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この世は需要と供給で成り立っている2
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一年の間で頻度は以前より減ったが、夜になるとミラジェがシャルルの部屋に入り込んでくるのは今も変わらない。
変わったことといえば、ミラジェが美しい女性に成長したことだ。
もともと肩ほどの長さだったシルクのような銀髪は、腰まで長くなった。
子供らしさが消え、大人らしさが垣間見えるようになったミラジェを見て、シャルルは最近とぎまぎしてしまうことがある。
最近はよいしょと、膝に乗ろうとするミラジェを慌てて止めることも多い。そんな時、ミラジェは不満げな顔を見せるが、シャルルが本気で困った表情を見せるとなぜか満足した顔で去っていく。なぜだ。
「ああ、最終的に私は君を逃がしてやれなかったな……」
寝る前の団欒の時間。はあと大きめにため息をつきながらそういったシャルルを見てミラジェは怪訝な表情を見せた。
「逃げたりしませんよ。私は旦那様が思っている以上にこの家で快適に暮らしておりますもの。こんないいところ、出て行ったりはしません」
「頻繁に間者が入るような家でもか?」
最初の事件以来、ミラジェは何度も刺客に襲われている。最初の事件を引き起こしたホーライド家の御令嬢はお縄になったが、その後もシャルルを我が夫にと心中で狙っていた御令嬢たちがミラジェを亡き者にしようとわんさかと刺客送りつけてきた。
シャルルの記憶では今は公爵を退いたシャルルの父も同じように人気があり、母が公爵家を出るまで今のミラジェと同じような事態が続いていた。
この手の人間は取り締まっても、取り締まっても沸いてくるので、その度に始末するしかない。
シャルルはいつかミラジェの心が壊れてしまうのではないかと心配になるのだが……。
「あら。貴族界の膿を掃除できていいじゃないですか。私の暇を潰す、猫じゃらしみたいなものでしょう?」
と、ミラジェいつもこんな感じである。
「君はその手のことを本当に恐れないな。私はその処分に毎回頭を悩ませているのだがな……」
毎回ミラジェが襲われたと連絡が入るたびに、心配でシャルルは寿命が縮む思いをする。そんなシャルルの心中とは裏腹に、ミラジェはこの一年で自己流の暗殺術だけではなく、貴族的な護身用術を熱心に学び、間者を捉える技に磨きをかけている。本当にタダではおきない性格だ……と感心する。
「やっぱり旦那様は優しいからそういう方々を捌く時も、心が痛むのですか?」
「まあ、多少はな……」
「私は全然傷みませんけれど。旦那様が本当は苦手としている、冷酷な業務は私が受け持ちますから安心してください!」
どん、と胸を自信満々に胸を叩いたミラジェを見てシャルルはハハハ……と気の抜けた笑いを見せた。
遠い目をしだしたシャルルを見て、ミラジェは不安げな表情を見せた。
「……旦那様。私のこういうところ……引いちゃいますか?」
珍しい、しょんぼりとした表情。伏せ目姿は初めて出会った頃、控えめなミラジェの姿を彷彿とさせる可愛さだった。
(ミラジェはなんというか……。感情の振れ幅が大きいな。いつもは剛気な性格も好ましいが、たまに見せるしおらしいところはなんとも言えぬ可愛らしさがある)
きっと、彼女といれば人生に飽きることはないだろうと思わせてくれる多彩さがある。
「いや……私は……内心君のそういうアグレッシブで、その……ごにょごにょ……ちょっと猟奇的で……」
「何か?」
「なんでもないっ! 行動的なところを……好ましく思っているんだ。元気でかわいらしいなあと思って……」
そう言ったシャルルは耳まで真っ赤に染まっていた。
(本当にかわいい人……)
ミラジェはこの表情にめっぽう弱い。
「ずるいです……」
俯きがちに言うミラジェ。シャルルはミラジェのたまに見せるかわいいところに弱い。
お互いに弱いところを攻撃されあった二人は少し黙り込む。
沈黙を 破ったのはミラジェだった。
「旦那様……」
しなりと体をシャルルに寄せたミラジェは、シャルルの襟元のボタンを外そうとする。
「わあああ! だめだ! だめだ!」
「ちっ! 絶対今流されると思ったのに~」
「君は淑女なんだから、そういうことはするな!」
「アレナさんが、女の人から迫るのもいいって言ってました!」
「アレナ! あいつは何やってるんだ!」
「やっぱり……こうやって拒むってことは旦那様は私のことがお嫌いなのかしら……。であれば好きになってもらえるように迫るだけですが」
不穏な空気を感じ取ったシャルルは焦ったように条件を設置する。
「わかった! わかった! じゃあ、ルールを決めよう!
君は好きだろう? ルールに則るのか」
「え? まあ……。楽でいいですよね」
「君が十八歳になったら、そういうことを解禁しよう! それまでは猫ってことで!」
「猫……」
「旦那様は、どうしてそこまで私を妻扱いしたくないのですか……」
そう言われたシャルルは途端に仏頂面になる。
「君が可愛すぎて、手を出したくなるからだよ……」
「あら? 私は手を出してくださっても構わないのですけれど。……とっくに成人はしておりますし」
意外な答えにミラジェはパチパチと瞬きをした。体が育ち切っておらず、子供子供していた一年前なら躊躇はするだろうが、栄養のあるものをたくさん食べ、成長した今のミラジェは大人の女性そのものだった。
わざと誘惑するように、さらりとなびく、ナイトドレスの裾をめくって見せる。
シャルルはミラジェの誘惑をぐぬぬと耐えた。
(なんでかわからないけど……旦那様って私のこと結構好きだよな……)
いつも不思議には思うが、そういう人もいるのだろうとふんわりと自分を納得させるようにしている。性癖を掘り返そうなんて愚かな真似はしない。
「……一度ルールを作ったんだ。それを自ら破るようなことはしないよ」
惚れた方が負け、というのは本当だ。ミラジェはため息を吐く。
全てを許してしまえる気がした。
「じゃあ、私はこれからも、猫がしそうなことの範囲内で、旦那様を分振り回し、誘惑し続けれいいのですね! 私はルールを破りませんが、旦那様がルールを破った場合、私は無罪になりますから!」
「え……」
シャルルの顔から血の気が引いた。
「ふふふ……! 私、俄然楽しくなってきました!」
(……自分は耐えられるだろうか)
全部自分で撒いた種だと思って諦めるしかなかった。
変わったことといえば、ミラジェが美しい女性に成長したことだ。
もともと肩ほどの長さだったシルクのような銀髪は、腰まで長くなった。
子供らしさが消え、大人らしさが垣間見えるようになったミラジェを見て、シャルルは最近とぎまぎしてしまうことがある。
最近はよいしょと、膝に乗ろうとするミラジェを慌てて止めることも多い。そんな時、ミラジェは不満げな顔を見せるが、シャルルが本気で困った表情を見せるとなぜか満足した顔で去っていく。なぜだ。
「ああ、最終的に私は君を逃がしてやれなかったな……」
寝る前の団欒の時間。はあと大きめにため息をつきながらそういったシャルルを見てミラジェは怪訝な表情を見せた。
「逃げたりしませんよ。私は旦那様が思っている以上にこの家で快適に暮らしておりますもの。こんないいところ、出て行ったりはしません」
「頻繁に間者が入るような家でもか?」
最初の事件以来、ミラジェは何度も刺客に襲われている。最初の事件を引き起こしたホーライド家の御令嬢はお縄になったが、その後もシャルルを我が夫にと心中で狙っていた御令嬢たちがミラジェを亡き者にしようとわんさかと刺客送りつけてきた。
シャルルの記憶では今は公爵を退いたシャルルの父も同じように人気があり、母が公爵家を出るまで今のミラジェと同じような事態が続いていた。
この手の人間は取り締まっても、取り締まっても沸いてくるので、その度に始末するしかない。
シャルルはいつかミラジェの心が壊れてしまうのではないかと心配になるのだが……。
「あら。貴族界の膿を掃除できていいじゃないですか。私の暇を潰す、猫じゃらしみたいなものでしょう?」
と、ミラジェいつもこんな感じである。
「君はその手のことを本当に恐れないな。私はその処分に毎回頭を悩ませているのだがな……」
毎回ミラジェが襲われたと連絡が入るたびに、心配でシャルルは寿命が縮む思いをする。そんなシャルルの心中とは裏腹に、ミラジェはこの一年で自己流の暗殺術だけではなく、貴族的な護身用術を熱心に学び、間者を捉える技に磨きをかけている。本当にタダではおきない性格だ……と感心する。
「やっぱり旦那様は優しいからそういう方々を捌く時も、心が痛むのですか?」
「まあ、多少はな……」
「私は全然傷みませんけれど。旦那様が本当は苦手としている、冷酷な業務は私が受け持ちますから安心してください!」
どん、と胸を自信満々に胸を叩いたミラジェを見てシャルルはハハハ……と気の抜けた笑いを見せた。
遠い目をしだしたシャルルを見て、ミラジェは不安げな表情を見せた。
「……旦那様。私のこういうところ……引いちゃいますか?」
珍しい、しょんぼりとした表情。伏せ目姿は初めて出会った頃、控えめなミラジェの姿を彷彿とさせる可愛さだった。
(ミラジェはなんというか……。感情の振れ幅が大きいな。いつもは剛気な性格も好ましいが、たまに見せるしおらしいところはなんとも言えぬ可愛らしさがある)
きっと、彼女といれば人生に飽きることはないだろうと思わせてくれる多彩さがある。
「いや……私は……内心君のそういうアグレッシブで、その……ごにょごにょ……ちょっと猟奇的で……」
「何か?」
「なんでもないっ! 行動的なところを……好ましく思っているんだ。元気でかわいらしいなあと思って……」
そう言ったシャルルは耳まで真っ赤に染まっていた。
(本当にかわいい人……)
ミラジェはこの表情にめっぽう弱い。
「ずるいです……」
俯きがちに言うミラジェ。シャルルはミラジェのたまに見せるかわいいところに弱い。
お互いに弱いところを攻撃されあった二人は少し黙り込む。
沈黙を 破ったのはミラジェだった。
「旦那様……」
しなりと体をシャルルに寄せたミラジェは、シャルルの襟元のボタンを外そうとする。
「わあああ! だめだ! だめだ!」
「ちっ! 絶対今流されると思ったのに~」
「君は淑女なんだから、そういうことはするな!」
「アレナさんが、女の人から迫るのもいいって言ってました!」
「アレナ! あいつは何やってるんだ!」
「やっぱり……こうやって拒むってことは旦那様は私のことがお嫌いなのかしら……。であれば好きになってもらえるように迫るだけですが」
不穏な空気を感じ取ったシャルルは焦ったように条件を設置する。
「わかった! わかった! じゃあ、ルールを決めよう!
君は好きだろう? ルールに則るのか」
「え? まあ……。楽でいいですよね」
「君が十八歳になったら、そういうことを解禁しよう! それまでは猫ってことで!」
「猫……」
「旦那様は、どうしてそこまで私を妻扱いしたくないのですか……」
そう言われたシャルルは途端に仏頂面になる。
「君が可愛すぎて、手を出したくなるからだよ……」
「あら? 私は手を出してくださっても構わないのですけれど。……とっくに成人はしておりますし」
意外な答えにミラジェはパチパチと瞬きをした。体が育ち切っておらず、子供子供していた一年前なら躊躇はするだろうが、栄養のあるものをたくさん食べ、成長した今のミラジェは大人の女性そのものだった。
わざと誘惑するように、さらりとなびく、ナイトドレスの裾をめくって見せる。
シャルルはミラジェの誘惑をぐぬぬと耐えた。
(なんでかわからないけど……旦那様って私のこと結構好きだよな……)
いつも不思議には思うが、そういう人もいるのだろうとふんわりと自分を納得させるようにしている。性癖を掘り返そうなんて愚かな真似はしない。
「……一度ルールを作ったんだ。それを自ら破るようなことはしないよ」
惚れた方が負け、というのは本当だ。ミラジェはため息を吐く。
全てを許してしまえる気がした。
「じゃあ、私はこれからも、猫がしそうなことの範囲内で、旦那様を分振り回し、誘惑し続けれいいのですね! 私はルールを破りませんが、旦那様がルールを破った場合、私は無罪になりますから!」
「え……」
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