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おや……妻の様子がおかしい……2
しおりを挟むしかし考え方を変えればそれは必然だったのかも知れない。ミラジェは特殊な環境下で生きている期間が長かったので、ある一定の条件下__ルールがある環境に適応するのが得意だったのだ。
下町のルールは母子二人で助け合い、小さな暮らしを保つこと。
アングロッタ男爵家のルールは義母と姉達に逆らわず、家の最下位の立場を持つ者として、相応しい態度で虐げられること。
早く身を馴染ませなければ、命を失いかねない状況に置かれると、人は意地でも成長しようとするものだ。
そして肝心のエイベッド公爵家ルールは、王族を除けば、王国内最高位の公爵家になる家の女主人として相応しい教養と振る舞いを身につけ、この家を継ぐ、正統な後継を生み出すことだ。
シャルルの血を引く人間を誰もが欲していることは、幼いミラジェにも明らかな事実だった。
使用人達は皆、ミラジェが後継を生むことを期待している。ミラジェのことを“若奥様”と呼んで、心から慕ってくれているのは、その役割を達成するための助力でもあるのだ。
それまでの環境が劣悪すぎたミラジェにとって公爵家のルールは今までのルールの中で一番ぬるい。最低限人権が確保されているように感じるし、それほど苦ではなさそうだった。
強いていえば、女主人として相応しい振る舞いをするために、さまざまなことを一気に学ばねばならないことは大変であったが、知識に飢えていたミラジェにとってはそれも楽しいご褒美のように思えてしまう。
一つも弱音を吐かず、黙々と学び続けるミラジェの姿を目の当たりにした、エイベッド家の使用人たちは、感心しきりだった。
結婚式の当日も朝早くから、来賓者の名前と顔を一致させるべく、何度も最終確認を繰り返している。
美しいドレスに見惚れることもなく、目の前にあるやるべき課題を片付けていく姿は、若いながらも、この家での女主人そのものだった。
その様子をみて、侍女たちは口々に語る。
「若奥様は本当に真面目な方ねえ……」
「本当に。あんな詰め込むのも無理な量のお勉強を完璧にこなしてしまうなんて」
「初めはあまりにもお若かったから、シャルル様は特殊なご趣味に目覚めてしまったのだわと、悲観的に思ってしまったけれど、あのご様子を見ると若奥様は素晴らしい素養を持った方なんじゃないかしら。どこか肝も座っているところもあって、とっても頼もしいわ」
「それに、何をしても、“ありがとう”と花が綻ぶような笑顔で言ってくださるところも、グッときますよねえ……。本当に仕えがいがある方です」
使用人達はうんうん、と頷き合う。
「シャルル様の目は確かだったのかもしれません」
ミラジェの頑張りは、シャルルの評判を上げるにも一役買っていた。
しかし、当の本人は打算だらけだった。
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