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第一章 大領地の守り子
47結果発表は決闘につながります
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わたくしは朝からソワソワしていました。
起きた瞬間から、カレンダーに乗っている今日の日付を凝視していたので、ラマに「変なお嬢様」
と言われてしまいます。もう、変で結構です。
だって今日は待ちに待った合格発表の日なのですから!
騎士学校の合否は、学校から直接本人宛にお手紙の魔法人で連絡がきます。家族でなく本人に来るというのが家族に反対されているわたくしにとってはありがたい部分ですね。もしかして、わたくしのような生徒が年数人単位でいるのかもしれません。
どちらにせよありがたい配慮です。
わたくしはまだかまだかと、チラチラと窓の方を確認してしまいます。あまりに集中力が欠如しているので、仕事の合間にわたくしの勉強を見に来た、ベルグラードにも珍しく叱られてしまいました。
仕方がないじゃないですか。今日の結果次第で、今後のわたくしの身のふりもだいぶ変わってくるのでしから!
一応、受かることを信じて今日を迎えていますが、万が一落ちてしまった場合のことも考えていました。
もし、受かることができなかった場合はこの家を出ようと思っています。シュナイザー商会との取引のおかげで、わたくしには潤沢な資金がありますし、一人で暮らして行くことも可能だと思うのです。
そして最終的に、あの色盗みの女のスミを見つけて話を聞きたいな、と思っています。
もしわたくしに色盗みの能力があるとするならば、あのかたは先輩に当たりますから。温和な方に見えましたし、少しくらい相談に乗ってもらえないかと思っています。
まあ、無理だったら諦めますけど。
窓にコン、と何かがあたったような音がしました。
部屋にいたラマは、音に一瞬身構えるポーズを取りわたくしの動きを止めようとしましたが、わたくしは構わず窓に近づき、ガラガラと窓を開けます。
「結果だわ!」
「結果⁉︎ 何のことですか⁉︎」
静止する声を無視して、お手紙の魔法陣を開くと、三枚の用紙が現れました。その一番上にあった用紙にはドドン、と大きな文字で次席合格、と書かれています。
あまりの嬉しさに、手紙の上下を持ってラマに見せつけます。
「わあ! 合格です! しかも次席ですって!」
「そ、それは士官学校の試験結果でしょうか⁉︎ なぜお嬢様がそれをお持ちなのですか!?」
「なぜって……。当日ちゃんと試験を受けたからよ?」
慌てふためくラマの顔はどんどん青ざめていきます。そのまま勢いよく立ち上がり「大変!」と言いながら部屋を走って出ていってしまいました。
まさか自分が見張りをしている中でわたくしが家を抜け出していたなんて思っても見なかったのでしょう。
ラマのことを欺いてしまったことは申し訳ないことですが、こればっかりは仕方がなかったのです。ごめんなさいっ!
きっとこれからすぐお父様と面会が設定されるでしょうが、今後荒れそうな予感を感じ取ったわたくしは、同封されていた入学届けの魔法陣に自分の名前をすぐさま書き込んで、そのまま紙飛行機の形に折りたたみます。
部屋の南についた窓を上にガラリとあけ、そのまま宙に紙飛行機を飛ばすと、手紙の魔法陣は青空の彼方に消えて行きました。このまま騎士学校に向かうでしょう。
よし、ミッションクリアです。これでわたくしの入学は取り消せません。
そうだ! 先生にも合格したことをお知らせしなければいけません。わたくしは机の天板下の引き出しから便箋を取り出し、お手紙をカリカリと書き始めます。
“先生のご協力のおかげで、無事に試験に合格することができました。なんと、なんと、次席だったのですよ! お父様に見つからないうちに、入学書類は返送しました。またお家に伺う際に、お礼の品をお持ちします。本当にありがとうございました。“
描いた手紙の裏に魔法陣を書きこめば、手紙が紙飛行機型に折り畳まれます。
窓をガラリと開け、ピュウンと空に手紙を飛ばすと、きらりと光ってお手紙は消えました。
しばらく経つと、返信が返ってきます。手紙には短く、よかったね。とだけ書かれていました。
思ったよりドライなお手紙にガッカリとしていると廊下の方でバタバタと走る音がしました。
ラマはお父様にこの件を伝えたのでしょう。数分で部屋に戻ってきたラマは慌てた様子でこちらに駆け寄ってきました。
「すぐにセラージュ様との面会がございます。念のためお髪を整えさせてください」
やはり声がかかりましたね。
「お父様の執務室ですか? 珍しいですね。わたくし、あそこに入ったことはないかもしれません」
「それだけ緊急事態なのですよ」
緊急事態。そうですね。
自分の駒だと思っていた娘が好き勝手やり始め、騎士団に入るなんてそりゃあ緊急事態でしょう。
執務室の扉をコンコン、とノックをすると中から入れ、というお父様の低い声が聞こえます。わたくしは木製の重い扉を開け執務室の中に入ります。
手前に来客者向けのソファとローテーブルが配置されており、奥にはお父様が使っているであろう、大きな執務机が置かれています。
まるで前の世界の社長室を思わせる空間ですね。壁には歴代領主の肖像画が飾られていました。その一枚が裏返えされています。それがちょっと気になって視線を向けていると、お父様に声をかけられます。
「リジェット、そこに座りなさい」
ソファに深めに腰掛けます。お父様は思った通り、眉間に深いシワを入れてこちらを見ていました。
「リジェット。どうやって試験を受けたのだ? あの日お前はあの部屋から出ていなかったはずだろう?」
「さあ。この世には不思議な手段がいくつもありますからね。そのどれかを使ったのではないですか?」
ツンと済ました口調で言うと、お父様は頭をガシガシと掻きむしります。どうせ、クゥール様関係だろう。という呟きが聞こえた気がします。あら、わかっているではないですか。お父様はその後も質問を続けてきます。
「試験料はどうした? シュナイザー商会との取引はもう行っていないだろう?」
「あら。シュナイザー商会がなくても別のルートで資金を得ることはできますわ。お父様はそちらまで把握していなかった様ですけども」
「どうしてお前は……そう言う方向に知恵が働くんだ……」
どうやらお母様はお父様にお茶の販売をカフェで行っていることは黙っていてくれた様です。
そのことに心の中で感謝しつつ、もう一度お父様と向かい合います。
そもそも自分の娘が自立心を持って自分で動ける、ということは成長の証だと思うのですが、こういうことをしてもお父様は全く褒めてなんて、下さらないのですよね。
きっとお父様はお兄様達が同じことをしたら手放しで喜んだ気さえするのです。特に長子であるユリアーンお兄様なんかが同じことをやったら、それはもう有頂天でしょう。次期領主ですもの。なのに、わたくしが女性であるというだけで、大人しくいることを要求されるなんて……。
考えるたびにその鬱憤が、じわじわと心の器から溢れていきます。ついにその思いは言葉に出てきてしまいました。
「わたくし、いつも疑問に思っていたんです」
「疑問?」
お父様はわたくしの言葉に眉を潜めます。
「ええ、疑問です。お父様はいつもわたくしを愛しているとおっしゃいます。
愛しているから幸せになって欲しいと。
でもお父様が愛しているのは果たして本当にわたくしなのかしらって」
お父様はわたくしの言葉を理解できていないようです。眉間のシワはさらに深くなり、怪訝な顔になって行きます。
「リジェットには幸せになって欲しいから、親としてできることをしているまでじゃないか」
「それをわたくしが望んだことが一度だってありましたか?」
「またクゥール様に入れ知恵でもされたか。
全くあの男は本当にタチが悪い。匿ってやっているのに、揚げ足を取る真似ばかりする」
「先生のことは関係ありません」
「それにしたってずいぶん懐いているようじゃないか」
「そりゃあ、懐きますよ。自分のやりたい事の邪魔しかしてこない家族と、応援して手助けしてくれる他人なら、後者を選ぶに決まっているでしょう」
「生意気な口を聞くのではない」
「お父様こそ話をそらさずに現実をしっかりと確認してください」
「お父様はいつもわたくしのため、と言いながら、自領の行く末のためにあんなくだらない男を婚約者に据えたり、協力してくださるクゥール様やシュナイザー商会と縁を切らせようとします。
……一番許せないのは、騎士学校への入学試験を許してくれなかったことですけどね。
お父様はわたくしをあくまでもオルブライト家の末娘、としてしか見ていらっしゃらないのです。」
お父様の目をキッと睨みます。
「お父様が愛しているのは実像のわたくしではなく、お父様の頭の中にしか存在しない、自分の思い通りに動く、虚像のリジェットなのです」
「何を言っているのだ⁉︎」
「お父様の頭の中にいるリジェットはきっと従順で、素直で、なんでも言うことを聞くんでしょうね。まるでお人形だわ……。本当のわたくしはただの剣狂いなのに……」
ふう、とため息をついて強い視線をお父様にやると、お父様は小刻みに震えながら、拳を握りしめていました。
「わたくし、何がなんでも騎士学校に行きますからね」
「絶対にお前を騎士学校にはやらぬ!」
お父様は半分意固地になっている気がします。まあ、焚きつけたわたくしにも悪いところが沢山ありますが。
先生のように言質をとらず飄々と言葉を躱して、要求を飲ませるなんて高度な事、わたくしにはできません。
わたくし、目標に向かって一直線の人間ですもの。
もう、何も聞いてくれない人に対しては力づくでわからせるしかないのかもしれません。
「お父様、言葉で理解できないのであれば、剣を交えましょう」
「それで何がわかるというのだ。無駄な決闘はしない」
「無駄なんかじゃありませんよ。この決闘でわたくしがお父様より強い、ということが証明されます」
「何を言っているのだ。馬鹿馬鹿しい」
憤りながらも呆れた表情をするお父様の表情を見て、わたくしはあと一押しだ、ということを悟ります。
この感じだともう少しで、着火します。
「わたくしが怖いのですか?勝負から逃げるだなんて、お可愛らしいですね」
満面の笑みで可愛らしく言います。
怒ってくださいお父様。わたくしの思った通りに。
「お父様に決闘を申し込みます! 気に入らなければ、その場で切り捨ててくださっても構いません!」
声高らかにかつ簡潔に、わたくしは言い放ちました。
「本気なんだな」
「……ええ、本気ですとも」
わたくしが言い切ると、お父様は深いため息をつきます。
「いいだろう、リジェット。準備をして、一時間後に中庭に来なさい」
焚き付けられましたね。わたくしは心の奥に眠っていた靄が闘志に姿を変えて湧き上がってくるのを感じます。
わたくし、絶対にお父様から勝利をもぎ取ってみせますから。
ゆらりと下から見上げるようにお父様の顔を見ます。目尻を下げ、蔑んだような暗さを孕んだ笑みを浮かべたわたくしはお父様の目にどう映ったのでしょうか。
起きた瞬間から、カレンダーに乗っている今日の日付を凝視していたので、ラマに「変なお嬢様」
と言われてしまいます。もう、変で結構です。
だって今日は待ちに待った合格発表の日なのですから!
騎士学校の合否は、学校から直接本人宛にお手紙の魔法人で連絡がきます。家族でなく本人に来るというのが家族に反対されているわたくしにとってはありがたい部分ですね。もしかして、わたくしのような生徒が年数人単位でいるのかもしれません。
どちらにせよありがたい配慮です。
わたくしはまだかまだかと、チラチラと窓の方を確認してしまいます。あまりに集中力が欠如しているので、仕事の合間にわたくしの勉強を見に来た、ベルグラードにも珍しく叱られてしまいました。
仕方がないじゃないですか。今日の結果次第で、今後のわたくしの身のふりもだいぶ変わってくるのでしから!
一応、受かることを信じて今日を迎えていますが、万が一落ちてしまった場合のことも考えていました。
もし、受かることができなかった場合はこの家を出ようと思っています。シュナイザー商会との取引のおかげで、わたくしには潤沢な資金がありますし、一人で暮らして行くことも可能だと思うのです。
そして最終的に、あの色盗みの女のスミを見つけて話を聞きたいな、と思っています。
もしわたくしに色盗みの能力があるとするならば、あのかたは先輩に当たりますから。温和な方に見えましたし、少しくらい相談に乗ってもらえないかと思っています。
まあ、無理だったら諦めますけど。
窓にコン、と何かがあたったような音がしました。
部屋にいたラマは、音に一瞬身構えるポーズを取りわたくしの動きを止めようとしましたが、わたくしは構わず窓に近づき、ガラガラと窓を開けます。
「結果だわ!」
「結果⁉︎ 何のことですか⁉︎」
静止する声を無視して、お手紙の魔法陣を開くと、三枚の用紙が現れました。その一番上にあった用紙にはドドン、と大きな文字で次席合格、と書かれています。
あまりの嬉しさに、手紙の上下を持ってラマに見せつけます。
「わあ! 合格です! しかも次席ですって!」
「そ、それは士官学校の試験結果でしょうか⁉︎ なぜお嬢様がそれをお持ちなのですか!?」
「なぜって……。当日ちゃんと試験を受けたからよ?」
慌てふためくラマの顔はどんどん青ざめていきます。そのまま勢いよく立ち上がり「大変!」と言いながら部屋を走って出ていってしまいました。
まさか自分が見張りをしている中でわたくしが家を抜け出していたなんて思っても見なかったのでしょう。
ラマのことを欺いてしまったことは申し訳ないことですが、こればっかりは仕方がなかったのです。ごめんなさいっ!
きっとこれからすぐお父様と面会が設定されるでしょうが、今後荒れそうな予感を感じ取ったわたくしは、同封されていた入学届けの魔法陣に自分の名前をすぐさま書き込んで、そのまま紙飛行機の形に折りたたみます。
部屋の南についた窓を上にガラリとあけ、そのまま宙に紙飛行機を飛ばすと、手紙の魔法陣は青空の彼方に消えて行きました。このまま騎士学校に向かうでしょう。
よし、ミッションクリアです。これでわたくしの入学は取り消せません。
そうだ! 先生にも合格したことをお知らせしなければいけません。わたくしは机の天板下の引き出しから便箋を取り出し、お手紙をカリカリと書き始めます。
“先生のご協力のおかげで、無事に試験に合格することができました。なんと、なんと、次席だったのですよ! お父様に見つからないうちに、入学書類は返送しました。またお家に伺う際に、お礼の品をお持ちします。本当にありがとうございました。“
描いた手紙の裏に魔法陣を書きこめば、手紙が紙飛行機型に折り畳まれます。
窓をガラリと開け、ピュウンと空に手紙を飛ばすと、きらりと光ってお手紙は消えました。
しばらく経つと、返信が返ってきます。手紙には短く、よかったね。とだけ書かれていました。
思ったよりドライなお手紙にガッカリとしていると廊下の方でバタバタと走る音がしました。
ラマはお父様にこの件を伝えたのでしょう。数分で部屋に戻ってきたラマは慌てた様子でこちらに駆け寄ってきました。
「すぐにセラージュ様との面会がございます。念のためお髪を整えさせてください」
やはり声がかかりましたね。
「お父様の執務室ですか? 珍しいですね。わたくし、あそこに入ったことはないかもしれません」
「それだけ緊急事態なのですよ」
緊急事態。そうですね。
自分の駒だと思っていた娘が好き勝手やり始め、騎士団に入るなんてそりゃあ緊急事態でしょう。
執務室の扉をコンコン、とノックをすると中から入れ、というお父様の低い声が聞こえます。わたくしは木製の重い扉を開け執務室の中に入ります。
手前に来客者向けのソファとローテーブルが配置されており、奥にはお父様が使っているであろう、大きな執務机が置かれています。
まるで前の世界の社長室を思わせる空間ですね。壁には歴代領主の肖像画が飾られていました。その一枚が裏返えされています。それがちょっと気になって視線を向けていると、お父様に声をかけられます。
「リジェット、そこに座りなさい」
ソファに深めに腰掛けます。お父様は思った通り、眉間に深いシワを入れてこちらを見ていました。
「リジェット。どうやって試験を受けたのだ? あの日お前はあの部屋から出ていなかったはずだろう?」
「さあ。この世には不思議な手段がいくつもありますからね。そのどれかを使ったのではないですか?」
ツンと済ました口調で言うと、お父様は頭をガシガシと掻きむしります。どうせ、クゥール様関係だろう。という呟きが聞こえた気がします。あら、わかっているではないですか。お父様はその後も質問を続けてきます。
「試験料はどうした? シュナイザー商会との取引はもう行っていないだろう?」
「あら。シュナイザー商会がなくても別のルートで資金を得ることはできますわ。お父様はそちらまで把握していなかった様ですけども」
「どうしてお前は……そう言う方向に知恵が働くんだ……」
どうやらお母様はお父様にお茶の販売をカフェで行っていることは黙っていてくれた様です。
そのことに心の中で感謝しつつ、もう一度お父様と向かい合います。
そもそも自分の娘が自立心を持って自分で動ける、ということは成長の証だと思うのですが、こういうことをしてもお父様は全く褒めてなんて、下さらないのですよね。
きっとお父様はお兄様達が同じことをしたら手放しで喜んだ気さえするのです。特に長子であるユリアーンお兄様なんかが同じことをやったら、それはもう有頂天でしょう。次期領主ですもの。なのに、わたくしが女性であるというだけで、大人しくいることを要求されるなんて……。
考えるたびにその鬱憤が、じわじわと心の器から溢れていきます。ついにその思いは言葉に出てきてしまいました。
「わたくし、いつも疑問に思っていたんです」
「疑問?」
お父様はわたくしの言葉に眉を潜めます。
「ええ、疑問です。お父様はいつもわたくしを愛しているとおっしゃいます。
愛しているから幸せになって欲しいと。
でもお父様が愛しているのは果たして本当にわたくしなのかしらって」
お父様はわたくしの言葉を理解できていないようです。眉間のシワはさらに深くなり、怪訝な顔になって行きます。
「リジェットには幸せになって欲しいから、親としてできることをしているまでじゃないか」
「それをわたくしが望んだことが一度だってありましたか?」
「またクゥール様に入れ知恵でもされたか。
全くあの男は本当にタチが悪い。匿ってやっているのに、揚げ足を取る真似ばかりする」
「先生のことは関係ありません」
「それにしたってずいぶん懐いているようじゃないか」
「そりゃあ、懐きますよ。自分のやりたい事の邪魔しかしてこない家族と、応援して手助けしてくれる他人なら、後者を選ぶに決まっているでしょう」
「生意気な口を聞くのではない」
「お父様こそ話をそらさずに現実をしっかりと確認してください」
「お父様はいつもわたくしのため、と言いながら、自領の行く末のためにあんなくだらない男を婚約者に据えたり、協力してくださるクゥール様やシュナイザー商会と縁を切らせようとします。
……一番許せないのは、騎士学校への入学試験を許してくれなかったことですけどね。
お父様はわたくしをあくまでもオルブライト家の末娘、としてしか見ていらっしゃらないのです。」
お父様の目をキッと睨みます。
「お父様が愛しているのは実像のわたくしではなく、お父様の頭の中にしか存在しない、自分の思い通りに動く、虚像のリジェットなのです」
「何を言っているのだ⁉︎」
「お父様の頭の中にいるリジェットはきっと従順で、素直で、なんでも言うことを聞くんでしょうね。まるでお人形だわ……。本当のわたくしはただの剣狂いなのに……」
ふう、とため息をついて強い視線をお父様にやると、お父様は小刻みに震えながら、拳を握りしめていました。
「わたくし、何がなんでも騎士学校に行きますからね」
「絶対にお前を騎士学校にはやらぬ!」
お父様は半分意固地になっている気がします。まあ、焚きつけたわたくしにも悪いところが沢山ありますが。
先生のように言質をとらず飄々と言葉を躱して、要求を飲ませるなんて高度な事、わたくしにはできません。
わたくし、目標に向かって一直線の人間ですもの。
もう、何も聞いてくれない人に対しては力づくでわからせるしかないのかもしれません。
「お父様、言葉で理解できないのであれば、剣を交えましょう」
「それで何がわかるというのだ。無駄な決闘はしない」
「無駄なんかじゃありませんよ。この決闘でわたくしがお父様より強い、ということが証明されます」
「何を言っているのだ。馬鹿馬鹿しい」
憤りながらも呆れた表情をするお父様の表情を見て、わたくしはあと一押しだ、ということを悟ります。
この感じだともう少しで、着火します。
「わたくしが怖いのですか?勝負から逃げるだなんて、お可愛らしいですね」
満面の笑みで可愛らしく言います。
怒ってくださいお父様。わたくしの思った通りに。
「お父様に決闘を申し込みます! 気に入らなければ、その場で切り捨ててくださっても構いません!」
声高らかにかつ簡潔に、わたくしは言い放ちました。
「本気なんだな」
「……ええ、本気ですとも」
わたくしが言い切ると、お父様は深いため息をつきます。
「いいだろう、リジェット。準備をして、一時間後に中庭に来なさい」
焚き付けられましたね。わたくしは心の奥に眠っていた靄が闘志に姿を変えて湧き上がってくるのを感じます。
わたくし、絶対にお父様から勝利をもぎ取ってみせますから。
ゆらりと下から見上げるようにお父様の顔を見ます。目尻を下げ、蔑んだような暗さを孕んだ笑みを浮かべたわたくしはお父様の目にどう映ったのでしょうか。
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