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小さな幸せを願った勇者の話
27 盗賊になった勇者の朝
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ベッドは二つあったが、一つひとつが大きめだった。風呂から上がった後は、二人でごろごろと転がって遊んだ。
「ちょっと柔らかすぎるよね。」
「確かに。もう少し硬めでもいいなあ。」
贅沢なことを言いながら、結局くっついて寝た。旅の疲れが出て、朝は普段より寝てしまった。セナより早く起きるつもりが、一緒に起きて焦る。
御者と使者の荷物をあいつらの部屋に運んで、拘束を解いて、口裏を合わせてこないといけないのに!今回のやり口は、あまり上手くなかったなあ。
セナに失望されたり軽蔑されたら、もう生きていけない。
必死で、寝起きの頭を働かせる。
「ユーゴー。何だかたくさん寝れた。」
寝起きのセナが俺に抱きつきながら、すっきりした顔をしている。
「んー。そうか。」
「まだ眠いの?珍しいね。」
セナが俺の生返事に笑う気配がした。その上、背中に回した腕をぽん、ぽんと叩いてくるのだから、考えが全然まとまらない。
「起きてる。」
「うん。でもあの人たちまだ、起こしに来ないね。」
「そうだな。」
腕と足を縛って転がされてるからなあ。
結局、朝の支度をして食堂に降りた。朝食を注文して二人でのんびりと食べる。こんな旅なら、いつまででもしていたいもんだ。
このままあの二人を置いて進むのも悪くないんだが、と思ってから、流石に縛って転がしたままは不味いことに気付く。
「セナ、あの二人に声をかけてくる。セナは食べ終えたら部屋で待っていて。」
「分かったー。」
もともと食べるのが早い俺が立ち上がっても、セナは何でもない様子で食事を続けている。
荷物を返すのは後回しにして、馬車置き場の横の倉庫へ向かった。
「うー。うー。」
「ぐううっ。ううっ。」
扉の向こうからくぐもった声が聞こえて、心底開けたくなくなる。猿ぐつわを噛ませておいたのは正解だった。
「おはようございます。」
仕方なく挨拶をしながら中に入ると、小さな窓が一つしかないそこは、薄暗くじめじめとしていた。
騒ぎになっても困るので、扉をしっかりと閉める。
御者は怯えたように見上げてくるが、使者は睨み付けてきた。
「よく眠れましたか?俺たちはそろそろ出発できますが、ここから先も同行されますか?」
しゃがんで問いかけてみると、唸り声を上げて体をばたばたと動かしている。
「大声を出さないと約束してくれるなら、猿ぐつわを外します。抵抗しないなら手足の拘束も外します。」
御者が必死で首を縦に振ったので、そちらの猿ぐつわを外した。
「あ、ああ。頼む。体中が痛い。何もしないからこれも外してくれ。」
掠れた声。
確かに、一晩床で縛られて寝ていれば体中が痛くなるだろう。
俺は短剣を取り出してぐるぐる巻いたシーツを切った。
「何故こんな酷いことを……。」
え?
手首や足をさすりながら言うのへ首を傾げる。
「貴方たちが準備した部屋でしょう?聖者さまを泊めるための部屋と交換してあげたのだから、ありがたく思ってくださらないと。」
「すまなかった。一番安い部屋がこんなに酷いと知らなかったんだ。」
御者は、まだ縛られて転がっている使者から離れるようにベッドに腰かけて、ぼそぼそと言った。
「ちょっと柔らかすぎるよね。」
「確かに。もう少し硬めでもいいなあ。」
贅沢なことを言いながら、結局くっついて寝た。旅の疲れが出て、朝は普段より寝てしまった。セナより早く起きるつもりが、一緒に起きて焦る。
御者と使者の荷物をあいつらの部屋に運んで、拘束を解いて、口裏を合わせてこないといけないのに!今回のやり口は、あまり上手くなかったなあ。
セナに失望されたり軽蔑されたら、もう生きていけない。
必死で、寝起きの頭を働かせる。
「ユーゴー。何だかたくさん寝れた。」
寝起きのセナが俺に抱きつきながら、すっきりした顔をしている。
「んー。そうか。」
「まだ眠いの?珍しいね。」
セナが俺の生返事に笑う気配がした。その上、背中に回した腕をぽん、ぽんと叩いてくるのだから、考えが全然まとまらない。
「起きてる。」
「うん。でもあの人たちまだ、起こしに来ないね。」
「そうだな。」
腕と足を縛って転がされてるからなあ。
結局、朝の支度をして食堂に降りた。朝食を注文して二人でのんびりと食べる。こんな旅なら、いつまででもしていたいもんだ。
このままあの二人を置いて進むのも悪くないんだが、と思ってから、流石に縛って転がしたままは不味いことに気付く。
「セナ、あの二人に声をかけてくる。セナは食べ終えたら部屋で待っていて。」
「分かったー。」
もともと食べるのが早い俺が立ち上がっても、セナは何でもない様子で食事を続けている。
荷物を返すのは後回しにして、馬車置き場の横の倉庫へ向かった。
「うー。うー。」
「ぐううっ。ううっ。」
扉の向こうからくぐもった声が聞こえて、心底開けたくなくなる。猿ぐつわを噛ませておいたのは正解だった。
「おはようございます。」
仕方なく挨拶をしながら中に入ると、小さな窓が一つしかないそこは、薄暗くじめじめとしていた。
騒ぎになっても困るので、扉をしっかりと閉める。
御者は怯えたように見上げてくるが、使者は睨み付けてきた。
「よく眠れましたか?俺たちはそろそろ出発できますが、ここから先も同行されますか?」
しゃがんで問いかけてみると、唸り声を上げて体をばたばたと動かしている。
「大声を出さないと約束してくれるなら、猿ぐつわを外します。抵抗しないなら手足の拘束も外します。」
御者が必死で首を縦に振ったので、そちらの猿ぐつわを外した。
「あ、ああ。頼む。体中が痛い。何もしないからこれも外してくれ。」
掠れた声。
確かに、一晩床で縛られて寝ていれば体中が痛くなるだろう。
俺は短剣を取り出してぐるぐる巻いたシーツを切った。
「何故こんな酷いことを……。」
え?
手首や足をさすりながら言うのへ首を傾げる。
「貴方たちが準備した部屋でしょう?聖者さまを泊めるための部屋と交換してあげたのだから、ありがたく思ってくださらないと。」
「すまなかった。一番安い部屋がこんなに酷いと知らなかったんだ。」
御者は、まだ縛られて転がっている使者から離れるようにベッドに腰かけて、ぼそぼそと言った。
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