龍の叫びを聞く君へ

八野 熮

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1000年前の憂鬱

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目覚めたらそこは、大きな地平線の上だった。足下程の長さの雑草が影を浴びておもむろになびいていた。
生まれてから今まで人に親切にするとかは性に合わないと思っていたから、目の前に広がる地平線にはびっくりせざるを得なかった。天国に見えたような気がしたのだ。 「気がした」と言う言葉はいつまでたってもその言葉の範疇を出ない。つまるところ、地獄にも見えたのだ。言い換えるならば、太陽と月が同時に存在していると言えるだろう。怖さとか怒りとかは無くて、ただ自分と言う器を地上に置いていた。そこでやっと私はこの話の核に気づいた。ずっと空を見ていたものだから、目の前にあるちっぽけな湖の存在に気付かなかったのである。
私はただ真っ直ぐに湖に近づいた。湖に近づく途中、てんとう虫が頭上を舞って行った。ここにも生物が住んでいるんだなぁと呑気に思った。もう少しで湖に着きそうになった時、「ピーーーッッ」といった音が鳴ったと思うと湖から大きな魚が出てきた。と、最初は思った。これは私の目が悪いのでは無く、それは存在しないものだったから、必死に昔読んだ本を思い出した。なびく立て髪に澄んだ蒼色の目、そしてびっしりと生えた鱗。

龍であった。

我ながらその時にとった行動はあまりにも呑気であったし、不細工でもあった。
気絶したのである。意識が薄れてく中で龍の目が私を両の目で見つめていた。

はっと目が覚めると、そこは自分の部屋だった。飲みかけのジュースから結露が漏れ、机がびしょびしょになり、まるで先程の湖みたくなっていた。
夢だったのか…。ふんわりと向上した気分のまま私は机を拭く布巾を取るために一階へと降りていった。

この夢は、日が経つにつれどんどん記憶から消えていった。だが、一つだけ忘れられないものがあった。それは、意識が薄れていった時に見た龍の目が、





なぜだか泣いてるように見えたからであった。
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