約束の虹は8色に輝いて

鐘雪花(かねゆきはな)

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第2章 光

第12話 出発の日の朝

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★◇◆◇◆◇◆◇


 青い空に白い雲、そして眩しい朝日。
 あ~!
 潮風が気持ちいい!
 白波の踊る海辺に向かって立ち、ターメリックは大きく伸びをした。
 クリスタニアに飛ばされてから、すっかり早起きにも慣れて、気持ちの良い朝を迎えられている。

 今日は、旅立ちの日。
 ついにターメリックは、クランとともに仲間集めの旅へと出発するのである。
 海に向かって気合いを入れたターメリックは、カメリアに手招きされ、神の使いの住まいの前にクランとともに並んだ。
 これからの旅の確認である。

「まずは、ここから近いパン王国へ向かうんだ。そこからヌフ=ブラゾン王国、マスカーチ公国をそれぞれ回れば仲間が集まるはずだ。それで、これは少し先の話になるけれど、仲間が全員が集まったら羅針盤で連絡しておくれ」
「はい!」
「ねぇ、叔父さん」

 カメリアとターメリックの会話を聞いていたクランが、すっと手を挙げてカメリアの後ろを指差した。

「どうしてノウェムも一緒なの」

 そこには、自分の荷台にターメリックとクランの荷物を詰め込んでいるノウェムがいた。
 カメリアは「ああ」と微笑んで、

「ノウェム君は、世界を旅する商人だからね。今まで自分の生まれ育った場所から出たことのない君たちより、うんと人生経験が豊富だ。それで、ふたりの引率を頼んでみたら、特にやりたいこともないからと快く引き受けてくれたというわけさ」
「なるほど。まぁ、ちょっとは心強いかな」
「ちょっとはって……もう少しぐらい感謝してあげても良いと思うがねぇ」

 クランのつれない一言に、カメリアは苦笑を浮かべた。
 クラン君、本当は嬉しいんだろうな。
 ぼくにもなんとなく、わかってきたぞ。
 ターメリックは、隣で眠そうな顔をしているクランに笑いかけると、ノウェムに向かって大きく手を振った。

「ノウェム君ー! よろしくねー!」

 ちょうど荷物の詰め込みが終わったらしいノウェムは、曲がった腰を伸ばすように大きく背伸びをして、こちらに手を振り返した。

「おう! 任せとけっ!」

 そして、ターメリックの腰に差された真実の剣を、穴が空くのではと思うほど、じっと見つめた。
 その表情から、だんだんと笑顔が消えていく。

 ん……?
 ノウェム君、どうしたんだろう。
 何かついてるのかな?
 ターメリックが首を傾げると、ノウェムは口をぎゅっと引き結んで、3人のところへと歩いてきた。
 そして、ターメリックたちが見守る中で、意を決したように話し始めた。

「あの、さ……今まで黙っていたけど、オレも一応クリスタン教信者なんだよ」
「え! そうなんだ!」

 ノウェムの告白に、ターメリックの顔が明るくなった。
 その向かいで、カメリアが「ふむ」と頷いた。

「と、いうことは……ノウェム君も、フィリアを持っているんだね」
「そうなんだけど……オレ、自分のフィリアがあまり好きじゃなくてさ」
「え? どうして?」
「ターメリックも、行けばわかるよ。マスカーチ公国って、信者同士がフィリアで呼び合うんだ。でも、オレのフィリアは長くて呼びにくいっていうか」
「何ていうフィリアなの」

 珍しいクランからの質問に、ノウェムは苦笑を浮かべて呟いた。

「アゴスティーノ……オレの名前は、ノウェム・アゴスティーノ・ピケノ=オエスシィっていうんだ」

 うわぁ、確かに長い名前だね。
 アゴスティーノだけでも長いのに、そこに家の名前がつくなんて……
 ターメリックは、いまだにピケノ=オエスシィが言えない自分に落胆しながらも、ふと頭に引っかかるものを感じた。

 アゴスティーノ……
 つい最近、どこかで見たことあるような……
 あ、もしかして。
 ターメリックは「ちょっと待ってて!」と荷台に駆け寄り、羅針盤を持って戻ってきた。
 ノウェムとクラン、そしてカメリアが「まさか」という顔をしている。

 ふふっ、なんか面白いな。
 何がどうなるか、ぼくにもわからないけど。
 3人が見守る中で、ターメリックはそっと手をかざしてみた。

 7色の光が溢れ出す……
 赤色の光がターメリックを指して止まった。
 黄色の光もクランを指している。
 橙色、黄緑色、水色、紫色の光は、もちろん北から東を指して長く伸びていた。

 そして、緑色の光はというと……
 力強い明るさで、ノウェムを指していた。
 光に浮かび上がった文字は、

『希望 アゴスティーノ』

 だった。

「……うわ。すごいな、それ」

 ノウェムは、自分の胸元を指す光を手で遮ってみたり、ちょこまかと左右に動いてみたりした。
 それでも緑色の光は、ぶれることなくノウェムを指し続けている。

「ノウェム君も、伝説の剣に選ばれた仲間だったんだね……」

 まじまじと緑色の光を見つめるターメリックに、ノウェムが頭をかきながら話し始めた。

「昨日、カメリアさんから光の剣を預かったときに、どこかで見たことあるなと思ってさ……そういえば、オレん家の店先に似たような剣が飾ってあったのを思い出したんだ」
「その剣、今は手元にないの」

 クランの質問に、ノウェムは「残念だけど」と頷いた。

「家を出たときは、そんなにすごい剣だって知らなかったからな。だって、だれにも抜けない剣なんだぜ? どうして売り物として置かれているのか、全然わからなかったんだ」
「ノウェム君は、抜いてみてないの?」
「大切な商品だから、お前なんかには持たせられない……って親父にキツく言われててさ、触ったこともないんだよ」

 ノウェムは、ひっでぇ親父だよなと不機嫌な顔になった。
 ターメリックには、そんなふうに父親に悪態をつけるノウェムが少しだけ……ほんの少しだけ羨ましかった。

「ところでノウェム君、その剣には何色の宝石がついていたか、覚えているかな?」

 カメリアが、まるで問題を出すように尋ねた。
 答えはわかりきっているから、目を細めて微笑んでいる。
 きっと、ノウェムの口から色の名前を聞きたいのだろう。
 ノウェムはというと、それとは気がついていないのか、ちょっと考えてから、

「あれは、確か……そうだ、緑色の宝石がついてたよ。ほら、この光の色みたいな!」

 そう言って、自分の胸元を指す光を指さした。
 カメリアは満足そうに頷いている。

「やはり、それは希望の剣だね。光が君を指しているということは、もう剣は君にしか抜けないはずだ」
「あ、ああ、そっか……なんだろ、なんかドキドキしてきた……!」

 ノウェムは胸に手を当てると、大きく深呼吸した。
 ……嬉しいなぁ。
 ノウェム君みたいな世界を旅している商人さんが仲間なんて、とても心強いや。
 クラン君も、そう思うよね?

 ターメリックは、隣に立つクランの顔を覗き込んだ。
 クランは、相変わらずの仏頂面で、

「なんだ、結局ノウェムは最後まで僕たちと一緒なんだね」

 と、呟いた。
 あまり嬉しくなさそうな一言だが、ノウェムもクランのことがわかってきたらしい。

「いやぁ、そんなに喜んでもらえると、なんだか嬉しくなってくるなぁ」
「……」
「……何か言えよ!」
「ぷっ、あははははっ!」

 ノウェムとクランのやり取りに、ターメリックは声を出して笑っていた。
 これから、楽しいことが起こりそうな予感がして、胸が高鳴っている。
 しかし。

「3人とも。楽しそうなのはいいが、使命のことは忘れないでおくれよ」

 苦笑いを浮かべるカメリアに、ターメリックは「そうでした!」と頭を下げた。

「すみません! それじゃあ行ってきます!」
「叔父さん、行ってきます」
「行ってくるぜ!」
「うん。気をつけて。いい知らせを待っているよ」

 カメリアに見送られて、ターメリックたちはクリスタニアを後にした。
 ……まだ見ぬ仲間を探す旅が始まった。


つづく
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