約束の虹は8色に輝いて

鐘雪花(かねゆきはな)

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第1章 真実

第10話 その剣の秘密

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★◇◆◇◆◇◆◇


 えええーっ!?
 ど、どういうこと!?
 予想外の事態に、ターメリックはバタバタと慌てふためいた。

「あの! さっきまでは、簡単に抜けたんです! そんなに力も要らなくて……もしかすると、ぼくが触って壊してしまったのかもしれません!」

 ターメリックが真剣に喋れば喋るほど、カメリアは面白そうに笑ってみせた。

「ははは! 大丈夫だよ、君のせいじゃないことはわかっている。安心しなさい」
「で、でも……」
「伝説の剣はね、持ち主にしか心を開かないといわれているんだ。つまり……剣に選ばれた者にしか、その剣は抜けないようになっている」

 カメリアは、まだ心配そうなターメリックに真実の剣を「抜いてごらん」と差し出した。

 ……?
 ターメリックは半信半疑で、カメリアが笑顔で差し出した剣を遠慮がちに受け取った。
 剣は、するすると抵抗なく鞘から抜けた。

 本当に、ぼくにしか抜けないんだ……!
 鏡のような剣身が姿を現し、驚愕の表情を浮かべるターメリックを映し出していた。
 その隣には「おおお、キレイだねぇ」と目を細めるカメリアも映り込んでいる。

「この剣は、7振りある伝説の剣の中でも、いちばん特殊な『真実の剣』だ。この世界の『偽り』を斬る剣だよ」
「真実……偽り……?」
「偽りといえば幻想、まやかし……まあ、要するに魔法の力だね。つまり、この剣は魔法を無効化することができるんだ」
「魔法を無効化……! カッコいいですね!」

 言葉の響きだけに反応して「カッコいい」なんて言っちゃったけど、うーん……
 意味は、あんまりわかってないかも。
 ターメリックは、ニコニコしながらも少し首を傾げていた。
 それでも、カメリアはターメリックの「カッコいい」に気を良くしたらしく、嬉々として説明を続けている。

「実はね、この剣は魔法を無効化できるんだが……それ以外のことは、何もできない剣なんだ」
「……?」

 何もできない……って、どういうことだろう。
 こんなにキレイで立派な剣なのに……
 ターメリックは、手にした真実の剣を見つめた。
 カメリアはというと、そんなターメリックに笑いかけて、

「……ここから先は、説明するよりも実際に見てもらったほうがわかりやすいよ。そうだなぁ……とりあえず、そこのテーブルを斬ってみてごらん」
「……えっ」

 いやいや!
 そんなこと、できませんよぉ……!
 躊躇うターメリックに、カメリアは「いいからいいから」と、枕元のテーブルを自分に引き寄せた。
 自然とターメリックの正面に来たテーブル、その向こうでカメリアが目を細めている。

 仕方ないな……
 机が傷ついても、剣が刃こぼれしても、ぼくは悪くない。
 ぼくは悪くないぞ!

 ターメリックは剣を両手で振りかぶると、目を閉じて、テーブルに向かって思い切り振り下ろした。
 剣の重さも手伝って、ターメリックの頼りない腕力でも、かなりの威力になった……はずだった。

「……ん?」

 んんん……??
 ターメリックは目を開けてみた。
 剣は、確かにテーブルを貫通している。
 しかし、剣を持つ手にその感触はなかった。
 すっと剣を抜いて隅々まで確認してみたが、刃こぼれは見当たらない。
 そこで、ふとテーブルに目をやって……

「……!?」

 ターメリックはテーブルを二度見した。
 ……もっととんでもないことが、目の前で起きていた。
 テーブルには、斬られた形跡がなかった。
 斬ったはずの場所を触ってみても、継ぎ目すら見当たらない。

 どうして……?
 確かに斬ったはずなのに……
 ターメリックは真実の剣を持ち直し、刃先でテーブルをつついてみた。
 しかし……
 刃先は、テーブルをすり抜けてしまった。

「わわわっ……!」

 危うく剣を取り落としそうになったターメリックを見て、それまで黙っていたカメリアが堪らずといったように吹き出した。

「あははははっ! いやあ、想像以上の反応をありがとう。私が作ったものではないけれど、ここまで驚いてくれると嬉しくなってくるね」
「か、カメリアさん! この剣、どうなってるんですか!?」

 わけがわからず取り乱すターメリックに、カメリアはまだ笑いながらも説明してくれた。

「さっきも言った通り、真実の剣は魔法を無効化できる代わりに、何もできない剣だ。つまり、何も斬ることのできない剣なんだよ」
「何も斬れない剣……」
「日常生活では役に立たないような剣だが、イゾリータの繰り出す強力な魔法を無効化して仲間の危機を救った、と神話には書かれている。真実の剣は、魔法を防御する剣なんだよ」
「……あ、なるほど……!」

 カメリアの説明に、ターメリックはひとりで納得して頷いていた。
 朝日の浜辺で、ペパーの剣を受けようとして真実の剣を抜こうとしたときに聞こえた『抜いてはならぬ!』という声……
 あのとき声を無視して剣を抜いていたら、自分は今ここにはいなかっただろう。
 カメリアにそう説明すると、

「ふむ、剣が……私にもよくわからないが、もしかするとクリスタン神様が救ってくださったのかもしれないね」

 少し考えるように腕を組みながら呟いた。
 クリスタン神様が、ぼくを救ってくださった?
 ターメリックの眉間にシワが寄った。
 まさか、そんなこと……
 だってぼくには……
 信仰心なんて、欠片もないじゃないか。

「……どうして、ぼくが選ばれたんでしょうか」

 剣の宝石を見つめて、ターメリックは呟いた。
 首を傾げるカメリアに、ポツポツと言葉を続けていく。

「ぼくは、父がクリスタン教信者だからという理由で、フィリアを授かった名前だけの信者です。クリスタン神話だって、詳しく読んでいないどころか、今の今まで史実であることも知らなかった……」
「……」
「カメリアさん、ぼくみたいな信者は、伝説の剣に選ばれる資格なんてないですよね」
「……」

 ターメリックが目線を上げた先で、カメリアは少し考えた後、

「いや……むしろ、君だから選ばれたんじゃないかな」

 と、呟いた。
 今度はターメリックが首を傾げる番だった。

「クリスタン神話に、似たような話があるんだ」
「……?」
「その昔、真実の剣に選ばれたのは、オリエント・マンティーオという青年だった。しかし、オリエントは剣に選ばれたというのに、ため息をついてばかりいたという」
「え、もしかして、そのオリエントさんも、ぼくと同じだったんですか?」

 ターメリックの質問に、カメリアは「残念ながら、オリエントは敬虔なクリスタン教信者だったそうだよ」と笑って、話を続けた。

「実は、彼には同い年の従兄弟がいてね。オリエントよりも容姿端麗で文武両道の、いわゆる人気者というやつだったそうだ」
「へぇ……」
「オリエントは『なぜ、剣は何でもできて人気者の従兄弟ではなく、遠く及ばない自分を選んだのだろう。ただでさえ、真実の剣は仲間たちを率いる者の剣だというのに』と、そんなことばかり考えていたという」
「……」
「伝説の剣の意志は、神の使いである私にもよくわからない。だが、オリエントは仲間に支えられ、リーダーとして活躍したと、神話には書いてあるよ」
「……」

 オリエントさん……すごい人だなぁ。
 カメリアさんは「似たような話」なんて言っていたけれど、オリエントさんはぼくと違って、ちゃんとクリスタン教信者じゃないか。
 仲間と一緒に活躍したなんて、カッコいいなぁ。
 ターメリックは、のほほんと神話に登場する偉人に思いを馳せていたが、そこでふと大事なことを聞き逃していたことに気がついた。

「カメリアさん、あの、真実の剣に選ばれた人がリーダーってことは……ぼくが、仲間たちのリーダーってことですか」


つづく
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