3 / 7
ケース③ 『どう考えても人外な捻じれた角を頭に生やした銀髪の美青年』
しおりを挟む
ケース③ 『どう考えても人外な捻じれた角を頭に生やした銀髪の美青年』
「えー……取り敢えず、お名前は……?」
言っていて思った。完全に面接の流れだ、これ。
しかし気分を害した様子もなく、どう考えても人外な黒色の角を生やした美青年は、銀の髪から覗く紅の瞳で此方も見つめ、返答した。
「はい。僕はアザゼルと申します。見ての通り人間ではありません」
両手を品よく膝の上に置いて神妙な面持ちで臨むアザゼルと称する人外の青年。
……一応自分も、エルフや竜人、ドワーフといったコミュニケーションを取れる亜人と呼ばれる者と会ったことはある。しかし、様々な場所を旅した自分でも角を生やした人種とは会ったことが無かった。
どういった人種なのか……前二人がぶっ飛んでいた為に警戒する私。それを知ってか知らずか、青年は言葉を続けた。
「僕は、西の海を超えた先にある〝永久に闇に包まれた不夜の孤島〟が主にして〝西の恐ろしき魔王〟アザゼル。
此度聖女リラ様に魔王討伐をお願いしたく、参った次第です」
………………
………………………………
………………………………………………
「成程。良く分かりました。
さ、外に出て人気のない森にでも座りなさい。一瞬で楽にしてあげるから」
「介錯は任されよ」
「自首ご苦労様。金目のものは勝手に漁らせてもらうわよ」
席を立つ私とザザンとメーブ。それぞれ得物を手に取って準備万端いざ外へ、となったのだが、
「待って下さい誤解です!」
慌てることなく魔王アザゼルが止めに入る。チッ。
「誤解って何よ」
「今人族を襲っているのは〝東の血に飢えた魔王〟ルシファー。僕とは違う魔王なのです」
「ごめん、魔王って複数いるの?」
「います」
私の問いに力強く頷くアザゼル。そんな、力強く頷くとこ……?
困惑する私を余所に、自称魔王のアザゼルは実に人間臭い動作で溜息を吐いて頬に手を当て語り始めた。
「何処から説明したものか……。僕等は西の荒波を超えた先の、先ほど言った〝永久に闇に包まれた不夜の孤島〟で生活している魔物の群集団なのです。人間とは荒波の海によって隔たれ、特に関わることもなく平穏な暮らしをしていたのですが……」
「……魔物が?」
「魔物が、です」
こくりと頷くアザゼル。
「魔物と言えば貴方方人間からすれば凶暴で他者からの略奪で生計を立てているように思われるかもしれませんが、その実魔物の中にも平穏を望む者も一定数います。人魚であるマーマン然り怪鳥ハルピュイア然り、戦いを望まない魔物だけで構成された魔物の国家。それが僕が治める〝永久に闇に包まれた不夜の孤島〟なのです」
う、うーん。そう言われれば、魔物の中でもマーマンとかは場所によっては人間と共存している所もあると聞くなあ。
「我々は孤島で、それこそ人間と関わることなく引き籠りながらも生活していたのですが……東の魔王が復活してから、勝手に人間の国を襲い始めてしまって……」
ここで深い溜息を吐くアザゼル。
「勝手に戦を始めて人間を刺激するばかりか、此方の国にも協力を要請する始末」
「? ダメなの?」
首をかしげるメーブ。うん、確かに気になった。別に人間と関わることがないなら、放っておいていいんじゃない?
「ダメです」
しかしアザゼルは一蹴する。
「この世界、絶対数は人間の方が多いんですよ? 人族を敵に回していいことなんかありませんよ。おまけに、東の国の魔物共は古めかしいというか『足りない物資は余所から奪えばいいじゃない』的な考えで全く生計を立てようという考えがないんですよ」
はあ、と再び溜息を吐く。
「? それって……別にアザゼル殿には関係ないのでは?」
もっともな疑問を呈するザザン。が、
「関係大ありです」
またしても一蹴するアザゼル。
「人間を襲って、仮に魔物側が勝ったとすると、魔物側は次期に食料不足に陥るでしょう。東の方は古い考えのまま他者からの略奪で生活しているような生活能力ゼロな連中なので、遅かれ早かれ生活が破たんして我々西の方に頼るのは目に見えています。それはいけない。」
指を交差し、×印を作るアザゼル。
「我々は自分達で自給自足出来るサイクルを作りすでに完成しています。余所の連中に渡すだけの余剰分はないんです。一応いくらか貯蔵したり、する為の分はありますが……それでも東の方に放出すれば、あっという間に空になります」
「……う、うん」
なんだろう……なんか……なんか……。
「逆に、人間側が勝利すると、勢いづいて我々西の方にも遠征してちょっかいをかけて来る可能性があります。我々は戦いとか好まないし、得意でもない。故に人間側に勝利されても困るのです」
ふう、と息を吐く魔王アザゼル。
……うん。薄々気づいてはいた。気付いていた、けど……。
「………………
なんか、魔王のくせにえらい所帯じみているね、この魔王……」
「分かります? 日々の暮らしやクレーム対応だけでもいっぱいいっぱいなのに、東の魔王が好きかってやり出してこっちも困っているんですよ~」
そう言って出された紅茶を啜る魔王。えらい人間臭いなあ、おい。動作がその辺の中年おばさんと変わらんぞ。
「東の魔王って昔から戦好きのどうしようもない暴れん坊で。もう少し政治とか日々の生活とか、その辺を考えて落ち着いてもらえたらいいんですけどねー。本当、困った子ですよ」
「〝子〟なの?」
実はこいつの方が、年上?
「いえ、それはまあ言葉のあやと言うものでして」
ごほんと咳払い一つするアザゼル。
「ともあれ、東の魔王側に勝たれても、人間側に勝たれても、我々西の魔物側としては困る訳でして。それで勇者が魔王討伐に乗り出したという話を聞き、取り敢えず様子を見ることにしたのですが……」
そう語るアザゼルに、ずっと気になっていた疑問を意を決してぶつけてみる。
「……それは分かったけど……なんで魔王本人が乗り出しているの?」
そう、これが一番の疑問。別に側近とかで良くない? 何故魔王本人が出てくるのか。
私の疑問にぴくりと身体を震わせ、やがて観念したかのように魔王は茶器を置いて語った。
「……我々西方の魔物群は、戦いを好まないもので構成されていると説明したでしょう?」
「う、うん……って」
おいちょっとまて。まさか……。
「まあ要するに……
戦えるのが魔王である自分以外いないんですよね……」
『人材不足で魔王自ら出陣を⁉』
私とメーブ、ザザンの声が唱和する。同時に明後日の方を見る魔王の頬に一筋の冷たい汗がたらっりと流れる。
「どんだけ人材に困窮しているのよ、西の魔物⁉」
「こ、困窮はしていません! た、ただちょっと戦闘に特化した連中が少ないだけでして……!」
「困窮してるじゃん」
私の言葉にしどろもどろで言い訳するアザゼルを、ばっさり切り捨てるメーブ。
「い、いない訳じゃないんですよ? ただ、やっぱり東の魔王と戦うとか話し合いとか、そういうことを考えると力不足が否めなく……泣く泣く魔王である自分が行くことに……」
「切羽詰まっているでござるなぁ」
しみじみと頷くザザン。本当にな。
「ごほん。まあそういう経緯でして」
どういう経緯だ。
思わず零しそうになった言葉を飲みこむ。いかん、めっちゃツッコミたいけど話が進まなくなってしまう。
「この国の王子が勇者と認められ、魔王討伐に行くと聞いたので取り敢えず素行調査をしてみたのですが……」
魔王は探偵か何かか?
「その実、あんまりよろしくないですね」
「よろしくないんだ?」
「ないですねぇ」
メーブの言葉に頷くアザゼル。
「………………」
そっと目を逸らす私。うん……まあ……うん。
「女をとっかえひっかえ……なんて当たり前。時には仲間すらも入れ替えるのにためらいが無い。
こちらにおられるリラさんも新しく大国から別の宗教の神官が来るのでパーティをクビにされたでしょう?」
「しっかりリサーチされてるし!」
くう、人の気も知らないで!
「ああいうのが勇者だと、困るんですよね……勇者なのに評判悪くて人望はないし、女だけでなく仲間もとっかえひっかえみたいですし、お金は湯水のように使うし、手を貸そうと思っても魔王だからと断られるだろうし」
「最後のは誰が勇者でも同じだと思うけど」
魔王をパーティに加えて魔王討伐って意味分かんないし。
「どうしたもんかなーっと思っていたら此方のリラさんが離脱させられたのを知って、取り敢えず会ってみようと思いこうして参ったのです」
「会ってみようって……会ってどうなるのよ?」
会っても力になれないわよ。
私の問いにしかしアザゼルは困惑した表情で続ける。
「取り敢えず、勇者の話を聞かせてもらって……なんとか勇者パーティに加えてもらおうかと。
実際調べただけで百聞は一見に如かずといいますし。リラさん的には会うのも嫌かも知れませんがなんとか紹介してもらえたら……と。
パーティに入れなくても、要所要所で影ながら支えてあげて、上手く立ちまわって両方疲弊してくれれば、西方の魔王として和解なり、調停なり、共倒れなり出来るかと……」
「『共倒れ』て」
「人間臭くても所詮は魔王か」
ザザンとメーブが唸る。うん、結構エグイこと言うなあ。流石魔王。
「何言っているんですか! 東方だけでなく西方の魔王軍とも戦わないといけなくなるかもしれないんですよ⁉ いくら西方が戦いに特化していないとはいえ、それでも戦闘経験のない民草くらいなら流石に蹂躙出来るんですからね⁉ そうなったら挟撃されて人族は生き残るのも難しくなるんですからよ! いいんですかそれで! 大惨事になってからじゃ遅いんですからね!」
「う、うう。こいつ魔王のくせに一番常識あるな……」
前の二人が変態マゾと武士道な忍者とかいうあっぱらぱーだからか、余計常識度が際立つ……!
「と、とにかく。僕の要求は勇者との仲介です。角は魔術で隠して一魔術師を装い、どうにかして勇者を導いて東の方の魔王と対決させて少なくとも消耗させる必要があるんです。
性格は悪いようですが、そこはまあ旅している間においおい矯正して……いくしかないでしょう。他に勇者候補とかいないようですし」
「勇者との仲介……つまり紹介ねえ。追放した私の言葉に耳を傾けるとは思えないけど……」
でも断ったら余計ややこしくなりそうだなあ、こいつの場合。
「そこはまあ紹介さえしてくれればいいです。後はさっき言った通り偶然を装って要所要所手伝ってあげて上手く立ち回ればいけるかなーっと」
「偶然を装うって言ってもねぇ……」
「不審者ですな」
「……と、魔王よりもよっぽど不審者な二人が言っておりますが?」
「「酷い⁉」」
抗議するメーブとザザンを黙殺。アザゼルは困った表情を作るが、それでも……と言い募る。
「確かに不自然かもしれませんが、正直他に良い手が思いつかなくて。他に勇者候補もいないようですし、正体明かして魔王討伐に動いている国とかに協力しても用済みとなった瞬間背中からばっさり切り捨てられるのは目に見えてますし……。
やっぱり個人とかある程度小さな団体に正体隠して手を貸すしか我々西方の魔物群としては生き残る術はないんですよ」
「魔王なのになんて世知辛い! 魔王なのにすっごい世知辛いな!」
「すごい苦労人っぽいよ。人間じゃないけど」
思わずツッコム私とメーブ。この魔王、滅茶苦茶常識人の上苦労しているな!
「魔王だからって別に無差別に人間なんか襲う訳ないんですけどね。東の方のルシファーと所謂ヒロイックサーガ的な冒険譚のせいで、すっかり魔王=好戦的というイメージがくっ付いてしまって……」
「まさかの魔王が風評被害……!」
結論
う、ううむ。まさかこんな魔王もいるとは……⁉
唸る私に三人の視線が集中する。う、こ、これは……。
「で、どうするの?」
冒険者仲間を探す呪われたビキニアーマーを着こなすメーブ。
「ぜひとも魔王討伐にお加えいただきたく!」
魔王討伐に参加したい武士道な忍者、ザザン。
「取り敢えず、勇者に会いたくないとは思いますが、どうか紹介だけでも……」
おずおずと尋ねる角生やした美しき銀髪の青年魔王、アザゼル。
私の答えは……答え、は……。
「………………
取り敢えず全員勇者に紹介するから、明日から勇者追いかけよっか?」
溜息と共に、私は渋々泣きながらそう返したのだった。
これが――旅の始まり……否、再会の序盤の出来事となったと分かるのは、暫くした後のことである。
「えー……取り敢えず、お名前は……?」
言っていて思った。完全に面接の流れだ、これ。
しかし気分を害した様子もなく、どう考えても人外な黒色の角を生やした美青年は、銀の髪から覗く紅の瞳で此方も見つめ、返答した。
「はい。僕はアザゼルと申します。見ての通り人間ではありません」
両手を品よく膝の上に置いて神妙な面持ちで臨むアザゼルと称する人外の青年。
……一応自分も、エルフや竜人、ドワーフといったコミュニケーションを取れる亜人と呼ばれる者と会ったことはある。しかし、様々な場所を旅した自分でも角を生やした人種とは会ったことが無かった。
どういった人種なのか……前二人がぶっ飛んでいた為に警戒する私。それを知ってか知らずか、青年は言葉を続けた。
「僕は、西の海を超えた先にある〝永久に闇に包まれた不夜の孤島〟が主にして〝西の恐ろしき魔王〟アザゼル。
此度聖女リラ様に魔王討伐をお願いしたく、参った次第です」
………………
………………………………
………………………………………………
「成程。良く分かりました。
さ、外に出て人気のない森にでも座りなさい。一瞬で楽にしてあげるから」
「介錯は任されよ」
「自首ご苦労様。金目のものは勝手に漁らせてもらうわよ」
席を立つ私とザザンとメーブ。それぞれ得物を手に取って準備万端いざ外へ、となったのだが、
「待って下さい誤解です!」
慌てることなく魔王アザゼルが止めに入る。チッ。
「誤解って何よ」
「今人族を襲っているのは〝東の血に飢えた魔王〟ルシファー。僕とは違う魔王なのです」
「ごめん、魔王って複数いるの?」
「います」
私の問いに力強く頷くアザゼル。そんな、力強く頷くとこ……?
困惑する私を余所に、自称魔王のアザゼルは実に人間臭い動作で溜息を吐いて頬に手を当て語り始めた。
「何処から説明したものか……。僕等は西の荒波を超えた先の、先ほど言った〝永久に闇に包まれた不夜の孤島〟で生活している魔物の群集団なのです。人間とは荒波の海によって隔たれ、特に関わることもなく平穏な暮らしをしていたのですが……」
「……魔物が?」
「魔物が、です」
こくりと頷くアザゼル。
「魔物と言えば貴方方人間からすれば凶暴で他者からの略奪で生計を立てているように思われるかもしれませんが、その実魔物の中にも平穏を望む者も一定数います。人魚であるマーマン然り怪鳥ハルピュイア然り、戦いを望まない魔物だけで構成された魔物の国家。それが僕が治める〝永久に闇に包まれた不夜の孤島〟なのです」
う、うーん。そう言われれば、魔物の中でもマーマンとかは場所によっては人間と共存している所もあると聞くなあ。
「我々は孤島で、それこそ人間と関わることなく引き籠りながらも生活していたのですが……東の魔王が復活してから、勝手に人間の国を襲い始めてしまって……」
ここで深い溜息を吐くアザゼル。
「勝手に戦を始めて人間を刺激するばかりか、此方の国にも協力を要請する始末」
「? ダメなの?」
首をかしげるメーブ。うん、確かに気になった。別に人間と関わることがないなら、放っておいていいんじゃない?
「ダメです」
しかしアザゼルは一蹴する。
「この世界、絶対数は人間の方が多いんですよ? 人族を敵に回していいことなんかありませんよ。おまけに、東の国の魔物共は古めかしいというか『足りない物資は余所から奪えばいいじゃない』的な考えで全く生計を立てようという考えがないんですよ」
はあ、と再び溜息を吐く。
「? それって……別にアザゼル殿には関係ないのでは?」
もっともな疑問を呈するザザン。が、
「関係大ありです」
またしても一蹴するアザゼル。
「人間を襲って、仮に魔物側が勝ったとすると、魔物側は次期に食料不足に陥るでしょう。東の方は古い考えのまま他者からの略奪で生活しているような生活能力ゼロな連中なので、遅かれ早かれ生活が破たんして我々西の方に頼るのは目に見えています。それはいけない。」
指を交差し、×印を作るアザゼル。
「我々は自分達で自給自足出来るサイクルを作りすでに完成しています。余所の連中に渡すだけの余剰分はないんです。一応いくらか貯蔵したり、する為の分はありますが……それでも東の方に放出すれば、あっという間に空になります」
「……う、うん」
なんだろう……なんか……なんか……。
「逆に、人間側が勝利すると、勢いづいて我々西の方にも遠征してちょっかいをかけて来る可能性があります。我々は戦いとか好まないし、得意でもない。故に人間側に勝利されても困るのです」
ふう、と息を吐く魔王アザゼル。
……うん。薄々気づいてはいた。気付いていた、けど……。
「………………
なんか、魔王のくせにえらい所帯じみているね、この魔王……」
「分かります? 日々の暮らしやクレーム対応だけでもいっぱいいっぱいなのに、東の魔王が好きかってやり出してこっちも困っているんですよ~」
そう言って出された紅茶を啜る魔王。えらい人間臭いなあ、おい。動作がその辺の中年おばさんと変わらんぞ。
「東の魔王って昔から戦好きのどうしようもない暴れん坊で。もう少し政治とか日々の生活とか、その辺を考えて落ち着いてもらえたらいいんですけどねー。本当、困った子ですよ」
「〝子〟なの?」
実はこいつの方が、年上?
「いえ、それはまあ言葉のあやと言うものでして」
ごほんと咳払い一つするアザゼル。
「ともあれ、東の魔王側に勝たれても、人間側に勝たれても、我々西の魔物側としては困る訳でして。それで勇者が魔王討伐に乗り出したという話を聞き、取り敢えず様子を見ることにしたのですが……」
そう語るアザゼルに、ずっと気になっていた疑問を意を決してぶつけてみる。
「……それは分かったけど……なんで魔王本人が乗り出しているの?」
そう、これが一番の疑問。別に側近とかで良くない? 何故魔王本人が出てくるのか。
私の疑問にぴくりと身体を震わせ、やがて観念したかのように魔王は茶器を置いて語った。
「……我々西方の魔物群は、戦いを好まないもので構成されていると説明したでしょう?」
「う、うん……って」
おいちょっとまて。まさか……。
「まあ要するに……
戦えるのが魔王である自分以外いないんですよね……」
『人材不足で魔王自ら出陣を⁉』
私とメーブ、ザザンの声が唱和する。同時に明後日の方を見る魔王の頬に一筋の冷たい汗がたらっりと流れる。
「どんだけ人材に困窮しているのよ、西の魔物⁉」
「こ、困窮はしていません! た、ただちょっと戦闘に特化した連中が少ないだけでして……!」
「困窮してるじゃん」
私の言葉にしどろもどろで言い訳するアザゼルを、ばっさり切り捨てるメーブ。
「い、いない訳じゃないんですよ? ただ、やっぱり東の魔王と戦うとか話し合いとか、そういうことを考えると力不足が否めなく……泣く泣く魔王である自分が行くことに……」
「切羽詰まっているでござるなぁ」
しみじみと頷くザザン。本当にな。
「ごほん。まあそういう経緯でして」
どういう経緯だ。
思わず零しそうになった言葉を飲みこむ。いかん、めっちゃツッコミたいけど話が進まなくなってしまう。
「この国の王子が勇者と認められ、魔王討伐に行くと聞いたので取り敢えず素行調査をしてみたのですが……」
魔王は探偵か何かか?
「その実、あんまりよろしくないですね」
「よろしくないんだ?」
「ないですねぇ」
メーブの言葉に頷くアザゼル。
「………………」
そっと目を逸らす私。うん……まあ……うん。
「女をとっかえひっかえ……なんて当たり前。時には仲間すらも入れ替えるのにためらいが無い。
こちらにおられるリラさんも新しく大国から別の宗教の神官が来るのでパーティをクビにされたでしょう?」
「しっかりリサーチされてるし!」
くう、人の気も知らないで!
「ああいうのが勇者だと、困るんですよね……勇者なのに評判悪くて人望はないし、女だけでなく仲間もとっかえひっかえみたいですし、お金は湯水のように使うし、手を貸そうと思っても魔王だからと断られるだろうし」
「最後のは誰が勇者でも同じだと思うけど」
魔王をパーティに加えて魔王討伐って意味分かんないし。
「どうしたもんかなーっと思っていたら此方のリラさんが離脱させられたのを知って、取り敢えず会ってみようと思いこうして参ったのです」
「会ってみようって……会ってどうなるのよ?」
会っても力になれないわよ。
私の問いにしかしアザゼルは困惑した表情で続ける。
「取り敢えず、勇者の話を聞かせてもらって……なんとか勇者パーティに加えてもらおうかと。
実際調べただけで百聞は一見に如かずといいますし。リラさん的には会うのも嫌かも知れませんがなんとか紹介してもらえたら……と。
パーティに入れなくても、要所要所で影ながら支えてあげて、上手く立ちまわって両方疲弊してくれれば、西方の魔王として和解なり、調停なり、共倒れなり出来るかと……」
「『共倒れ』て」
「人間臭くても所詮は魔王か」
ザザンとメーブが唸る。うん、結構エグイこと言うなあ。流石魔王。
「何言っているんですか! 東方だけでなく西方の魔王軍とも戦わないといけなくなるかもしれないんですよ⁉ いくら西方が戦いに特化していないとはいえ、それでも戦闘経験のない民草くらいなら流石に蹂躙出来るんですからね⁉ そうなったら挟撃されて人族は生き残るのも難しくなるんですからよ! いいんですかそれで! 大惨事になってからじゃ遅いんですからね!」
「う、うう。こいつ魔王のくせに一番常識あるな……」
前の二人が変態マゾと武士道な忍者とかいうあっぱらぱーだからか、余計常識度が際立つ……!
「と、とにかく。僕の要求は勇者との仲介です。角は魔術で隠して一魔術師を装い、どうにかして勇者を導いて東の方の魔王と対決させて少なくとも消耗させる必要があるんです。
性格は悪いようですが、そこはまあ旅している間においおい矯正して……いくしかないでしょう。他に勇者候補とかいないようですし」
「勇者との仲介……つまり紹介ねえ。追放した私の言葉に耳を傾けるとは思えないけど……」
でも断ったら余計ややこしくなりそうだなあ、こいつの場合。
「そこはまあ紹介さえしてくれればいいです。後はさっき言った通り偶然を装って要所要所手伝ってあげて上手く立ち回ればいけるかなーっと」
「偶然を装うって言ってもねぇ……」
「不審者ですな」
「……と、魔王よりもよっぽど不審者な二人が言っておりますが?」
「「酷い⁉」」
抗議するメーブとザザンを黙殺。アザゼルは困った表情を作るが、それでも……と言い募る。
「確かに不自然かもしれませんが、正直他に良い手が思いつかなくて。他に勇者候補もいないようですし、正体明かして魔王討伐に動いている国とかに協力しても用済みとなった瞬間背中からばっさり切り捨てられるのは目に見えてますし……。
やっぱり個人とかある程度小さな団体に正体隠して手を貸すしか我々西方の魔物群としては生き残る術はないんですよ」
「魔王なのになんて世知辛い! 魔王なのにすっごい世知辛いな!」
「すごい苦労人っぽいよ。人間じゃないけど」
思わずツッコム私とメーブ。この魔王、滅茶苦茶常識人の上苦労しているな!
「魔王だからって別に無差別に人間なんか襲う訳ないんですけどね。東の方のルシファーと所謂ヒロイックサーガ的な冒険譚のせいで、すっかり魔王=好戦的というイメージがくっ付いてしまって……」
「まさかの魔王が風評被害……!」
結論
う、ううむ。まさかこんな魔王もいるとは……⁉
唸る私に三人の視線が集中する。う、こ、これは……。
「で、どうするの?」
冒険者仲間を探す呪われたビキニアーマーを着こなすメーブ。
「ぜひとも魔王討伐にお加えいただきたく!」
魔王討伐に参加したい武士道な忍者、ザザン。
「取り敢えず、勇者に会いたくないとは思いますが、どうか紹介だけでも……」
おずおずと尋ねる角生やした美しき銀髪の青年魔王、アザゼル。
私の答えは……答え、は……。
「………………
取り敢えず全員勇者に紹介するから、明日から勇者追いかけよっか?」
溜息と共に、私は渋々泣きながらそう返したのだった。
これが――旅の始まり……否、再会の序盤の出来事となったと分かるのは、暫くした後のことである。
0
あなたにおすすめの小説
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。
しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。
絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。
一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。
これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる