氷の公爵と呼ばれた旦那様はただのヘタレですし、妻の私は子猫です

菜っぱ

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家主の心中は察せず、猫道まっしぐら4

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 その晩、ミラジェは自室で眠るのだろう、とタカを括っていたシャルルは、就寝時間になってやってきたミラジェの姿に瞠目した。

「ミラジェ……。何度もいうが、君は自室があるのだから、そちらで寝た方が熟睡できるだろう? わざわざ俺の部屋にくる必要はない。無理はしなくてもいいんだ」

 嗜めるようなシャルルの言葉に、ミラジェはなんのこっちゃと言わんばかりに瞳を瞬かせた。

「あら? こちらも何度も言わせていただきますが、私は猫ですよ? 猫はどこでも自由に眠る生き物です。旦那様に私の寝場所を指定する権利はございません」

 そういって失礼しますー! と布団に潜り込んだミラジェはベッドの端っこの方で枕も使わずにくるりとまるまりこむ。

(本当に猫のようだな……)

 当たり前だがシャルルの寝室にベッドは一台しかない。しかしシャルルの愛用のベッドは大柄なシャルルが手足を大きく広げても、はみ出ることのない立派なキングサイズだ。幸いにも小柄なミラジェが一人増えても、狭いとは感じない代物ではある。

(仕方がない……。今日は一緒に寝るしかないか)

 ソファで寝るにもシャルルは大きすぎる。諦めてそのまま大人しく眠ることにした。

 うとうとと、意識が落ちそうになった頃だった。

 背を向けて寝ていると、シャルルの背中にヒヤリとした感覚が走った。

「⁉︎」

 シャルルは未知の感触にベッドから飛び起きる。

 __何が起こったか説明をしよう。シャルルの服の中に顔を突っ込んできたのだ。

「何をしてるんだ⁉︎」
「え? 顔を旦那様の寝間着の中に突っ込みました……? こういうことも……猫、することあるでしょう?」

(ヒヤリとしたあれは、唇の感触だったか!)

 一瞬、何をしているのか、わからず動揺したが、流石にそれはだめだ、とミラジェを叱るとキョトンとした顔をした後、変な顔をしていたが、最終的には納得したようで二度としなくなった。

 ミラジェは家主であるシャルルに嫌われるのは避けたいようで、真剣に叱ると素直に聞き入れてくれるところだけは本物の猫とは違ってありがたい部分だった。

 そして、ミラジェは何よりも頭の悪い子供ではないのだ。これらの行動はあくまでもシャルルの前でだけ行われる。
 シャルルのいない使用人の前や来客時などは、楚々とした淑女らしい様子を崩さないところが、憎たらしいところだ。

(どうやら、彼女の目的は家自体に損害をもたらしたいわけではなく、俺を少しだけ困らせたいだけなのだな……)

 最初はそんないたずらっ子なミラジェの行動にどう対処すればいいかもわからず、ほとほと困り果ててしまっていたが、最近はそんな行動が可愛らしいとも感じてしまっている。

 今まで家族に蔑ろにされていたミラジェが自分にいたずらをしている様子は、求めても与えられなかったスキンシップを得ようとしているようにも見えた。

 なんともいじらしい。

 シャルルは、鋭利な美貌と評される男だがかわいい生き物にめっぽう弱いのだ。

 かわいいいたずらが心に刺さってしまい、抗えぬシャルルはミラジェの悪戯を次第に許容するようになっていた。
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