氷の公爵と呼ばれた旦那様はただのヘタレですし、妻の私は子猫です

菜っぱ

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おや……妻の様子がおかしい…… 5

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結婚式が始まる一時間時ほど前。シャルルの執務室に、くだんのテイラー侯爵が挨拶にと足を運んでいた。

「テイラー侯爵。本日は遠いところからわざわざありがとうございました」
「これはこれは、エイベッド公爵。今日は空も青々と晴れ渡っていて、良い結婚式日和ですね。誠におめでとうございます」

 テイラー侯爵は穏やかに微笑む。その表情はシャルルとミラジェの結婚を心から祝福しているように見えた。

「侯爵には……感謝しても仕切れません。領地で問題が起きているというときにあの子のことでご面倒をかけてしまって……」

 申し訳ないという態度でシャルルが切り出すと、テイラー侯爵はとんでもないっ! と首を横に振る。

「いいえ! 感謝するのはこちらの方です。私たちもあの方はの素晴らしい着眼点に大変助けられました」
「着眼点……?」
「ええ。今、我が領地では水質汚染に悩ませられているのはご存知でしょう? 私はあの子と面会があった日に、この状況を打開するために何かいい方法はないかと若奥様に尋ねたのですよ」
「ミラジェにですか?」

 シャルルはテイラー侯爵の言葉に目を丸くする。正直テイラー侯爵も、なかなか酷なことを聞くな、と思った。
 自分のイメージではミラジェはか弱い少女、と言う印象が大きい。そんな彼女に水質汚染を改善できるだけの知恵があるようには思えなかった。

「はい。そうしたら、あの方は素晴らしいアイデアをくださいましてね」

 侯爵は視線は穏やかだが、その口ぶりからは隠せない興奮をひしひしと感じた。

「汚染された水をそのまま水路に流すのではなく、濾過をする構造を水路内に作ったらよろしい、と言ってくださったのですよ」
「濾過……ですか?」

 ミラジェが提案したのは、最初は砂利を使い大体の汚れを取り除いたあと、徐々に粒子の細かい砂利を通し、最後には目の細かい布を使って、水を濾していくという構造の濾過器だった。

 この国では、汚水された水は浄化するという考えはなく、汚れた水は大量の水で薄めるしかないと考えられていた。
 そんな彼らにとって、ミラジェの考えは思いもよらぬ大発明だったのだ。
 侯爵はミラジェの助言を受け、直ちに浄水施設の建設を始めた。今はまだ実験段階だが、その成果は上々らしい。

「そんなことがあの子に思いつくなんて……信じられないな」

 シャルルは、テイラー侯爵の言葉を未だ信じられない気持ちで聞いていた。

「若奥様は、他にも様々なことをご存知のようでした。……もしかしたら彼女は、エイベッド公爵家に繁栄をもたらす、金の卵かもしれませんね」

 爛々とした瞳の侯爵はこれからも、侯爵家とミラジェは関係を紡いでいきたい考えであることを告げる。

(ミラジェを養子とすることで、侯爵家に借りができてしまうことを苦々しく思っていたが、まさか彼女が利益をもたらしてくるとは思わなかったな……)

 シャルルは侯爵の言葉に曖昧に頷くことしかできなかった。
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