もすぐに出てくる管がある。厠は、水で流して綺麗になる。臭うこともない。冷めた食事を温めるのも、あっという間であった。
私は、生きることに専念しようと、一生懸命、様々な器具の使い方を覚えた。言葉も、忙しく働く白衣の女人たちが、少しずつ教えてくれる。有り難いことだった。
皇子は、今までの不足分を取り戻すように、よく寝ておられた。乳は、一度にたくさん飲むと吐いてしまわれるようで、少しずつ頂いていたが、順調に大きくなられており、共に世話をしてくれる方々が、喜んでくれているのが分かった。どうやら本来は、とても大人しい性質だったようだ。穏やかに数日が過ぎた。
ずっと、ここにいるわけにはいかないらしい。数日過ごすうちに、治療院なのだろうということは分かった。では、私が寝ていたのは、病人用の寝台なのであろう。
すっかり体調の良くなった私や皇子が、それを使わせて貰うわけにはいかない。
何やら説明に来てくれた人間は、とにかく言葉が通じないことに、ほとほと困っていた。私も、説明のしようがない。自分を証明するものなど、何一つ持っていないし、言えることは、名前だけであった。
必死で訴えたのは、皇子と決して離れたくないこと、である。それだけは、譲れなかった。お守りして、きっと姫様にお返ししよう。いつか必ず、姫様の元へ帰ろう。
それだけが、私の生きる縁だった。
親のない子どもを育てる施設に二人で引き取られ、私は手伝いをすることで置いてもらえることになった。皇子を、他の子と分け隔てなく育てるのは難しかったが、夜には二人の部屋を貸してもらえて、思う存分甘やかすことができた。私は、いつか帰ることばかり考えていたので、二人の時はなるべく、自分達の国の言葉で話をした。
大変だったけれど、穏やかな日々だった。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
75
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる