約束の虹は8色に輝いて

鐘雪花(かねゆきはな)

文字の大きさ
30 / 105
第3章 叡智

第3話 まだ見ぬ仲間

しおりを挟む
★◇◆◇◆◇◆◇


 クィントゥムが抜いてみせた、叡智の剣……
 それは、不思議な光沢を放っていた。
 ターメリックが持つ真実の剣の鏡のような輝きとも違い、クランが持つ光の剣の自ら発光する輝きとも違う。
 何に例えたらいいのかわからない、独特の輝きを放っている。
 それを見たノウェムの目が、キラリと光った。

「これ……螺鈿細工だ!」

 ん? 何? 何細工?
 ターメリックが聞き慣れない言葉に首を傾げている間に、クィントゥムが説明を始めてしまった。

「叡智の剣は、剣身一面に螺鈿細工が施されている……クリスタン神話の本には書かれていたことだが、こうして実物を目にするまでは信じられなかったよ。螺鈿の輝きは、様々な知識の結集を意味しているらしい」
「へぇ、すっげぇなぁ……でもこれ、実用的じゃないよな。こんなんじゃ戦えないっていうか」
「実は、叡智の剣は持ち主の知識を力に変えて戦う剣なんだ。だから私の魔法も、自らの知識が元になっている。普通の魔法とは違うんだよ」
「ええっ、マジか! 叡智の剣すげぇな!」

 クィントゥムとノウェムは、楽しげな会話をしている。
 ターメリックも参加しようとしたものの、やはり先ほどの言葉が気になってしまって落ち着かない。
 仕方なく「あの~」と尋ねてみた。

「さっきの……何細工だっけ……あ、らでん? って、何ですか……?」
「え、なんだよターメリック。わかんないで聞いてたのか?」
「う、うん……」

 呆れ顔のノウェムに、ぎこちなく頷いてみせる。
 クィントゥムはというと、少し何か考えてから口を開いた。

「ターメリック、貝殻を見たことは?」
「え? もちろんあるけど……」
「それじゃあ、貝殻の裏側も見たことあるだろう?」
「うん……あ、もしかして……!」
「そう、貝殻の裏の光沢を切り取って貼り付けた装飾が、螺鈿細工だ」
「なるほど! あのキラキラしたとこか!」

 ターメリックは、スパイス帝国の朝日の浜辺で拾ったことのある貝殻を思い浮かべて、ぽんと手を打った。

「ありがとう、クィントゥム君! やっぱり、クィントゥム君の説明はわかりやすいね」
「……あ、ああ……」

 ターメリックは満面の笑みで礼を口にしたものの、なぜかクィントゥムの表情は冴えなかった。
 眉間にシワを寄せて、なんだか渋い顔である。
 なんだろう、この違和感……
 クィントゥム君って、こんな感じだったっけ?

 ぼくの知っているクィントゥム君は、もっと楽しそうに説明してくれて、ぼくがお礼を言ったら自信に満ち溢れた顔で笑っていたような気がするんだけど……
 もしかして、スパイス帝国にいた頃だけ、そんな感じだったとか?

 うーん……
 まあ、それも10年以上前のことだし、人は変わるものだって父さんも言ってた気がするし……
 仕方のないこと、なのかなぁ。
 そんなターメリックの胸の内の疑問には、もちろんだれも気がついてはいない。

「叡智の剣も面白いけど、羅針盤も見てみてよ。僕たち以外の3人のこと、気になるでしょ」

 ひとりで羅針盤をいじっていたらしいクランが、叡智の剣に夢中になる仲間たちを見兼ねて声をかけてきた。
 3人の視線を集めて、クランは羅針盤に手をかざした。
 7色の光が、空中に放たれる。
 そのうちの赤と黄色、そして緑と水色の4色は、それぞれ剣の持ち主を指していた。
 そして、残りの紫と橙色と黄緑の3色は、すべて違う方角を指している。

「この紫色と橙色の中のフィリアなんだけど……どう読んでも女の人のものだと思うんだよね」

 クランが2色の光を指差した。
 紫色の光は、北東を指している。
 光の中に浮かび上がった文字は、

『愛 グレーシア』

 である。
 そして、橙色の光は東を指している。
 浮かび上がった文字は、

『勇気 マリア』

 確かにクランの言う通り、グレーシアもマリアも女性が持つフィリアである。

「ぼくたちの使命って、かなり危険なものだと思うんだけど……剣は、男女関係なく持ち主を選ぶものなんだね」

 ターメリックが独り言のように呟くと、光を覗き込んでいたクィントゥムが「ふむ」と頷いた。

「クリスタン神話に書かれた情報によれば、以前の伝説の剣に選ばれた7人は、全員男性だったようだ。しかし、今回は違うようだね」
「さすがにむさ苦しいから、今回は華も添えようってことにしたのかもな。まあ、伝説の剣の考えてることは、よくわかんないけど」
「それでも剣が選んだってことは、ただの華じゃないと思う。きっと、僕たちより戦い慣れてて強い人なんじゃないかな。だから『あまり力になれないと思います、ごめんなさい。できるだけ足引っ張らないように頑張るので、許してください』って謝ってね、ノウェム」
「その台詞そっくりそのままお前に返す」

 すっかり仲良くなったクランとノウェムは置いといて、ターメリックは黄緑色の光を覗き込んだ。
 指している方角は南東、つまり……

「この黄緑色の光……スパイス帝国がある方角を指しているよね」

 ターメリックの言葉とともに、3人が羅針盤に顔を近づけた。
 黄緑色の光に浮かび上がっている文字は、

『平和 シメオン』

 である。
 クランが口を開いた。

「ターメリックの知り合いに、シメオンっていうフィリアの人はいないの」
「スパイス帝国に住んでいるクリスタン教信者は、フィリアを隠している人がほとんどで、家族も知らなかったりするからなぁ……というか、まずぼくの知り合いっていう人がいないから、よくわからないや」
「そっか、残念だね……いろんな意味で」
「……うん、いろんな意味でね」

 ノウェムのように言い返せないターメリックには、苦笑いが精一杯である。
 そんなターメリックの隣で「シメオン、シメオン……」と唸っていたノウェムが、

「ああー! 思い出した! シメオン!」

 その岩をも吹き飛ばしそうな勢いの絶叫に、普段は表情の乏しいクランですら眉を寄せてノウェムを睨みつけた。
 それでもノウェムは気にすることなく、身を乗り出して黄緑の光を食い入るように見つめていた。

「シメオンって、マスカーチ公国の英雄のフィリアだ! 昔、属国になることを迫るスパイス帝国から、母国マスカーチ公国を守った英雄シメオン!」
「英雄、シメオン……」
「もう10年以上前のことかな……オレはまだ小さかったから覚えてねぇんだけど、そりゃあもう格好良かったって兄さんがうるさくて」
「へぇ……そんな人がいたんだ」

 何も知らないターメリックには、初耳の事柄だらけだった。
 しかし、クリスタニアで女神のお告げを叔父に聞かされていたクランと、世界各国を旅してクリスタン教の情報に詳しいクィントゥムは、聞きかじったことがあるようだった。

「ノウェムも知ってるんだ。意外」
「意外じゃねぇよ、マスカーチ公国民なら知ってて当たり前なんだって」
「ふむ……私が読んだ本には『英雄シメオンの活躍により、竜の王イゾリータの封印が破られずにすんだ』と書かれていたな」
「そうそう、そうなんだよ。兄さんも『シメオンは世界を救った英雄なんだ!』って言ってる」

 ノウェムたちの会話を、ターメリックは胸を高鳴らせて聞いていた。
 何にも知らない自分には失望するけれど、それよりもワクワクが勝っている。

「世界を救った英雄さんが、ぼくたちの仲間なんだね……!」

 ターメリックは、胸元で拳をぎゅっと握った。
 しかし、そこでクランが手を挙げた。

「ちょっと待って。スパイス帝国と戦った英雄が、敵国であるスパイス帝国にいるとは思えないでしょ」
「た、確かに……」

 クランの的を射た発言に、ターメリックが「むー」と腕を組んだ。
 ということは、人違い……?


つづく
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...