約束の虹は8色に輝いて

鐘雪花(かねゆきはな)

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第3章 叡智

第2話 愛用の杖は剣

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★◇◆◇◆◇◆◇


 パン王国のパントリー地方には、南から順にスプーン村、フォーク村、ナイフ村が点在している。
 それぞれが広大な麦畑の中にあり、そこから北へ向かった先に王都タジンがある。
 ちなみに、3つの村がある地方を南パントリー地方と呼び、王都タジンを中心とする地方を北パントリー地方と呼ぶ。

 南パントリー地方では、広大な土地を活かして主に農作物を生産している。
 小麦など、3つの村が共同で生産する作物がほとんどだが、ひとつの村でしか生産できない作物もあり、それらは村同士が高値で売買するので、村同士の仲が険悪になることもあるという。

 夕日が小麦畑を黄金色に染める頃……
 ターメリックとクラン、そしてノウェムは、新たな仲間であるクィントゥムとともに目的地であるスプーン村に到着した。

 スプーン村の村長であるディッシャーという老人は、銀色の髪をフサフサとなびかせた好々爺であった。
 柔和な雰囲気を醸し出してはいるが足腰も丈夫で健康そのもの、南パントリー地方の長老職を兼任しているのも頷ける。
 ディッシャー村長は、世界を旅するノウェムのこともよく知っているようで、突然の来訪にも関わらず宿泊場所を用意してくれた。

 そして、黄昏時……
 夕食を終えたターメリックたち4人は、あてがわれた一室でテーブルを囲んでいた。
 新しく見つけた仲間であるクィントゥムに、今までのことを説明するためである。
 何も知らなかったターメリックとは違い、クィントゥムは幼い頃からクリスタン神話を熟読していた。
 そのため、クィントゥムはすでに自らの使命を理解しているようだった。

「……まさか、自分が生きている間に竜の王イゾリータが復活するかもしれないとは、思ってもみなかったよ」

 クィントゥムが思案深げにクランの紅茶を一口飲むと、ノウェムが持ち前の人懐っこい笑みを浮かべて頷いた。

「そうそう、それも驚きだけど、オレたちはターメリックの知り合いが剣に選ばれた仲間だってことのほうが驚きだったよ。な? クラン」
「僕は予想してたから驚いてないけど」
「素直にそうだねって言えよ」

 ノウェムとクランは相変わらずだが、ターメリックは理解の早いクィントゥムに感動していた。

「さすがはクィントゥム君! やっぱり竜の王イゾリータのこと、最初から知っていたんだね」

 ああ、懐かしいなぁ。
 スパイス帝国の宮殿で、何度もこんな会話をしていたっけ。
 ……何度も、っていうのは、ぼくが全然覚えられなかったせいなんだけど。
 心の中で自分に苦笑するターメリックに、クィントゥムは首を振ってみせた。

「いや、実は私も半信半疑だったんだ。神話は史実だと頭では理解していたが、まさか未来のことまで事実になるとは信じられなくてね。しかし……これを手にしてから考えを改めたよ」

 クィントゥムはそう言うと、出会ったときに手にしていた杖を取り出した。
 かなり長い杖で、立ち上がったクィントゥムの肩ぐらいまである。
 その先端には、小さいながらも良い音のする銀の鈴が付けられていた。
 クィントゥムは「見ていてくれ」と杖を大きく一振りした。

 ……リリン。

 軽やかな鈴の音とともに、杖は眩い閃光の中で形を変えた。
 現れたのは、茨と王冠の銀細工でできた鞘に収まった、一振りの剣……

「あっ! これ、伝説の剣だったんだ!」

 声を上げて驚くターメリックの隣で、ノウェムが「お~」と低い声を出して感動していた。
 クランは、テーブルに置かれた剣をまじまじと見つめている。

 クィントゥム君が伝説の剣を持っているなんて。
 しかも、それを手にして魔法を使うなんて!
 ぼくと一緒にいたときは、そんなこと教えてくれなかったような気がするけど……
 ターメリックは、クィントゥムの使う魔法の仕組みが気になっていた。

「クィントゥム君が魔法を使えるなんて、知らなかったよ。もしかして、ぼくと宮殿にいたときから使えていたの?」
「いや、あのときは魔法の魔の字も知らなかったよ。旅に出てから少し興味が湧いて、独学で習得したんだ」
「え! すごいね!」
「いやいや、見よう見まねでやってみたら使えたというだけで、本格的に勉強している人とは、魔力が違うらしいんだが……」
「そうなの?」
「ああ、まあとにかく……魔法を使うためには、力を魔法に変える物を手にする必要があって、私の場合はその剣がいちばんしっくりきたというわけなんだ」
「なるほど、それで杖にしてるんだね!」

 ターメリックが相槌を打ちながらクィントゥムの話を聞いていると、剣を見つめていたクランが手を挙げた。

「クィントゥムさん。これ、ちょっと持ってみてもいいですか」
「ああ、かまわないよ」

 その一言にクランはぺこりと頷いて、恭しく剣を手に取った。
 背の高いクィントゥムに合わせたかのような、細身の長剣である。
 鞘は、すっかり見慣れた茨と王冠の銀細工。
 そして、柄の部分には水色の宝石。
 その透き通るような美しさに、ターメリックとノウェムは揃って歓声を上げた。

「お~! すっげぇキレイな水色だな!」
「ね! なんて名前の宝石なんだろう」

 ターメリックは、カメリアが書いた年代物の古びた羊皮紙を荷台の底から引っ張り出し、宝石の名前を確認しようとした。
 しかし……
 剣の名前がわからないので、宝石の名前も調べられないことに気がついた。

「クィントゥム君、その剣の名前って……」
「ああ、これは叡智の剣だよ」

 叡智……
 あんまり使わない言葉だけど、なんだか頭が良さそうな感じがする。
 うん、クィントゥム君にぴったりだね!
 ターメリックは、さっそくノウェムと羊皮紙を覗き込んだ。

「叡智の剣……へぇ、アクアマリンっていう名前の宝石なんだ。キレイだねぇ」
「赤と黄色もキレイだけど、オレはこの水色好きだな。なんか、上品な感じがする」
「ああ、そっか……好きな色が必ずしも似合うわけじゃないもんね。ノウェム残念」
「人を可哀想な奴みたいに言うなよ」

 ノウェムとクランの掛け合いに、クィントゥムは小さく笑って口を開いた。

「何年か前のことになるんだが……パン王国とヌフ=ブラゾン王国の国境あたりを旅していたときのことだ。木漏れ日の中でふと頭上を見ると、木の枝にこの剣が引っ掛かっていたんだ」
「え! すごい偶然だね!」
「私も枝から外すまでは、まさかそんなところにあるわけがないと半信半疑だったよ。でも、昔から本で読んで知っていたから、すぐに本物の叡智の剣だとわかったんだ……私を含めて、剣を抜ける人がいなかったからね」
「クィントゥムさんにも、抜けなかったんですか」

 クランの質問に、クィントゥムは「ああ」と頷いて叡智の剣を受け取った。
 やはり剣はクィントゥムに誂えたかのようで、クランが手にしたときよりも数段見栄えが良かった。
 こんなにお似合いの剣なのに、抜けない……?
 ターメリックが首を傾げている間にも、クィントゥムの話は続いていた。

「先ほども話したが、魔法を使うためには力を魔法に変える物を手にする必要があって、私の場合は叡智の剣を手にしたときにだけ魔法が使えたんだ。仕方がないから、この剣の持ち主が現れるまで借りていることにしたんだが……」

 クィントゥムはそこまで話すと、叡智の剣を鞘から抜いてみせた。

「このように、数日前から抜けるようになってね。剣の見た目も、以前はもっとずんぐりしていたと思うんだが、どうやら抜けるようになってから変わったらしい」
「すごい……剣が、クィントゥム君を選んだんだ」

 ターメリックは、ぐっと拳を握った。
 感動のせいか、全身に鳥肌が立っていた。


つづく
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