ツイてない朝

矢車まろう

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ツイてない朝

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 冷房のかかった電車内からホームと熱い日差しに晒される。線路の奥では陽炎がゆらゆら浮かんでいた。

「焼ける……」

 少女は胸元を仰ぎながら、乗り換えのため階段を上った。後ろから駆け上がってきたサラリーマンの鞄が腰に強く当たる。
「痛っ」
 謝罪もなしに改札に急いでいったサラリーマンを一瞬睨み、階段を上りきる。人流に乗って目的のホームに着くと、少女はすぐにスクールバッグを足の間に置いた。
 
 二分ほど彼女はスマートフォンを弄りつつ電車を待っていたが、唐突にホームに放送が入った。
「ただいま、〇〇駅にて人身事故が発生したため電車の運行を見合わせています。××線にて振替輸送を……」
「は? 最悪なんだけど」
 彼女の通う高校の最寄りはこの路線でしか行くことができない。遅刻が確定してしまった今、少女は落胆の声を漏らした。
「とりあえず学校に連絡……。――すみません、二年四組の飯野です。遅刻の連絡を――、はい、はいそうです。ありがとうございます。……はい、失礼します」
 学校の事務室に連絡を入れ終え、またため息を一つ。額から湧き出る汗を乱雑にハンカチで拭う。暑さで張り付いた前髪を手櫛で整える。

(今日の前髪せっかくキマってたのに、ショックだ……)

 人が疎らであったホームは、すっかり階段まで人ですっかり覆われている。
「水飲も……」
 前髪を梳き、汗で流れ出た水分を補給しようと、少女は地面に置いたスクールバッグのチャックを開けた。
 
 しかしその中は、水筒の飲料が染み出し教科書から何から水分を含んだ状態になっていた。
「うわ」
 溺死しかけていた単語帳をなんとか救出し、水筒を取り出す。よく見ると蓋部分のパッキンがうまく嵌っていなかったようだ。
「今日はこういう日か……」
 肩を落とした少女は部活用のタオルでスクールバッグ内の水分を吸収しながら、ポケットからスマートフォンを取り出す。

『ごめん。あとで金払うから飲み物買ってきて』

 メッセージアプリで駅に向かっている友人に現状の写真付きでメッセージを送信する。すぐに友人からは了解と慰めのスタンプが帰ってきた。
「けせらせら……」
 シミができ端が膨張した教科書群と軽くなった水筒を手に、少女はぼんやりと青空を見つめた。
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