約束の虹は8色に輝いて

鐘雪花(かねゆきはな)

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第3章 叡智

第4話 村の広場にて

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★◇◆◇◆◇◆◇


 せっかく見つけ出せそうな英雄が、人違いかもしれない……
 考え込むターメリックを見兼ねて、クィントゥムが口を開いた。

「私が読んだ本には続きがあってね……『マスカーチ公国の英雄シメオンは、スパイス帝国との戦いの後に行方不明となり、現在に至るまで所在不明』だそうだ。だから、スパイス帝国に潜伏していても不思議じゃない」
「マスカーチ公国にはいなかったって、兄さんが言ってたな。信者たちが血眼になって探しても、見つからなかったんだって」

 ノウェムの言葉を受けて、クィントゥムは「つまり」と黄緑色の光を指さした。

「このシメオンという人物は、何か重大な理由があってスパイス帝国に潜入している英雄本人か、それとも最初からスパイス帝国に住んでいる別人か……ということになる」

 クィントゥムの言葉に、ノウェムとクランが同時に腕を組んだ。
 しかし、ターメリックにはそれほど深刻な話とは思えなかった。

「とにかく会えばわかるってことだよね! 今から楽しみだよ!」

 そう言ってニコニコしてみせると、ノウェムがあんぐりと口を開けた。

「ターメリックは行動派だよなぁ。考え込んでるところとか、見たことねぇもん」
「え? だって『まずは自分が動く、そうすれば何かが始まる』って、ノワール先生もおっしゃっていたから……ね? クラン君」
「うん。おっしゃっていたね、確かに」
「へぇ……なるほどねぇ」

 ノウェムがほぅっと息をつくと、クィントゥムがぽんと手を打った。

「3人とも、話は尽きないが、そろそろ寝よう。今日はいろいろあって疲れたからね」

 気がつけば、すっかり夜も更けていた。


★◇◆◇◆◇◆◇


 うーん……
 すっかり朝型の体質になって、早寝早起きが得意になったと思ったんだけどなぁ。
 ベッドに寝転がっても、ターメリックはなかなか寝付けないでいた。
 4人部屋の客室ではノウェムのいびきが響いているが、眠れない理由はそれではない。

 クィントゥム君……
 やっぱり何か変だった。
 目を閉じると、先ほど「螺鈿細工」を教えてくれたクィントゥムの様子がまぶたの裏に映し出される。
 眉間にシワを寄せて、渋い顔だった……
 あれは、いったいどういう意味なんだろう。

 上体を起こして、斜向かいのベッドで眠るクィントゥムを見つめてみたものの、部屋の中は薄暗く、ぼんやりとした黒い塊しか見えなかった。
 今思えば……
 ぼくの真実の剣を見たときから、クィントゥム君は元気がなかったような気がする。
 うーん、なんでだろう……

 あ、もしかして……
 自分のほうが、真実の剣に選ばれたかったのかもしれない……?
 だとしたら、喜んで譲りたいところだけどなぁ。
 伝説の剣同士は、交換とかできないのかな。
 ふぅむ……
 ……

 そんなことを考えている間に、ターメリックも疲労が溜まっていたのか、ゆっくりと深い眠りへと誘われていった。


★◇◆◇◆◇◆◇


 翌朝……
 4人は、とりあえず羅針盤が指す紫色の光を目指して出発することにした。
 残る3色の光の中で、パン王国の方角を指しているのは紫色の光だけだったからだ。

 しかし、パン王国は広大である。
 4人を泊めてくれたスプーン村の村長ディッシャーは、もう少し体力を回復させてから出発したほうが良いと、もう一晩スプーン村に泊まることを勧めてくれた。
 4人は厚意をありがたく受け取り、ディッシャーの案内でスプーン村を散策することにした。
 午前中の眩しい太陽が照らす中、一行は村の中心にある広場へと向かっていた。

「……ノウェムの坊ちゃんによれば、スパイス帝国で政権交代があったとか。これから先、何が起こるかわかりませんからね。今のうちに、休めるときは休んでおいたほうがいいですよぉ」

 村の広場へ向かう道すがら、ディッシャーはターメリックたちに微笑んだ。
 煌めく朝日の中、立派な銀髪が爽やかな風に揺れている。

「南カトラリー地方の3つの村はそれぞれ近いところにありますけれど、王都タジンまでは徒歩で3日ほどかかりますからね。体力は温存しておくにかぎりますよぉ」
「へぇ……かなり遠いんですね、王都タジンって」

 サラサラの砂利道を歩きながら、ターメリックが相槌を打った。
 知らないことが多すぎて、素直に出た言葉だったのだが、ディッシャーは会話ができて嬉しいらしく、ニッコリ頷いた。

「ええ、ええ。あまりに遠いですからね、ここから向かおうとするのは、農業に飽きた若者くらいです。なので、道が整備されておりませんから、雑草を掻き分けて野宿をする旅になるでしょうねぇ」

 野宿……
 大変そうだなぁ。
 何の準備もしてないけど、ぼくにもできるかな。
 ターメリックが仲間たちとの野宿を想像していると、前を歩いていたノウェムが振り返った。

「野宿っていっても、そんなに大変じゃねぇよ。森の奥とかに、無人の小屋があるんだ。だから、オレひとりだって全然大丈夫だったぜ」
「無人の小屋?」

 ターメリックが首を傾げると、一緒に首を傾げていたディッシャーは「あぁ」と手を叩いた。

「それは、小麦を収穫する際に村人が寝泊りするための小屋ですね……ノウェムの坊ちゃん、この時期はよろしいですがね、普段は勝手に使ってもらっては困りますよぉ」

 ディッシャーにやんわりと叱られたノウェムは、慌てて頭を下げた。

「あ、ごめんなさい、オレ、そういうの知らなくて……」
「何やってんのノウェム、無許可なんて極悪非道なことしちゃって。もっとちゃんと謝んなよ」
「え、そんなに悪いことか……ってなんでお前がここぞとばかりに出てくんだよ」

 ノウェムとクランのいつもの掛け合いに、ディッシャーは楽しそうに笑った。

「ははは……いやはや、若い人たちと話すのは楽しいですね。村の若者は、ほとんどが王都へ行ってしまいますから……久しぶりに、笑わせてもらいました」
「僕は何もしてません、面白いのはノウェムだけだと思います」
「お前のそういうとこが面白いって言われてんだよ」
「ははは、仲良しですねぇ……さぁ、広場に着きましたよぉ」

 民家の建ち並ぶ通りを抜けると、そこは開けた場所になっていて、たくさんの人で賑わっていた。
 ここが、スプーン村の中心地である広場なのだという。
 村人たちは1つずつ木箱を持ち、中に何やら詰めている。
 丸い、実のようなものだ。

 あれは確か……
 あ、オリーブの実だ!
 ターメリックが気がつくよりも早く、隣でクランが身を乗り出していた。
 料理人としての瞳が光っている。

「オリーブは、スプーン村の特産品でしてね。ほかの村や王都へ売るんです。そして、そのお金でほかの村の特産品を買って、経済を回しているんですよぉ」

 ディッシャーの説明をふむふむと聞くターメリックの隣で、クランは待ちきれないとばかりに手を挙げて尋ねた。

「ほかの村にも、特産品があるんですか!?」
「ええ、もちろんです。フォーク村ではレモン、ナイフ村ではトマトが有名ですよ。それはもう頬が落っこちるくらいに美味しくて……今度、食べさせてあげましょうねぇ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」

 勢いよく頭を下げるクランに、ディッシャーは「やはり面白い方ですねぇ」と笑っていたが、料理人クランの耳には届いていないらしい。
 少し離れたところにいたノウェムがターメリックに近づいてきて「まるで別人だな」と囁いた。

 そうなんだよ。
 クラン君は食べ物の話になると、素直なクラン君になるんだよ。
 ……と、教えようと思ったターメリックだったが、黙っていたほうがこの先ずっと面白いような気がして、微笑んで頷くだけにしておいた。


つづく
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