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モブなのに最終決戦に参加する羽目になりまして・・・

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「いくぞ、魔王! これが最後の戦いだ!」
『その思い上がり、返り討ちにしてくれるわ!』


 廃れた砦――魔王城――の屋上、夜空の下で視線が交差し合う。

 金髪緑眼の王子にして、勇者として認められたラルフ王子の言葉に、人の姿を模した魔王が挑発し返す。


『人同士で争い、足を引っ張り合い、挙句殺し合う劣等種族……。

 絶対なる力を全てとする我が魔物軍こそ、この世界を統治するのにふさわしい!』

「僕達はそれを認めない。弱肉強食を良しとし、か弱きものを切り捨てる世界を、僕等は受け入れることは出来ない!」
(ああ⁉ なんか凄い盛り上がっている⁉ か、完全に置いてけぼり……ど、ど、ど、どうしよう……⁉)


 聖剣を構え、魔王を睨むラルフ。対し、クスッと魔王は薄ら笑みを浮かべる。曲がった角、背中に生えた蝙蝠のような翼、そして病的なまでに青白い皮膚に紅の瞳。今までのどの敵すらも凌駕するオーラを身に纏うそれは、確かに魔王として相応しい畏怖を持っていた。


(ついでに言うとゲームで見た魔王のイラストそっくり! うんまあ此処乙女兼RPGゲームの世界だしね⁉)


 うん、と納得する俺っち……って。


(だから暢気に納得している場合じゃない⁉)


 いかん。完全に雰囲気に流されていた。


「いくぞ、皆! 最後の決戦だ!」

「はい!」「ええ!」


 ラルフ王子の声に応じるは、レナとリーゼロット! うん、もうお互いに口上終わったのね⁉


(ええい! ままよ! やるしかない!)


 前に出て武器である片手剣を構える。隣に立つはラルフ王子。俺っち達の後ろに杖を構えるレナと黒い装丁の本を開いて詠唱を開始するリーゼロット。

 はい。以上が仲間全員。


 ……………違う。違うんや。本来はもっと仲間いるはずなんや。でもほら、ね? 自分がちょっっっっと本来とは違う改変をしたいせいでね? 本来仲間になるはずの魔術師の長髪眼鏡とか槍で戦うイケメン戦士とか軒並みタイミングとかイベントとか出会いとか逃してね? 結局四人で旅して決戦に挑む羽目になったんや。


(ああ、俺っちが特に何も考えずに改変したせいで仲間になるはずの人がいなくなり、代わりにモブの俺っちと悪役令嬢が仲間に居るとかいう異常事態!)


 現実逃避したくなる俺っちの気持ち、少しは理解してもらえただろうか?


(まあこんな土壇場で現実逃避しても手遅れなんだけどね⁉)

『死ぬがいい! 矮小な人よ!』


 魔王が空中に飛び立つと、幾重もの黒い魔力の槍を周囲に作り、此方めがけて発射してくる。

 いきなりか! うん、でもまあ想定内!


「来い、ボンバー・グレムリン! 防御の出番だ!」


 片手剣を指揮者の指揮棒のように振るう。虚空に魔力出来た光の魔法陣が描かれ、魔法陣が弾けると共に小さなデフォルメされた小悪魔な姿をした妖精、ボンバー・グレムリンが現れる。


『ニヒヒ!』


 ニヤリと嗤うと共に手に持つ丸い爆弾を投げる。投げ放たれた爆弾は弧を描いて魔王が放った黒の槍とぶつかり合い、爆発。攻撃を相殺すると、ケタケタ笑いながら透けて消えていく。


『召喚魔法……味な真似を!』


 クッと面白がる魔王! 楽しそうなのは結構ですけど、俺っち達にとっては死闘なんですけどね⁉


「来い、ジャック・オー・ランタン!」


 呼びかけに応じ、先のボンバー・グレムリンと同じように魔法陣が浮かび上がり、そこからカボチャの頭に黒のマントで身を包んだ妖魔、ジャック・オー・ランタンが姿を見せる。


「お菓子があろうとなかろうと、影は貴方を追いかける……」


 俺っちの言葉に応じてジャック・オー・ランタンの背後にポツリポツリと幾つもの不気味な鬼火が浮かび、それによって生じた影が魔王へと伸びる。と、


「〝悪戯トリック〟!」


 俺っちの声と共に無数の影がぐにゃりと立体となって浮かび上がり、無数の刃となって空に浮かぶ魔王へと迫る!

 これぞ、俺っちの召喚魔法によって呼び出したジャック・オー・ランタンの必殺技の一つ、〝悪戯〟。無数の影を産み出し、敵を切り裂く範囲技!

 しかし、


『はっは! 召喚したモノ共を上手く使いよるわ!』


 驚きと喜び、両方の感情を滲ませる声と共に、魔王の周りに不気味な紫色の魔力で出来た球体の結界が出現。影とぶつかり合い、相殺し合って消え失せる。

 手強い! やっぱこの程度じゃあ牽制にもならないか⁉


「ジャック・オー・ランタン、退きんさい」


 俺っちの言葉に応じ、消えるジャック・オー・ランタン。

 このレベルのを幾つも召喚しても、対して効果は認められない、か。でも、それは俺っちに関してのみ!


「〝クレイドル・ブレッシング〟!」


 レナの呪文が唱えられ、俺っちとラルフ王子に防御魔法が付与される。


(ふはは! 主人公の支援魔法! 強化されるとゲームでは鉄壁となれるのだ! そうそう敗れると思うなよ、魔王!)


 思わず半分ヤケクソになりながら心の中で高笑いする俺っち。シラフで魔王と戦えないからね⁉


「っ成敗!」


 気合一閃。ラルフ王子が廃れて欠けた円柱を壁蹴りの要領で飛び跳ね、浮かぶ魔王に斬りつける。


『当たるかぁ!』


 しかしひょいっと上昇して躱す魔王。ううむ、やはり空に浮かんでいるとやりにくいな!


「墜ちろ、天空の裁き……〝ダモクレスの剣〟!」


 リーゼロットの呪文。言葉と共に魔王よりも更に上空に魔法陣が展開。その魔法陣の中央から闇で出来た巨大な剣がぬるりと現れ、魔王めがけて凄まじい速度で落下する。


(闇属性上級魔法! ついでに呪典外法書によってパワーアップした一撃!)


 なんやかんやあってリーゼロットが渡されたあの本、操ることが出来るようになったのだ! 流石にこれは魔王と言えど、ただでは済むまい!


『ふっ! やるな、女!』


 が、魔王は腕の一振りで堕ちる闇の剣を打ち砕く! 見れば、腕を振るのと同時に虚空から取り出したのか、抜身の魔剣をその手に握っていた。


『剣を抜いたのは幾星霜ぶりか……楽しませてくれる!』


 三日月の笑みが浮かぶ。ううむ、ちょっと本気にさせちゃったか⁉ でもまあ、遅かれ早かれか!


「来たれ、エンシェント・ドラゴン!」


 俺っちの呼びかけに応じ、前世で言う車位の大きさの白亜のドラゴンが魔法陣から現れる。


『古代種も操るか! 面白い!』


 空から此方めがけて突っ込んでくる魔王に、


「っ余所見を!」


 ラルフ王子が横合いから聖剣で薙ぐ! が、


『クッ! 見ているぞ!』


 魔剣で聖剣を受け止める魔王。肉薄する勇者と魔王。うん、好機かな!


「リーゼロット、乗って!」

「っは、はい!」


 呼んだドラゴンにリーゼロットと一緒に飛び乗り、


「はい!」


掛け声と共に羽ばたく小さなドラゴン。まあ人間年齢で言うと5、6歳くらいらしいからね! 仕方ない!

 飛翔してぐるりと旋回する。視線を落とせば、魔剣と聖剣とでつばぜり合いするラルフ王子と魔王の姿。


「王子、御下がりを! エンシェント・ドラゴン、ブレスを!」


 俺っちの声に反応して後方へと跳ぶラルフ王子。同時にドラゴンが灼熱の息吹を口から吐き出す!


『ガァアアアアアアアアアアアア!』


 紅蓮の焔が魔王へと迫る、が。


『笑止!』


 避けるまでもないと言わんばかりに直立不動の魔王。魔剣が横一閃に振るわれ、迫る火焔を払いのける。


(やるぅ! でも、ドラゴンのブレスは目くらまし! 本命は、こっち!)


「〝ヴォルテックス〟!」


 タンデムするリーゼロットが背後から特大の一撃を放つ。黒色のエネルギー弾が魔王目がけて奔る。

 ブレスを払いのけた直後! これは避けれないっしょ!


『ガァ⁉』


 予想通り直撃を受け、仰け反る魔王。ぶつかった魔法は魔王の全身を闇色の瘴気で包み上げ、呪詛で魔王を蝕む。


(ううむ……魔王って如何にも闇属性なイメージなんだけど……同じ闇属性の魔法を吸収とかはしないんだよね)

「〝ディバイン・エンチャント〟!」

「はあ!」


 レナがラルフ王子の聖剣に更に魔術強化を付与し、その聖剣でラルフ王子が魔王へと再び斬りかかる。


『っ小癪な!』


 しかしさすがは魔王。笑みを浮かべて魔剣で聖剣を寸全で受け止める!


『虚を突いたのは認めよう! が、それでやられる程甘くはないぞ!』


 魔王が嗤う。が、




「ええ。でしょうね」




 ラルフ王子もまた笑い返した。


『っ――⁉』


 余裕の表情のラルフ王子の様子に、まだ終わりではないと気付いたか! でも――遅い!


「〝カース・エンチャント〟!」

『っ!』


 リーゼロットの呪文。気付いた魔王が斬り結んだまま振り返ろうとし――

 ドスッ‼


『があ⁉』


 鈍い音と僅かな苦悶の声が響いた。


『貴、様……! 何時の間に、古代種から……!』


 振り返った魔王の瞳に映ったのは――ドラゴンから飛び降りて円柱を壁走りの要領で飛び跳ね回って背後へと回り込んだ俺っちの姿! 魔王の腹にはリーゼロットの呪文で強化された剣が突き刺さっている。


(にっひっひ。サーカスみたいな曲芸は、俺っち実家を勘当されてから得意芸で、それで日銭を稼いでいたこともあるくらいなんっすよ!)


 思わず声にして言いたいが、今はそれどころではない。今はスピード優先! 思わず質問して、時間を費やしてしまったのが魔王の敗因よぉ!


「来たれ、神の怒り!」


 俺っちの詠唱が終わり、最後の囁きが放たれると共に、

 光が、爆発した。


『ッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア⁉』


 光の正体は、雷。それもただの雷ではない。雷神が放つ、神すら裁く雷霆。

 召喚魔法は、何も妖精や幻獣等生物だけを呼ぶだけではない。無生物、おまけに神のような高位の存在が放つ力を呼び出すことも可能なのだ!

 リーゼロットが強化してくれた剣は、魔王の腹――つまりは体内に突き刺さっている。中から放たれるこの雷に、魔王と言えど耐えられはしまい!


 『ぐ、が……!』


 ひとしきり、光の爆発が治まった後……うめき声と共に腹に突き刺さった俺っちの剣を権を握っていないもう片方の手で刃を掴む魔王。


「………………」


 それを俺っちは静かに見つめる。


『最初、から……これを、狙っていた……のか? 聖剣を、囮に……?』

「魔王という絶対の存在。そんな貴方が、唯一気に留めているのは聖剣とその使い手と聖女くらいかと。

 なら、逆にそれを利用すればいい。

 自身が認めた相手にばかり気を取られ、それ以外を有象無象の塵芥と見なした傲慢さが、貴方の敗因っすよ」


 俺っちの言葉に魔王はしばらく無言を貫き、


『ク、カカ……見事、だ……認めよう……私は、己が傲慢さと慢心で、やられた……と』


 クスッと今までの狂気的ではない、楽しそうな笑みと共に魔王は瞳を閉じ、


「ぁ……」


 レナの呟きと共に、魔王の身体はサラサラと砂のように黒の粒子となって消えていった。


『楽しかった、よ』


 最後の言葉と共に――魔王はその生涯を、終えた。


「終わった……のか?」


 ラルフ王子の呟き。それに、


「多分、ね。あー、つっかれたー!」


 どさりと、俺っちはその場に倒れ込みながら返答したのだった。




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