【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

文字の大きさ
142 / 211
そして勇者は選んだ

10 知らない世界

しおりを挟む
 休憩も取らずに、速度だけ落として馬車は進んだ。速度を落としてもらったのは、セナが気持ち悪くならないように、だ。
 楽しくなった俺が、お試しの魔法を撃ちまくって、魔物たちが来るのが間に合わないくらいになったので、速度を落として普通に進んでいる。

「楽しかったー。」

 一度、馬車の中へ戻るとセナが呆れたように俺を見た。サンスェットは、驚いた顔をこちらに向けてくる。

「お前さんたちの魔力ってのはどうなってるんだ?」
「え?まだまだあるよ。小さい魔法しか使ってないし。」
「俺も。馬車三台の結界くらい、なんてことないよ。母さんなんて、常時発動で村一つ結界で囲ってるけど、魔力切れたって聞いたこと無い。」
「確かに。」
「俺のは、ある一定期間の結界だから、かけるときに魔力がいるだけだし。」
「俺は、街と町を行き来できる特別な人間だと自分で思ってたけどよ……。」

 サンスェットは、言葉を切ってまじまじと俺とセナを見る。

「俺なんて特別でも何でもねえなあ。」
「え?すごいよ。町の外に出て物資を運んであげてるんだよ。こんなに魔物が多いのに。」
「そうか?より儲けることを考えてたらこうなっただけだぞ。」
「危険をおして行くんだもの、すごい!今回だって、王都の人の食料を運んだんでしょう?サンスェットさんが行かなかったら、食べ物が足りなかったかもしれないんだから。」
「金が良かったしな。」
「それでも、すごいことだった。」
「ああ……。ありがとよ。」

 セナの言葉に、サンスェットは照れたように頭をかいた。
 窓の外をガウナーの水のつぶてが飛んでいく。

「おっ、また来たかな。」

 御者台に座ると、道の先に壊れた馬車が見えて、魔物が群がっている。
 もう生きている人間はいないんじゃないかという有り様だった。一気に燃やしてしまった方が簡単だが、もしかして生き残りがいるかもしれない。

『ぼん。ぼん。ぼん。』

 火の玉を出しては、魔物だけを狙って燃やしていく。
 魔物がこちらに気付いて向かってきてくれるなら好都合。どうやら人影は見えなかった。

「王都方面へはもう二度と来たくない。」

 御者がぽつりと呟く。
 こちらを向いたので、頷いておいた。
 行かない方がいい。
 冒険者ギルドが崩壊した王都の中も、何があるか分からない。
 勇者おれが、自分の幸せを求める世界がどんな方向へ進むかなんて、きっと神にも分かっちゃいない。
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~

なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。 傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。 家のため、領民のため、そして―― 少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。 だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。 「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」 その冷たい声が、彼の世界を壊した。 すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。 そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。 人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。 アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。 失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。 今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...