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14 竜人族の村にて
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「まったく、よそ者、それも人間を村に入れるとはな」
「見捨てればよかったものを」
道行く村人の陰口を聞かないように、オレは足を少し早め、家へと急ぐ。
ドアを開けると、そこには。
「おお、ルージュ殿」
オレの名前を呼ぶエルフの女と、まるでミイラのような状態でソファーに横たわる人間の男が一人。
こいつらこそ、陰口の原因。とはいえ、自分が連れてきてしまったのだから、誰にも当たることはできないのだが。
「その……すまぬな。わしらのせいで。お主も、急に父親を失ってしもうて混乱しておるだろうに」
別に、と返しつつ、買ってきた薬を女の胸元へ半ば押し付けるように渡す。
あの怪物と、『守り神様』に襲われたのを助けようとしてくれたのは事実だ。
いくらなんでも、目の前で火だるまにされた奴を見捨てるというのは、あまりにも寝覚めが悪い。それだけだ。
例え、そいつが人間であっても。魔王が倒されたのち、オレたち亜人族を排斥し始めた――そしてオレの大事な父さんを殺した――人間であっても、だ。
「で、様子はどうなんだ」
「それがな……」
「勿体ぶるなよ」
「……信じられん速度で回復しつつある。普通ならば、即死していてもおかしくないというのに」
「……へっ、まるでバケモノだな」
そこまで言って、オレはハッとなって咳払いをし、誤魔化す。流石に言い過ぎた。
「ま、まぁ、何だ。治ったらさっさと出て行ってもらうからな」
「うむ、そうするつもりじゃ。人間がこの村にいるのは、どうやらマズいようだからの」
「ああ、そうしてくれ。じゃあオレ、ちょっと寝るから……」
言いながら、オレは寝室へと向かう。最中、チラリと男のほうを見る。
包帯だらけの痛々しい姿だったが、すぅすぅ、と落ち着いた息の音が漏れている。
それを見て、オレはわけもなくほっとした気分になった――
※
「全く、ルージュの奴は何を考えているのだ!」
円卓を囲む、3人の老人たち。いずれも、頭部に大小の違いこそあれど、2対の角を持っていた。
その中の一人、白髭を生やした男の竜人は怒声とともに机を叩く。
「落ち着け、お主もあの怪我を見ただろう。何もできまいて」
「だとしても、人間をこの村に入れたことが気に食わぬのだ!」
「それより今は、『守り神様』のことを議論するべきではないかしら?」
立ち上がって興奮する男を、残りの二人がすかしなだめる。男はチィ、と舌打ちを交えつつもそれに従い、席に座りなおす。
「ルージュの話が本当なら、『守り神様』が姿を現し、我々を攻撃したということらしいが」
「にわかには信じがたいですね……ですが」
「うむ。先日の祠襲撃事件のこともある。あながち嘘だとも言い切れぬだろうな」
3人が議論を繰り広げていた、その時。
「随分、盛り上がっているようだねぇ……皆さん?」
突如として、聞きなれない男の声が聞こえた。三人は一斉にその方向を見やる。
そこには、足を組んで座る、細身の若い男がいた。彼は不気味な笑みを浮かべながら、三人を見つめている。
「何奴!」
「貴様、人間か!?」
白髭の男が立ち上がり、剣を抜き放って切っ先を向ける。
若い男はその笑みを崩さぬまま両手をゆっくりと上げ、手のひらを開く。
「待って……この気配、人間じゃないわ。けれど亜人族にも見えない……貴方はいったい?」
女の竜人が剣を収めさせつつ、投げかける。
「私のことを詮索している余裕が果たしてあるのかな?……まぁ、人間でないというのは事実だけれども、ね」
「名前だけは教えておこうかな……私の名はジャナーク。以後、お見知りおきを?」
彼は椅子から立ち上がると、丁寧なお辞儀をしつつ、そう言い放つ。
「それで?いったい何の用かしら」
「君たちにいい知らせがあってねぇ。聞きたいかい?」
彼はどこからともなく4つの玉を取り出し、お手玉を始めつつ問う。
「貴様、ふざけているのか!」
「おおっと、これは失礼?」
「……その知らせとは、いったい?」
「なぁに、君たちの『守り神様』だっけ?あれを操っている者についてさ」
「何か知っているのか!?」
「ああ、もちろん……」
「かつての人間族の英雄……5年前、魔王を倒した勇者」
「その名はベリル」
「見捨てればよかったものを」
道行く村人の陰口を聞かないように、オレは足を少し早め、家へと急ぐ。
ドアを開けると、そこには。
「おお、ルージュ殿」
オレの名前を呼ぶエルフの女と、まるでミイラのような状態でソファーに横たわる人間の男が一人。
こいつらこそ、陰口の原因。とはいえ、自分が連れてきてしまったのだから、誰にも当たることはできないのだが。
「その……すまぬな。わしらのせいで。お主も、急に父親を失ってしもうて混乱しておるだろうに」
別に、と返しつつ、買ってきた薬を女の胸元へ半ば押し付けるように渡す。
あの怪物と、『守り神様』に襲われたのを助けようとしてくれたのは事実だ。
いくらなんでも、目の前で火だるまにされた奴を見捨てるというのは、あまりにも寝覚めが悪い。それだけだ。
例え、そいつが人間であっても。魔王が倒されたのち、オレたち亜人族を排斥し始めた――そしてオレの大事な父さんを殺した――人間であっても、だ。
「で、様子はどうなんだ」
「それがな……」
「勿体ぶるなよ」
「……信じられん速度で回復しつつある。普通ならば、即死していてもおかしくないというのに」
「……へっ、まるでバケモノだな」
そこまで言って、オレはハッとなって咳払いをし、誤魔化す。流石に言い過ぎた。
「ま、まぁ、何だ。治ったらさっさと出て行ってもらうからな」
「うむ、そうするつもりじゃ。人間がこの村にいるのは、どうやらマズいようだからの」
「ああ、そうしてくれ。じゃあオレ、ちょっと寝るから……」
言いながら、オレは寝室へと向かう。最中、チラリと男のほうを見る。
包帯だらけの痛々しい姿だったが、すぅすぅ、と落ち着いた息の音が漏れている。
それを見て、オレはわけもなくほっとした気分になった――
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「全く、ルージュの奴は何を考えているのだ!」
円卓を囲む、3人の老人たち。いずれも、頭部に大小の違いこそあれど、2対の角を持っていた。
その中の一人、白髭を生やした男の竜人は怒声とともに机を叩く。
「落ち着け、お主もあの怪我を見ただろう。何もできまいて」
「だとしても、人間をこの村に入れたことが気に食わぬのだ!」
「それより今は、『守り神様』のことを議論するべきではないかしら?」
立ち上がって興奮する男を、残りの二人がすかしなだめる。男はチィ、と舌打ちを交えつつもそれに従い、席に座りなおす。
「ルージュの話が本当なら、『守り神様』が姿を現し、我々を攻撃したということらしいが」
「にわかには信じがたいですね……ですが」
「うむ。先日の祠襲撃事件のこともある。あながち嘘だとも言い切れぬだろうな」
3人が議論を繰り広げていた、その時。
「随分、盛り上がっているようだねぇ……皆さん?」
突如として、聞きなれない男の声が聞こえた。三人は一斉にその方向を見やる。
そこには、足を組んで座る、細身の若い男がいた。彼は不気味な笑みを浮かべながら、三人を見つめている。
「何奴!」
「貴様、人間か!?」
白髭の男が立ち上がり、剣を抜き放って切っ先を向ける。
若い男はその笑みを崩さぬまま両手をゆっくりと上げ、手のひらを開く。
「待って……この気配、人間じゃないわ。けれど亜人族にも見えない……貴方はいったい?」
女の竜人が剣を収めさせつつ、投げかける。
「私のことを詮索している余裕が果たしてあるのかな?……まぁ、人間でないというのは事実だけれども、ね」
「名前だけは教えておこうかな……私の名はジャナーク。以後、お見知りおきを?」
彼は椅子から立ち上がると、丁寧なお辞儀をしつつ、そう言い放つ。
「それで?いったい何の用かしら」
「君たちにいい知らせがあってねぇ。聞きたいかい?」
彼はどこからともなく4つの玉を取り出し、お手玉を始めつつ問う。
「貴様、ふざけているのか!」
「おおっと、これは失礼?」
「……その知らせとは、いったい?」
「なぁに、君たちの『守り神様』だっけ?あれを操っている者についてさ」
「何か知っているのか!?」
「ああ、もちろん……」
「かつての人間族の英雄……5年前、魔王を倒した勇者」
「その名はベリル」
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