約束の虹は8色に輝いて

鐘雪花(かねゆきはな)

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第4章 愛

第14話 戻ったものは

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◆◇◆☆◆◇◆◇


 なんでもお見通しって、まさにこのことね……
 レードル姫は驚きすぎて相槌すら打てなかったが、そのとき横から、

「あっ! だからクィントゥム君、あのとき変な顔してたんだ!」

 ターメリックが口を挟んできた。
 クィントゥムは「変な顔?」と眉を寄せたが、ターメリックが勢い込んで「そうだよ、偽物なのかと思ったもん」と言ったので、慌ててその口を塞いだ。

「あー、えっと……申し訳ない、話が逸れてしまいましたが、なぜ姫様がお困りだとわかったかといいますと……私も先日、同じように魔法が発動しなくなって困ったからなのです」
「えっ?」

 わたしと、同じ……?
 首を傾げるレードル姫に、クィントゥムは「はい」と頷いた。

「これは私の体験から導き出した答えなのですが……伝説の剣は、持ち主の精神状態によって使えなくなることがあるようなのです」
「持ち主の、精神状態……」
「レードル姫様も、何か心配事や悩み事などがおありだったのではありませんか?」
「……」

 心配事や、悩み事……
 ああそうか……
 わたしは、魔法が使えなくなった自分は必要とされないと思って心配して、ひとりぼっちが続いたらどうしようかと悩んでいたんだわ。
 自分のことばかり考えていたのね。
 愛の剣に見放されそうになって、魔法が使えなくなるのも当然よ。
 だって……
 人のために尽くすのが、愛なのだから。

「……ええ、そうね」

 顔を上げると、クィントゥムの親しげな瞳と目が合った。
 同じ体験をして、同じように困っていた仲間に、レードルは自信を持って告げた。

「ずっと自分のことばかり考えていたけれど、それをやめてみたの。そうしたら、また魔法が使えるようになった……愛って、そういうものなのね」
「はい。私がお教えするまでもありませんでしたね」
「もっと早くあなたに会えていたら、必ず教えてもらっていたと思うわ」
「恐れ入ります」

 クィントゥムが軽く会釈したところに、フライパン塔の入り口から「おーい!」と声が聞こえてきた。
 キィオークたちよりも早く脱出できたらしいクランとノウェムが、こちらに向かって駆けてきていた。
 真っ先に声をかけたのは、口を塞がれたまま「もごもご」していたターメリックだった。

「クラン君! ノウェム君! お疲れ様!」
「うん、すごく疲れた」
「お前を庇いながら走ってたオレはもっと疲れた!」

 ノウェムはクランの背中に向かって声を荒らげたが、当のクランは眠そうな顔をしてどこ吹く風のようである。
 このふたり、いつもこんな感じなのかしら。
 だとしたら……
 毎日、楽しそうね。
 レードル姫がくすくすと笑っていると、クランに相手にされなかったノウェムが「それにしても」とレードル姫に笑いかけた。

「レードル姫様の魔法、素晴らしかったです! な? クランもそう思ったよな!?」
「は。当たり前じゃん。言われるまでもないよ」
「いや何で怒ってんだよ……とにかく、オレたちは近くで見られなくて残念だったんですよ」
「あ~あ、ノウェムについていった僕が馬鹿だった」
「それで怒ってんのか……ってかオレのせいかよ」

 ふふっ……
 大丈夫、これから何度だって見られるわ。
 レードル姫がふたりのやり取りを微笑ましく見守っていると、犯人たちの対応を任されていたコーヒーミルがクィントゥムを呼びに来た。
 クランとノウェムは、そのクィントゥムについて行ってしまったが、ターメリックはその場に留まっていた。

「あなたは、行かないの?」
「あ~、ぼくが行ってもわからないだろうし……それに、シノワ姫様にお会いしたいなと思って。あ、もしかして……あの方、ですか?」

 ターメリックが手のひらで指した先を見ると、フライパン塔の入り口から、ケトルがシノワ姫を肩に抱いて現れた。
 ターメリックは目を凝らして「へぇ~」と呟くと、レードル姫の口癖だった言葉を口にした。

「シノワ姫様って、銀髪なんですね! なんだか積もったばかりの新雪みたいで、とてもステキです」
「ふふっ、そうでしょう? わたしもそう思っていて、大好きなの! 声だって……本当はとてもキレイな声で、いつもわたしのことを」
「レードルさーん!」
「って呼ぶのよ……えっ!?」

 い、今、シノワ姉様の声が……!
 戻ったの!? いつ!?
 レードル姫が凝視した先で、ケトルの肩に乗ったシノワ姫が手を振っていた。
 火事の後遺症で声を失ったシノワ姫……
 そのシノワ姫が、自分の名前を呼んでいる。
 レードル姫は、ターメリックと一緒にケトルのもとへと駆け寄った。
 シノワ姫はケトルに降ろしてもらうと、ふたりに優雅な礼をしてみせた。

「レードルさんと、そのお仲間の方ですわね。ありがとう、こうして無事に戻ることができました」
「え、えっと、ぼくは何も……」
「姉様っ! 声が……!」

 レードル姫が目を丸くしていると、シノワ姫はにっこりと微笑んだ。
 そして、無事に取り戻した声で説明してくれたのだった。

「実は、フライパン塔の中で、ケトルが後ろから襲われそうになって……それに気づいていたのは、おそらくわたくしだけ。だから、思わず叫んでいたのでしょう」

『あ……け、ケトル! 後ろ……っ!』

「……今でも、驚いています。どれだけ手を尽くしても出なかった声が、こうして元通りに戻るなんて……おかげで、ケトルのことも助けることができました」
「シノワ姫様のおかげで、こうして怪我ひとつなく、無事に塔を脱出できました。御恩は一生忘れません」
「こちらこそ……ケトルが真っ先に助けに来てくれて、とても嬉しかったのですよ。ありがとう」

 シノワ姫の後ろに控えていたケトルは、シノワ姫の言葉に深々と頭を垂れた。
 そんな律儀なケトルを見て、シノワ姫は嬉しそうに微笑んでいた。
 ああ、懐かしい……
 やっと、日常が戻ってきたんだわ……
 レードル姫の心に、温かな空気が広がっていく。
 こんなに嬉しい気持ちになったのは、いったいいつ以来だろう……
 胸に手を当てて懐かしさを味わっていると、シノワ姫が「もうすぐ夜が明けますね」と口にして、空を指さした。
 王都タジンより東のグラス地方、その地平線が薄青に染っていた。
 もうすぐ朝日が顔を出すのだろう。

 シノワ姫はケトルに「朝日が見たい」と頼んで、ともにミルクパン城の屋上へと向かった。
 レードル姫もついて行こうと思ったのだが、ここはふたりきりにしてあげたほうがいいような気がして、手を振りながら見送った。
 愛とお節介は、紙一重である。


★◇◆◇◆◇◆◇


 シノワ姫様、ステキだったなぁ。
 やっぱり第1王女様だもんね、ぼくなんて「使命」がなければ会うことも名前を知ることもなかったろうなぁ。
 いまだに焦げ臭い裏庭にて、ターメリックは先ほどのシノワ姫とのやり取りを思い出していた。
 しかし、一言だけ言葉を交わして、それ以上は何もなかったので、思い出すというには少なすぎる思い出だった。
 しかし、ターメリックは満足していた。

 まあ、あとひとつ欲を言えば……
 もう少し活躍したかった、かな。
 この先、ぼくの出番ってあるんだろうか……
 ターメリックは、裏庭の中央で繰り広げられている出来事を、レードル姫とともに遠巻きに眺めていた。

 数日前に見たものと、まったく同じ光景が目の前に広がっている。
 白み始めた空の下、あの3人組が拘束され、その眼前にはクィントゥムが腕を組んで立っていた。
 ターメリックのいる場所からでは後ろ姿しか見えないが、その格好良さはひしひしと伝わってくる。
 何喋ってるんだろう。
 わからないくせに、気にはなるもんなぁ。
 ターメリックは、呑気に眺めていた。


つづく
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