白兎令嬢の取捨選択

菜っぱ

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第一章 大領地の守り子

19センスがないとか言わないでください

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 侵入者騒動から一日が経ちました。どうやら侵入者は我が家の様々な部分を壊して行ったようで、家のありこちが壊れていました。

 昨日のうちに使用人たちが見回りを済ませたので、大体の修復箇所は確認しましたが、未だ我が家の屋根には穴が空いたままになっています。

「あら?」

 朝の剣の素振りを終え、部屋に戻ろうと屋敷の廊下を歩いていると、我が家にはいるはずのない金と緑が混ざった髪色の人物が前を歩いてきました。

「先生!なんで我が家にいらっしゃるのですか?」

 一瞬見間違いかと思ったのですが、前から歩いてきたのは紛れもなくクゥール先生、ご本人でした。
 何か我が家に御用かしら?
 今まで先生が屋敷にいるところを見たことがなかったので、少し不思議な気分になります。
 お父様から何か依頼を受けたのでしょうか。

「リジェット、おはよう」
「ご機嫌よう、先生。我が家にいらっしゃるなんて珍しいですね。どうされたのですか?」
「先日この家に侵入者が入ったんだろう?この家には私の魔法陣が敷いてあったんだけど、どうやらそれを破られたらしいんだよね」
「あ……。そうでした。全部壊されてしまっていましたか?」
「全部ではなかったよ。ただ一部、私の魔法陣より威力の強い魔法陣で攻撃されていた部分があった。
 全部は破れないから、一箇所に絞って壊しにかかったんだろうね」

 わたくしは侵入者が消えた後、床に落ちていた刺が描かれた魔法陣を思い出します。
 話を詳しく聞くと、あれに似たものが、他の場所にも仕掛けられていたそうです。

「壊された部分を解析して、新しい魔法陣を敷くために、出張に来たんだよ」
「そうだったんですね!ありがとうございます」
「君が攻撃を受けたと聞いて、気が気じゃなかったけれど……無事で本当に良かったよ」

 その表情には心からの安堵が滲んでいます。わたくしは押しかけるように、先生に魔法陣を習いに行ってしまいましたが、先生も少なからず、わたくしのことを気にしてくれていたようです。

「ご心配おかけして申し訳ありません。わたくし、先生を心配させぬよう、もっと早く敵を制圧できるようになります!」
「いや、そうじゃないでしょ……」

 ん? それ以外に何かあるのでしょうか?
 まあいいでしょう。

「そうだ! 屋根の上も壊れてるんです! 直さなければ! 梯子を持ってこなきゃですね!」
「えっ! 屋根の上なんて登らなくていいよ!」
「えっ!? 先生は背が高いから、梯子使わなくても届くんですか?」
「いや、そんな訳ないでしょう。大人しく再構築の魔法陣使おう!?」
「さ、再構築の魔法陣!?」

 そんな便利なものがあるんですか!?
 先生がおっしゃるには再構築の魔法陣は形あった物が壊れてしまった時に便利な魔法陣だそうです。
 建物が壊れてしまった時や、鎧が壊れてしまった時に使うと便利だそうです。

 ただ、大きい物を直す時は対価として多めの魔力を取られてしまうので、作成者以外が使おうとすると綺麗に髪の毛を全部持っていかれてしまうことがあるそうです。つるっぱげになってしまうとは……恐ろしい魔法陣です。

 人の描いた魔法陣が使えないわたくしはそうなることはないですが、人にお渡しする時には気をつけなければ…‥。

「じゃあ実際にやってみよう。どうせならリジェットが描く?」
「描きたいです! 教えてください!」

 わたくしは先生を談話室にお招きし、ラマに用意してもらった羽ペンを使い、魔法陣を描き写していきます。修復を司る聖の要素がぎっしりと詰め込まれていたので禁術かと思って、一応先生に尋ねると建物の修復自体は禁術ではないと言う回答を得ることができました。
 その答えに安心しつつ、丁寧に描き写していきます。

「なんだかこれ、ちょっと書き換えれば人の手足の欠損とかも治せてしまいそうですね……はっ! わたくしったら何を!」

 その呟きを聞いた先生は悪戯な顔でトントンと魔法陣の左側をたたきます。

「ちなみにこれの創の部分に少し聖の要素を足すと、人間の再構築ができますが、禁術です!」
「し、知りたくない豆知識です~!」

 なんとなく魔法陣の展開方法が予想ができてしまうのが嫌です……。頑張れば今の知識でも作れてしまう気がします。多分左の方のあの部分を……あああ! 考えてはいけません! 絶対に使いませんっ。作りませんっ!


 午前の刺繍のお稽古が終わると、ラマがお父様から言付けを預かっていました。
連絡先生と一緒に昼食をとるように、とのことです。
 せっかく我が家に来てくださったのですから、美味しいものを食べて頂かねば!
 応接間のご案内し、二人で昼食を取りつつ、昨日のおかしな現象を先生にお伝えします。

「先生は体が砂の様になり消える現象をご存知ですか?」
「砂の様に消える?」
「はい。侵入者のうちの一人がその様にして消えてしまったのです。残った魔法陣には刺の様な模様が組み込まれていました」

 それを聞いた先生は手を顎の下に添え考え込む様な表情になります。

「身代わり人形に危害を加えると、その様にさらさらと消えることがあるよ」
「え? まさか昨日のあの侵入者の一人は身代わり人形だったのでしょうか?」
「そう考えるのが妥当だろうけど……。あれが人を襲うくらい動くとは考えにくいんだよな。あまりにも高度すぎる」
「そうですか……」
「そんなもの作れるとしたら王都の……魔術省連中だろうけど……。そんな人いたかな? どちらにせよリジェット周りの警護を厚くしておいた方が良さそうだね。……リジェット午後の予定は?」
「午後は……。今日は空きがあります」

 本当は午後はダンスのレッスンを受ける予定でしたが、今日は先生がいらっしゃるということで、それも免除になっていたので、時間に空きがありました。

「せっかく君の家に来てるんだし、やらなければいけないことをやっておこう」
「何かありましたか?」
「何か武器を増やした方が良さそうだから、魔剣でも作る?」
「あ! 魔剣!」

 その言葉を聞いて当初魔剣の製作のために魔術師のところを訪れたのをやっと思い出しました。

「なんだか、先生のところで教わる魔法陣があんまりにも面白くって、魔剣の存在を忘れていました……。
 ぜひ! この機会に作りたいです!」
「ははは。そうだよね。僕もリジェットに基礎から教えなきゃ、と思っていたから後回しにしちゃってた。ごめんね。
 あ、そうだ。ついでに君の剣をいつも持ち歩きやすいように小さくして身に付けるのはするのはどうだろう」

 最近の君は外出する機会が増えたからね、と先生はいいます。確かにそうですね。今までは家の中でしか活動していませんでしたけど、最近のわたくしは先生の家に行ったり、お使いに行ったり、活動的ですからね。

 一応先生に防御の魔法陣は教えていただいていますが、やはり何かあった時のために使い慣れている武器が手元にあった方が安心します。今のままの大きさだと、ちょっと大変だなとは感じていたのです。
 包帯に描いてある身体強化の魔法陣はあるのですが、それを腕に巻いていない時は持ち上げることもできませんしね。

「それはいい案ですね! わたくし侍女のラマが身につけていた、ネックレス型の暗器がカッコ良すぎて素敵すぎて、素晴らしすぎて、もう……、もう‼︎ 目を閉じればあの素晴らしさを事細かく再現することができそうです‼︎ というか、隠し武器ってもう存在がかっこいいですよね! わたくし、あんなかっこいい武器隠し物のが往年の夢だったのです!」

 先日の侵入者騒ぎのとき、ラマが首から下げていたネックレスにいくつか武器を仕込んでいて、それを使いながら戦っていた姿にわたくしは衝撃を受けました。

 なんてかっこいいのでしょう!
 これぞ、ファンタジーの世界の戦い方です!

 一度はやってみたいあれですよ⁉︎
 伝説のあれ!

 そんな素敵なものが自分にも手に入るだなんて……。

 想像するだけで、胸が高鳴ります!
 素敵武器のことを考えているわたくしの目はさぞかし輝いていたでしょう。キラキラした目を先生に向けると、先生はなぜか呆れた顔をしているような気がいたします。

「君は小鳥が囁くような可憐な声を持っているのに熱く語るのは暗器のカッコ良さなんだね……。素材の無駄遣い……。そして独特なセンスだね……」
「どうしてですか!?
 アクセサリーが武器になるなんて、すっごくかっこいいじゃないですか!
 ちょうどわたくしは首に鎖のみのシンプルなネックレスをかけてますし、ここに剣のチャームをかけたらとっても素敵じゃないですか⁉︎」

 わたくしはおばあさまの形見であるネックレスチェーンを先生にチャラりと見せます。

「ダサくない?」

 先生は口をへの字にじて残念そうな顔をしています。先生の美的センスには刺さらなかったみたいですが、まあいいのです。

 わたくしはわたくしのカッコよさを見つけるのです。

 魔法陣を用いて作業するにもわたくしの部屋に剣を持ってくるわけにはいきません。そんなことをしたら、ラマに怒られてしまいます。
 とりあえず中庭の隣にある、武器倉庫内の整備室の一室に移動して作業をすることになりました。

「こんないい作業場があるんだね。でもあんまり使ってないのかな?」

 先生は道具を精査しながら呟きます。一応武器倉庫なので魔法陣用の用紙はあるのですが、少し色が黄ばんでいます。
 そのほかの砥石などもあまり減っていないまま保管されています。
 それでも家のものが掃除などをしてくれているので埃などはなく、心地悪い空間ではないのですが。

「もう、先の大戦から年月が立って、武器を使うことも少なくなってきていますからね」
「で、君の剣はどこにあるのかな?」
「これです!」
「わあ、こんな大きくて重そうなの使ってるんだね。すごいなあ……。ん?あ、あれ? ……これもう魔剣になってる。ただの剣じゃないみたい?」

 先生はわたくしがいつも使っている剣を見て、目をパチクリと瞬かせます。
 すぐさま柄の部分にある魔法陣をさするように確認して、間違いないと一言呟いて考え込むような難しい顔をしました。

「どうしたのですか?」
「これ……。反逆者の剣ってやつじゃない?」
「え!? それって……王家の継承物の!?」

 王家の継承物とは、前の世界の三種の神器にあたるような王家で継承されている、

 叡智の王冠
 聖女のカード
 反逆者の剣

 の三つの秘宝のことをさします。

 ただ、実際の今の王家で重要視されているのは叡智の王冠のみでそれ以外の物は王位継承時に現れないこともあるという伝説の代物です。

 そんな伝説の中の存在だと思っていた剣、うちにありました~だなんて……。
 そんなことあります!? どうして王家で保管されているはずの剣がうちにあるんですか!? どう考えてもおかしいじゃないですか!

「これってどこからきたか知ってる?」
「ええっと……。お父様が先の……ラザンタルクとの大戦時に戦利品として持ち帰ったものだと聞いています」
「僕はその前の大戦で、シハンクージャで行方がわからなくなったものだって聞いてたけど、ラザンタルクにあったのか……。おかしな転移に巻き込まれたのかな?」

 ラザンタルクはハルツエクデンの東側の国ですがシハンクージャは西側の国です。その二つの国をまたごうとすると必ずハルツエクデンを通らなければいけないのですが、どうやって剣は国を跨いだのでしょうか。謎は深まります。

「剣さんはとっても長い旅をしていたのですね……」
「リジェットはこの剣を鞘から出せるんだね?」
「ええ、最初は重すぎて鞘から出すこともできなかったのですが、魔法陣を作ってからは振るうことができるようになりました!」
「そう……」
「? どうかしたのですか……?」
「基本的に王家の継承物はそのもの自体に意思があるとされているからね。
 どんなに剣を持つことができる腕力があっても、剣自身が使用者を主人と認めないと鞘から出すことができないんだ。
 きっと今のリジェット剣に主人だと認められている状態なんだと思う。
 ……多分予想だけど、身体強化の魔法陣がなくても剣を持つことができるんじゃないかな?」

 わたくしはその言葉に驚き、腕に巻いてあった身体強化の魔法陣の包帯を解きました。

「あ、魔法陣がなくても鞘から抜くことができました!」
「そう。じゃあもうリジェットは剣に主人だと認められたんだね」

 どうやら、剣が伸び縮みをしたのもこれが原因だったようです。

「どうして主人だと認めてくれたのでしょう……」
「それはわからないけれど、反逆者の剣は運命に抗おうとする力に反響することがあるって聞いたことがあるよ。
 きっとリジェットが諦めずにこの剣を使おうとしたことに剣が応じたんじゃないかな? あとは暇だったとか」

 心の中で、なんだか先生みたいな剣だなあと思ってしまいましたが、口に出さずに留めておきます。
 一連の流れが急展開すぎてついていけず、頭の中で一つ一つを確認して、ぽへーっと感慨に浸っていると、先生は難しそうな顔で剣を見つめています。

「そうか、反逆者ってこれか……」

 空気にすぐ溶けてしまいそうくらい小さな声で先生が呟きます。その呟きがなぜだか気になってしまったわたくしは目ざとく聞き返します。

「え、何か言いましたか?」
「ん~。まあ言っちゃっていいかな」

 先生は装束の胸の部分に手を入れ込み、何かを取り出しました。
 手にはシャボン玉のように虹色に輝く長方形のカードが握られていました。おや……。これは……。

 記憶違いだといいな、と思っていましたが、そうではないようです。資料室の本に記載してあった項目にそっくりな虹色のカードが目の前に置かれました。

「以前リジェットが初めて家に来るときに、今後どうなるかカードで占ったことがあるんだよね。その時のカードの目が反逆者・革命・弱者だったんだ。おもしろい目が出たな、と感心しちゃって。それがきっかけでリジェットに魔法陣を教えようと思ったんだ」

 なんと。先生がわたくしに魔法陣を教えてくださる理由が思っていたより享楽的でした。

 というかそのカードって聖女のカードじゃないでしょうか。

「先生……。それって……」
「これ? 王家の継承物の聖女のカードってやつ。いろいろ占えるからとっても便利でよく使ってるんだ」

 先生はさも当たり前のようにカラカラと笑っていますが……。それはとんでもないものだという自覚はあるのでしょうか……?
 わたくしは思っても見なかったことがポンポン起こっていく現状を目の当たりにして、ついくらりと眩暈を起こしてしまいました。

 聖女のカードって今の時代に現存していたのですね……。噂では前の聖女様がお亡くなりになった時に一緒に消失したと伺っていましたが。

 なんで先生が持っているんでしょう……。もしかしたら誰かから奪ったのでしょうか。
 理由は気になりますが、ここで聞いたらなんだかとんでもないことに巻き込まれる予感がとってもしています。
 わたくしの野生の勘が聞くなと告げているので、聞かないようにいたしましょう。

「え、じゃあこの空間に王家の相続物が二個あるってことですか……?」

 え、怖……。

 気のせいかもしれませんが、一気に室温が下がった気がします。

「展開が急すぎてお腹が痛くなってきました……」

 キリキリと痛み出すお腹を押さえていると先生は呆れたように微笑みます。

「リジェットはいつも強欲なのに変なところで繊細だなあ。反逆者の剣くらい自分の武器にしちゃおうよ。手にはいってラッキーくらいに思っていた方が絶対にいいよ」
「え、でも……。秘宝らしい秘宝を自分仕様にしてしまっていいのでしょうか……」
「いいんじゃない? 僕もカード私用でしか使ってないし」
「え、そんなのいいんでしょうか」
「使えるものは秘宝でも使おう。さあ小さくしちゃおう」
「マ、マイペース……」

 すっかり先生のペースに乗せられたわたくしは、諦めて、当初の予定通り剣を小さくする魔法陣を書きこむことにいたしました。





「どうやって剣を小さくするのですか?なんの要素を結びつければいいのでしょう?」

 わたくしには見当もつきません。

「創とか動の要素でしょうか?収縮させるってことですもんね……」
「創の要素を入れてしまうと、逆に大きくなってしまうからね。
 今回は無の要素を中心に組み込むといいと思うよ」
「え! でも無の要素だと、そのものが消えてしまいませんか?」
「どちらかというと、余分な部分を切り取るようなイメージかな?必要ない部分を隠す魔法陣を組み込んで、必要な時に姿をあらわすように組み込んであればいい」

 先生はそういうと、簡単そうにさらさらと魔法陣を組み込んでいきます。
 わたくしが考えると、余計な要素ばかりを組み込んでしまいますが、先生が描く魔法陣はシンプルで無駄がありません。

 さすが、先生です。熟練の技で出来上がる魔法陣を見て、ため息しか出てきません。

 いつかわたくしもこんなふうに魔法陣を描けるようになるのでしょうか……。道のりはまだまだ長そうです。

 先生が描いた魔法陣を丁寧に紙に描き写して、わたくしが使えるようにしていきます。
 作ったお手製魔法陣を剣に貼ると、みるみるうちに剣が収縮してしまいました!

「か、完成しました!
 すごいです!掌に治るサイズになりましたよ!?」

「うん、これなら、リジェットの首にかけても問題ないサイズ感だね。サイズだけはね。
……もうちょっと可愛いデザインにする?これじゃあんまりにもイカツイでしょう?」

 ネックレスは元のデザインをそのまま収縮したものだったので、デザインはあのイカツイ剣のままです。

 だけど、それがわたくしにはたまらなくツボでした!
 か、かっこいいの極みです!

 重厚感があって、強そうで、お父様がつけていそうなデザイン!

 首に下げるとなかなかいい感じじゃないでしょうか。
 ん?なんだか前世の世界で暮らしていた時、こんな感じの修学旅行のお土産売ってた気がしますが……。
 でも、この世界ではあんまり違和感がない気がいたします。いいでしょう!

「わたくし、このままがいいのです!」
「君がいいならいいんだけど……」

 先生は最後まで、ちょっと渋い顔をしていました。

「そうだ! いただいたペンもこんなふうに小さくして身につけることってできますか? 十分今でも小さいのですが、今後誘拐などされた場合に魔法陣が描ける状態を作っておきたいですね!」
「ペンを小さくして首にかけるの?なんだか変じゃない?」
「変でもなんでも、便利な方がいいじゃないですか」

 先生は君には美的センスがないんだね、と失礼な呟きを漏らします。

「じゃあネックレスの剣部分の両側に小物入れの魔法陣入りのビーズを組み込んでおこう。そうすれば色々貴重品なんかも入れられて便利でしょう?」

 そう言って先生は胸元のポケットのような部分から指先の腹ほどの大きさの青ガラスの玉のビーズを取り出しました。

「え? 今どこから取り出しましたか? そんな都合よくビーズなんて持ってます?」
「僕は使いそうなものはなんでも持ち歩く主義なんだよ。僕は空間魔術が得意だから、収納庫をたくさん持っているからね。今からつくるのもその応用の魔法陣だよ」
「なんでも持って歩くとか……、お母さんみたい」
「え?」
「なんでもありません」

 おっと、失言でした。
 忍時代のお母さんが鞄になんでもかんでも詰め込んでいるのに似ていて、ついつい、ツッコミを入れてしまいました。最近こういうことが多いので気を引き締めなければ……。

 そうやって先生からいただいたビーズに指定の収納の魔法陣を描くように促されわたくしは目を凝らしながら、慎重に小さいビーズの中に魔法陣を描き巡らせます。
 目がシパシパしてきて限界を迎えそうになったその時、やっと魔法陣が書き上がります。

 先生はそれを指でとり、軽く魔法陣の出来を精査した後、ネックレスの両側にビーズを通しました。
 見た感じ、ネックレスに装飾が増えただけに見えますが、これで本当に小物入れが出来上がったのでしょうか。わたくしは半信半疑で睨むようにネックレスを見つめます。

「うん、完成だ。これでネックレスを簡易的な小物入れとして使えると思うよ。試しにペンを取り込んでご覧?」
「そんな便利なものが付けられるのですか⁉︎ すっごいです! じゃあ魔法陣用の用紙も一緒に取り込んでおくこともできますね!」
「うんでもあんまり大きものは入らないから注意してね」
「はい!」

 そうして用紙を取り込んだボールペンは小指の先ほどの大きさのチャームになりました。すぐさまネックレスの鎖につけて首に下げます。
 これならいつでも持ち歩けますね!

「これで、もし連れ去られても魔法陣がかけますし、反撃ができるようになります!」
「……うん。できれば連れ去られないようにしてくれるとこっちも助かるんだけど……」

 先生は長めのため息をついて目をつぶってしまいました。






「ラマ!わたくしも自分の剣を隠し武器にしたんですよ!」
「……それは良かったですね」

 先生が帰った後、自分の新しい隠し武器ができたことがあまりに嬉しくて、つい得意げにドヤあとした顔でラマに報告してしまいました。
 あれ?どうしてでしょう?ラマはなぜか引きつった笑顔をしているような

 わたくしの見た目でイカツイ隠し武器を持って喜んでいる姿が、ラマが描くお嬢様像とあまりにかけ離れていたということには気がつかなかったのでした。


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